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「原爆投下は道徳的に正しかった」と言った、超タカ派ボルトン元補佐官はウクライナ戦争をどうみているのか

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
人道的理由から、ボルトン氏はウクライナ西部に飛行禁止空域を設定すべきと言及。(提供:Ukraine Military/ロイター/アフロ)

 ロシア軍がウクライナ侵攻を開始してから2週間以上が過ぎた。

 ロシア軍の攻撃が激化する中、ウクライナに戦闘機を供与するよう求めたゼレンスキー大統領。しかし、ポーランドもアメリカも、同地に直接戦闘機を送ることはプーチン氏に参戦と見なされるため、送ることを拒否した。

 同様に、プーチン氏に参戦と見なされる恐れから、NATOはウクライナ上空に飛行禁止空域(no-fly zone)を設定することを否定した。飛行禁止空域を設定すると、ロシア軍の戦闘機がその空域に侵入した場合、ウクライナ軍はスクランブルをかけたり撃墜したりすることが可能になる。

 そんな中、トランプ氏をして「彼の言うことを聞いていたら、第6次世界大戦まで起きていた」と言わしめ、「原爆を投下したことは道徳的に正しかった」と言及したこともある元国家安全保障問題担当大統領補佐官のジョン・ボルトン氏が様々なメディアで声をあげている。

 ボルトン氏はウクライナ戦争をどのようにみているのか?

侵攻の抑止に失敗したバイデン政権

 ボルトン氏は、米保守系メディアNewsmaxで、バイデン政権が、ロシアが侵攻する前に制裁を科さなかったことが大きな失敗だったと批判している。

「侵攻の抑止に失敗した。そして、我々は今、その結果起きていることを目の当たりにしている。侵攻の前に、プーチンに侵攻の代償をリアルタイムに感じさせる必要があったと多くの人々が主張していたが、それがなされなかったのだ」

 また、「プーチン氏のウクライナ侵攻という判断をさらに断固たるものにしたのは、アフガンからの撤退だった」と米軍のアフガニスタンからの撤退もプーチン氏のウクライナ侵攻に影響を与えたとみている。

交渉では戦争は終結しない

 ロシアとウクライナは停戦交渉を重ねているが、ボルトン氏は停戦交渉では戦争を終結させることはできないと明言。

「プーチンは目的を達成していないので、停戦交渉をしても妥協点には達しないだろう」

 今後の戦況については「ロシア軍は戦略的にも作戦的にもたくさんの失敗をしているので、プーチンは戦闘をさらに激化させる」と予測する。

 アメリカでは、先日、プーチン氏を戦争犯罪人として調査すべきとする法案も提出されたが、ボルトン氏は、プーチン氏を戦争犯罪違反で調査したり起訴したりしても、戦争を止めさせられないと言う。

「戦争犯罪人の裁判にようやく取り掛かる時は、戦争が終結してからずいぶん時間が経っていることだろう。プーチンはそのことを知っている。そんなこと(戦争犯罪違反としての調査や起訴)を主張しても、プーチンを絶対に止めることはできない」

ウクライナ崩壊を傍観しているだけのNATO

 では、どうしたら、プーチン氏に戦争を止めさせることができるのか?

「本当に彼を止めるには、ロシアが戦争は価値よりも犠牲が大きいことがわかるよう、ロシアに十分なコストを科すことだろう」とボルトン氏は言う。

 コストというと、今、西側諸国はロシアに経済制裁を科しているが、同氏は、ロシアはそれを適応させて緩和できるとし、「ウクライナではNATOの結束の効果が出ていない。武器や情報の供与は支持し続けるが、もっとクリエイティブにできることをしなければならない」とNATOの対応を疑問視している。

 英BBCのインタビューでも同氏は「本当の問題は、NATOがウクライナの崩壊をただ傍観しようとしていることだ」、「プーチンは頭がおかしくなっているとは思わない。彼は冷酷で、厳格で、計算高い男なのだと思う。彼はロシア軍のパフォーマンスにとてもイラつくだろう。しかし彼は後には引かない。彼は武力がわかっているからだ。我々は彼の侵攻を抑止できず、今も抑止しておらず、NATOのリーダーたちは軍事力を使わないと言っている。今後どう進めて行こうというのか?」とNATOが手をこまねいている状況に怒りを禁じえない様子を見せた。

ウクライナ西部に飛行禁止空域を

 ボルトン氏はまた、Newsmaxでバイデン政権やNATOが飛行禁止空域の設定を否定したことも問題視している。

「NATOは軍事力を飛行禁止空域の設定という形で使っても、それは必ずしもヨーロッパでの全面戦争には繋がらないと思う。ウクライナ西部に人道目的の飛行禁止空域を見られたら嬉しい」

 ボルトン氏だけではなく、議員の中からも、飛行禁止空域の設定を求める声があがっている。共和党上院議員のロジャー・ウィッカー氏は飛行禁止空域によるウクライナ支援というオプションを排除したバイデン氏を批判し、「何万人もの女性や子供がキエフから逃げ、国際社会が踏み込む必要がある人道危機が生まれている」と主張、民主党上院議員のジョー・マンチン氏もアメリカは飛行禁止空域の設定というオプションを保持すべきだと述べた。

 また、Reuters/Ipsos の世論調査でも、支持政党によらず、米国民の74%が、ウクライナ市民を守るための飛行禁止空域の設定を支持している。

 確かに、キエフがロシア軍に包囲されて攻撃されれば、多くの死傷者が出ることは必至だ。また戦争が長期化すれば、より多くの犠牲者が出て、人道危機はいっそう深刻化する。

 第2次世界大戦では、アメリカは、戦争を早期に終わらせるために原爆を投下したと言われている。それにより、さらなる犠牲者が出るのを防ごうとしたのだ。それが、ボルトン氏が「原爆投下は道徳的に正しかった」と考えるゆえんだ。同じ考えから、同氏は、飛行禁止空域の設定に肯定的なのだろう。しかも、同氏は、前述したように、飛行禁止空域を設定してもヨーロッパでの全面戦争には必ずしも繋がらないという見方をしている。超タカ派で好戦的と言われているボルトン氏らしい見方だ。

ロシアと戦争することはない

 しかし、NATOはもちろん、米政府関係者や識者からは、飛行禁止空域の設定は西側諸国の参戦とプーチン氏に見なされて世界大戦に繋がるリスクがあるとして、設定を否定する声が圧倒的に多い。

 マルコ・ルビオ共和党上院議員も「飛行禁止空域の設定は、第3次世界大戦の始まりを意味する」と訴えている。

 世界大戦は絶対に避けなければならない。しかし、戦闘の激化や長期化により犠牲者の数は増加していく一方だ。化学兵器や生物兵器が使用される危険性もある。

 バイデン大統領は11日、ロシアが化学兵器を使用した場合、「厳しい代償を支払うことになる」と警告したものの、「我々がウクライナでロシアと戦争することはない」とあらためて直接的な軍事介入をしない方針を示したが、今後も、同じ姿勢を貫き続けるのだろうか? それとも、ある時点で、飛行禁止空域を設定するなどしてリスクを取る方向へと転換する可能性もあるのか? 今後の動きが注目されるところだ。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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