ノート(114) 「人質司法」のツケと捜査報告書のねつ造
~整理編(24)
勾留88日目
「人質司法」のツケ
この日のラジオのニュースでは、前日である12月17日に行われた大坪さんと佐賀さんの第1回公判前整理手続に関する報道があった。両名とも、公判では犯人隠避の事実を全面的に否認するという。
具体的には、捜査段階と同じく、故意の改ざんではなく、単なる過誤事案だと考えていたと主張するとのことだった。
ただ、この主張の最大の弱点は、「だったらなぜすぐに高検や最高検に上申せず、重大事件の捜査過程で過誤があったとして外部に公表せず、しかも厚労省元担当課長らの公判をストップせず、問題の文書データを解析するなど徹底調査をせず、一から証拠関係を見直すことすらしなかったのか」といった反論に対し、何ら説得力のある返答ができないということだった。
そもそも「故意ではなく過誤だ」というのは僕や大坪さん、佐賀さんらが事件後に作り出した「架空のストーリー」にすぎなかった。練り上げてもおらず、実にもろい話でもあった。大坪さんらとしては、僕から過誤だと説明されてだまされた、國井君も僕とグルだった、といった弁解をせざるをえなくなるわけだが、これもまた実に苦しい。
この件は当時から複数の検事の知るところとなっていたし、検察側から開示された関係者の供述調書を読む限り、厚労省事件の公判主任である白井君は間違いなく大坪さんらの裁判でも彼らによる隠ぺい工作の全貌を理路整然と語ると思われたからだ。
さすがに大坪さんらの弁護団としても、白井君が作り話をする具体的な理由など挙げられないだろう。
間違いなく裁判所も、白井君の証言だけで有罪の心証をとるだろうし、佐賀さんのメモや手帳、僕や國井君、塚部さんらの証言でその心証をガチガチに固めるに違いなかった。
ニュースによると、大坪さんらの弁護団は、起訴直後に続き、週明けにも再び保釈請求をするという。今でこそ保釈許可率は増加傾向にあるし、否認事件でも比較的早い段階で保釈されている。
しかし、この当時はまだその段階には至っておらず、それこそ公判前整理手続が始まったばかりの時期でもあり、間違いなく裁判所に却下されるものと思われた。現に、この二度目の保釈請求は却下されている。
特捜部が被疑者や被告人を追い詰め、あきらめさせ、自白を迫るために利用してきた「人質司法」のツケが、そのまま自分たちにも回ってきたというわけで、実に皮肉な話だった。
勾留92日目
入れ替わり
その後の数日間は、約2か月ぶりとなる居室内点検を受けたり、弁護人との接見で開示証拠の検討結果を相談するなどした。隣室の被告人は年末に向けて執行猶予の付いた温情判決を受けたようで、夕方にいったん居室に戻ってきて、そのまま拘置所から出ていった。
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