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夫婦で39言語に翻訳されるベストセラーの映画化へ。主人公の二人は、わたしたちに似てるかも?

水上賢治映画ライター
「帰れない山」より

 この世界の中で、自身はどう生きていけばいいのか、自分にとっての居場所はどこなのか?

 生きていく上で、自身の心の拠りどころはどこにあるのか?

 自身にとって大切な人は誰なのか?

 先の見えない将来とどう向き合い、自身の歩むべき道はどうすれば拓けるのか?

 自身のルーツとは、戻れる故郷とは?

 映画「帰れない山」は、このように自らの人生と重ね合わせ、そして自らを問う一作といっていいかもしれない。

 原作は、世界39言語に翻訳されるベストセラーとなっているイタリアのパオロ・コニェッティによる同名小説。

 北イタリアのモンテ・ローザ山麓を舞台に、都会育ちの少年ピエトロと、「村最後の子ども」と言われる牛飼いの少年、ブルーノという対照的な二人を通して、人生の光と影が描かれる。

 世界的ベストセラーに何を見出し、何を描こうとしたのか?

 手掛けたフェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲンとシャルロッテ・ファンデルメールシュの両監督に訊く。全五回

フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン監督(右)とシャルロッテ・ファンデルメールシュ監督
フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン監督(右)とシャルロッテ・ファンデルメールシュ監督

将来の見えないピエトロの苦悩はわかるところがあります

 前回(第三回はこちら)は、原作を友情物語ではなく、ラブストーリーとして描きたいと思った真意について語ってくれた両監督。

 この物語についてもうひとつ聞きたいのは、本作は、結婚も就職もままらなず、将来がまったく見通すことができないピエトロの心情が克明に描かれる。

 自分はなにをしていいか、彼は自分の居場所も仕事もなかなか見出すことができない。

 その中で、さまざまな人生経験を積みながら自身の進むべき道を切り拓いていく。

 フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲンとシャルロッテ・ファンデルメールシュの両監督は、若いころ、ピエトロのようないばらの道を歩むことはあっただろうか?

フェリックス「その質問にきちんと答えるにはものすごい時間が必要で、ここで手短にまとめるのはちょっと難しいかな(苦笑)。

 ただ、ピエトロの苦悩はやはりわかるところがあります。

 彼はなかなか自分の進むべき道を見つけられない。自分が熱中できるものを探しているけれど、なかなか『これ!』という手ごたえを感じるものにはめぐりあえない。

 また、彼は普段は都会に住んでいるけれども、どうも自分は馴染めないところがあることをわかり、居心地の悪さを感じ続けている。

 一方で、母が暮らす村でもあるモンテ・ローザの山麓でブルーノと出会って友情を育む中で、この地に愛着がわいてひとつの故郷と感じるようになる。

 ただ、ブルーノのは無二の親友ではあるのだけれど、『村最後の子ども』と言われ、牛飼いとして生きることをある種、宿命づけられた彼の存在を感じれば感じるほど、この土地で生きてきたわけではない自分を感じて、『よそ者』といった意識が強くなってくる。

 そういったこともあって、ピエトロはどこにも自分の居場所を見出せない日々が続く。

 こういう経験は、ほとんどの人間が経験することではないかと思います。

 僕は比較的早い段階で、この道でやっていこうとなったけど、それでもやはり先がみえない時期があった。

 映画作りなんて、ちょっとストップがかかったり、頓挫しかけたりすることは珍しくない。順風満帆に進むことなんてほとんどないですから(苦笑)」

「帰れない山」より
「帰れない山」より

ブルーノはフェリックスで、わたしはピエトロだと思いました

シャルロッテ「わたしも同じです。

 ピエトロの苦悩というのは、みなさん経験があることではないでしょうか?

 わたし自身、今回、映画監督に初挑戦したわけで、いまだにいろいろと模索している状況です。

 キャリアで考えると、フェリックスは一貫してやってきたと思います。

 映画作家としての道をずっと歩み続けて、自分の実現させたいプロジェクトを成し遂げてきた。

 その中ではうまくいったこともあれば、うまくいかなかったこともあるけども、映画作家という道からは一度も外れないでここまでやってきている。

 一方で、わたしはというと、ベルギーのヘルマンテアリンク・インスティテュートでまず演劇芸術を学びました。

 そのあと、劇団で数多くの演劇作品に出演して俳優としてキャリアを積みました。

 で、前に話したように『オーバー・ザ・ブルースカイ』で脚本に参加し、今回の『帰れない山』では映画監督に取り組んでいる。

 そのときどきで、変化している。なにかを『表現する』ということは一貫しているのだけれど、その表現の方法というのは限定しないできている。

 どんな表現にもチャレンジして、何か求められたら、必要とされたら、それに飛び乗ってみるということを繰り返している。

 また、そういう状況を自分が好んでもいる。

 でも、どこか自分は根のようなものがないというか。

 しっかりとした軸みたいなものがないような気がして……。

 もっと地に足のついた形で物事に取り組んだ方がいいのではないかと、悩むことがあります。

 ですから、なかなか自分の道を見つけられないピエトロの気持がわかるところがあります。

 ちょっと余談になるんですけど、フェリックスとわたしの間の会話で笑ってしまったことがありました。

 二人で話していて、わたしはピエトロのようで、フェリックスがブルーノのようだという話になったんです。

 どういうことかと言うと、ブルーノはひとつの土地に根差して、ひとつの山だけをみて、自分の人生を追求し続けた。

 一方で、ピエトロはもういろいろなところを旅してまわり、8つの山をめぐり、遠回りして遠回りして、ようやく自分の人生を見出すことになる。

 まさにブルーノはフェリックスで、わたしはピエトロだと思いました」

(※第五回に続く)

【「帰れない山」監督インタビュー第一回はこちら】

【「帰れない山」監督インタビュー第二回はこちら】

【「帰れない山」監督インタビュー第三回はこちら】

「帰れない山」ポスタービジュアル
「帰れない山」ポスタービジュアル

「帰れない山」

監督・脚本:フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン&シャルロッテ・ファンデルメールシュ

原作:「帰れない山」著:パオロ・コニェッティ 

翻訳:関口英子(新潮クレスト・ブックス)

出演:ルカ・マリネッリ、アレッサンドロ・ボルギ、フィリッポ・ティーミ、エレナ・リエッティ

公式サイト http://www.cetera.co.jp/theeightmountains/

全国順次公開中

写真はすべて(C)2022 WILDSIDE S.R.L. – RUFUS BV – MENUETTO BV – PYRAMIDE PRODUCTIONS SAS – VISION DISTRIBUTION S.P.A.

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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