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39言語に翻訳されるベストセラーの映画化へ。「実はずっと最後まで読み終えられずにいました(苦笑)」

水上賢治映画ライター
「帰れない山」より

 この世界の中で、自身はどう生きていけばいいのか、自分にとっての居場所はどこなのか?

 生きていく上で、自身の心の拠りどころはどこにあるのか?

 自身にとって大切な人は誰なのか?

 先の見えない将来とどう向き合い、自身の歩むべき道はどうすれば拓けるのか?

 自身のルーツとは、戻れる故郷とは?

 映画「帰れない山」は、このように自らの人生と重ね合わせ、そして自らを問う一作といっていいかもしれない。

 原作は、世界39言語に翻訳されるベストセラーとなっているイタリアのパオロ・コニェッティによる同名小説。

 北イタリアのモンテ・ローザ山麓を舞台に、都会育ちの少年ピエトロと、「村最後の子ども」と言われる牛飼いの少年、ブルーノという対照的な二人を通して、人生の光と影が描かれる。

 世界的ベストセラーに何を見出し、何を描こうとしたのか?

 手掛けたフェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲンとシャルロッテ・ファンデルメールシュの両監督に訊く。全五回

フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン監督(右)とシャルロッテ・ファンデルメールシュ監督
フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン監督(右)とシャルロッテ・ファンデルメールシュ監督

実はすぐに原作を手にしたのですが、読み終えることがなかった(苦笑)

 前回(第一回はこちら)は、本作を夫婦である二人が共同監督を務める形で制作した経緯を訊いた。

 それに続き、今回の作品は現代イタリア文学の旗手として知られるパオロ・コニェッティの同名小説をもとにしている。

 この原作は、世界39言語に翻訳され、イタリア文学の最高峰と言われるストレーガ賞やフランス最高の文学賞と呼ばれるメディシス賞の外国小説部門など数々の文学賞に輝いている。

 この世界的なベストセラーである原作を映画化するに至った経緯についてこう明かす。

フェリックス「まず、ヨーロッパで出版された直後、2018年ごろだったと思いますが、興味があったので本を買って読み始めたんです。

 ただ、正直なことを言うと、読み始めたことは読み始めたのですが、読み終えることがなかった。

 この時期、いろいろと立て込んだこともあって、本を読み始めたものの中座してしまったんです。

 ただ、この原作のことはどこか頭の片隅にずっとあったんです。

 というのも、周囲の何人もから伝えられていたんです。『すばらしい原作なので映画化してもいいんじゃないか?』と。

 で、あるとき、『(この原作を)映画化しないか』とイタリアの制作会社から今度は連絡を受けたんです。

 そこでもう先延ばしにはできないと思って、改めて原作をちゃんと最後まで読み切ろうと思いました。

 実際にすぐ読み始めたのだけれど、今度は最後まで読み切ることができました。

 読み終えた感触としては、すごく良かった。素直に『映画にしたい』と思いました。

 そこからもう一気に物事が動き始めて、映画作りが本格的にスタートしました」

「帰れない山」より
「帰れない山」より

原作者のパオロ・コニェッティとの意見交換

 原作者のパオロ・コニェッティにも直接会って、いろいろと意見交換したという。

フェリックス「自分がこの原作を前にしてどういうふうに物語を語っていけばいいのか、まだ模索している段階で、原作者のパオロ・コニェッティと会うことができました。

 彼は今回の舞台となるような山で実際に暮らしているのだけれど、そこに直接いって、いろいろと案内してもらいました。

 そのことで、この物語の世界観や自然の在り様を感じることができました。

 このような形で、彼と時間を共有できたことで、作品の道筋が見えたところがありました」

 また、この原作を前にしたときが、まさに夫婦でなにかしようと考えていた時期でもあったという。

シャルロッテ「前にお話したように、わたしとフェリックスは『オーバー・ザ・スカイ』の経験から、どこかで二人でタッグを組んで映画を作ろうと構想していた。

 でも、やりたい気持ちはあったものの、それが何であるかは見つからずにずっときていた。

 そういった中で、この時期というのは、ちょっとしびれを切らしていたというか。

 『そろそろ二人で』という思いがちょうど強くなっている時期でした」

フェリックス「ほんとうにそういう時期で、僕もパオロ・コニェッティの原作を前にしたとき、『これこそ二人で取り組むべきものではないか』と思いました。

 この原作というのは物語が重層的でいくつものレイヤーがかかっている。

 ストーリー自体はひじょうにシンプルなのだけれど、そこにいろいろな意味が含まれていて物語はすごく豊かなんです。

 だから、二人の視点を合わせることで、より洗練された、より奥深いものにできるのではないかと考えました。

 これこそシャルロッテと一緒にやるべきものではないかと思いました」

共同監督の打診はキッチンで

 そしてキッチンで「共同監督をしないか」と打診したという。

シャルロッテ「ほんとうにキッチンで告げられました。

 最初のバージョンの脚本を書き終えたばかりのタイミングでした。

 わたしとしては『もちろん』という気持ちでしたね(笑)」

(※第三回に続く)

【「帰れない山」監督インタビュー第一回はこちら】

「帰れない山」ポスタービジュアル
「帰れない山」ポスタービジュアル

「帰れない山」

監督・脚本:フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン&シャルロッテ・ファンデルメールシュ

原作:「帰れない山」著:パオロ・コニェッティ 

翻訳:関口英子(新潮クレスト・ブックス)

出演:ルカ・マリネッリ、アレッサンドロ・ボルギ、フィリッポ・ティーミ、エレナ・リエッティ

公式サイト http://www.cetera.co.jp/theeightmountains/

全国順次公開中

写真はすべて(C)2022 WILDSIDE S.R.L. – RUFUS BV – MENUETTO BV – PYRAMIDE PRODUCTIONS SAS – VISION DISTRIBUTION S.P.A.

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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