Yahoo!ニュース

今蘇るプーチン氏の4年前の不吉な発言「ロシアが存在しない世界が必要?」 米政治学者が懸念

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
プーチン氏は、敗北するくらいなら世界を殲滅させることを選ぶのか?(写真:ロイター/アフロ)

 ウクライナ最大の原子力発電所が砲撃された。放射性物質は放出されなかったというが、プーチン氏はもはや、ウクライナを掌握するためなら手段を選んでいないようだ。ロシア軍は各地で制圧を進めており、プーチン氏は近隣国まで野心の手をのばすのではないかという声も聞かれる。

 気になるのは今後のシナリオだ。

 それについて、アメリカの政治学者のイアン・ブレマー氏は、GZERO World with Ian Bremmerの記事の中で、4つのシナリオに言及している。1つ目は停戦交渉がうまくいく可能性は低いこと、2つ目は交渉がまとまらずプーチン氏がウクライナから退くこと、3つ目はロシア内で拡大する反戦デモや新興財閥からの圧力でプーチン氏が排斥されること、4つ目は戦況がさらにエスカレートすること。この中では、4つ目の可能性が最も高いとし、より多くのロシア軍がウクライナに配備され、爆撃も激化し、多くの人々の命が失われることになると見ている。

 確かに、プーチン氏は、ウクライナ側が抵抗を止めてロシア側の要求を満たさなければ軍事作戦を止めないと強硬な姿勢を示しており、戦況が今後もエスカレートするのは必至だ。

プーチン氏がしていた“不吉な発言”

 ブレマー氏が戦況がエスカレートすると懸念しているのは、プーチン氏が、2018年にある“不吉な発言”をしており、その同じ発言をロシアの国営テレビのショーの司会者が、2月27日、プーチン氏が核使用の可能性をチラつかせた数時間後に繰り返していたことも背景にあるようだ。

 プーチン氏のその発言とは「ロシアが世界に存在しないとしたら、なぜ世界が必要?」というもの。

 ロシアの国営テレビの司会者はまた、プーチン氏の発言を繰り返すとともに、「我々の潜水艦は500以上の核弾頭を発射することができ、アメリカと全NATO諸国の破壊を保証している」とも発言している。

 独立系のモスクワ・タイムズ紙はこの発言について、“核戦争の不吉な暗示”と指摘している。

 アイリッシュミラー紙によると、この発言はもともと、2018年に放送されたロシアのドキュメンタリー「ザ・ワールド・オーダー2018」の中でプーチン氏がした「もし、誰かがロシアを滅ぼすことを決めたら、我々はそれに対抗する法的権利がある。そう、それは人類と世界にとって破壊的なものになるだろう。しかし、私はロシア市民であり国家元首だ。ロシアが世界に存在しないとしたら、なぜ世界が必要?」という発言の一部だ。

 ちなみに、当時、ロシア・タイムズもプーチン氏のこの発言を「ロシア市民として、また国家元首として、私は自問しなければならない。なぜ我々はロシアのない世界を欲する?」と紹介している。

 ブレマー氏は、プーチン氏のこの発言について「プーチンは、敗北を受け入れるくらいなら世界を焼き尽くすのだろうか?」と懸念を示している。

危険な“解釈のズレ”

 ブレマー氏は、また、西側諸国とプーチン氏の間では“解釈のズレ”があることを指摘している。

「西側諸国の指導者たちは、自分たちがロシアに対して宣戦布告をしたとは思っていないが、ロシア政府は宣戦布告だと考えている。不当にそう考えている。ロシアの見方がどんなに笑えることだとはわかっていても、現状をめぐるこの解釈のズレは危険だ」

 確かに、西側諸国はウクライナに武器供与をしたり、ロシアに経済制裁を加えたりはしているものの、ロシアに軍隊を派遣することによる直接的な戦争はしていない。しかし、プーチン氏は西側諸国からの様々な圧力=戦争と捉えているというのだ。この認識のズレは大きく、懸念すべきことではないか。実際、プーチン氏も「制裁は宣戦布告と同じようなものだ」と発言している。

 プーチン氏が制裁を宣戦布告と捉えているとしたら、同氏がその制裁に対してどう反応するかが非常に危惧されるところだ。ブレマー氏も「エスカレートさせないためにも、我々は対応には慎重になり、プーチン氏が受けるに値することだけではなく、プーチン氏がどんな反応をするのかも考慮する必要がある」と訴えている。確かに、プーチン氏は制裁を受けるに値するが、制裁ばかり考えていては状況はエスカレートするばかりかもしれない。

プーチンは敗北

 ところで、ロシアがすでに西側諸国との戦争に入っていると見ているにしても、プーチン氏はこの戦争に勝てるのか? ブレマー氏は、今後の戦況については「プーチンはウクライナとの戦闘には勝つだろうが、戦争にはすでに負けてしまった」という見方をしている。

 ウクライナには勝っても、世界から経済制裁を受け、西側諸国の多くの多国籍企業に見離され、EUやNATOが結束を強め、分断していたアメリカが対ロシアという点で結束している状況が生まれたことにより、ロシアはすでに負け、弱体化したというのだ。

 すでに敗北しているとブレマー氏がみるロシア。プーチン氏は敗北を認めるくらいなら世界を焼き尽くそうと考えるのだろうか? 

 「ロシアが世界に存在しないとしたら、なぜ世界が必要?」というプーチン氏の発言を、今、我々は、核戦争にまでは発展しないと軽視するのではなく、シリアスに受け止めなければならないのではないか?

(参考記事)

Putin may win the battle for Ukraine, but he has already lost the war

The West is at war with Russia. Here’s what that means for the world.

(関連記事)

「狂っている」「パラノイアだ」「核使用リスクはたくさんある」プーチン氏を危険視する声、米要人から続々

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

飯塚真紀子の最近の記事