「ウクライナの森」が日本に輸入される裏事情
続くウクライナ危機。ロシア侵攻による人道面での心配も強いが、同時に世界経済に与える影響も深刻になってきた。もはやコロナ禍を超える「ロシア禍」と呼べるかもしれない。先に
という記事を執筆した。木材価格が高騰した「ウッドショック」はせっかく収まりかけていたのに、ロシアへの経済制裁によってどのような影響が出るのかと、その時点で推測できる点を指摘した。
だが、肝心のウクライナでも林業は行われており、日本へ木材を輸出していることに気づき、調べてみた。
まずウクライナは、国土面積 6037万ヘクタールのうち 976万ヘクタールが森林で、森林率は 16.5%。この数字だけを見れば、森林は少なそうに感じるが、雄大なカラパチア山脈が西部を縦断している。ウクライナで山と言えばカルパチアなのである。そしてここは、アカマツやトウヒなどの針葉樹林とナラなど広葉樹林に覆われた森林地帯だ。
実はウクライナで起きている戦闘の報道を目にしていると、背景などに森林が映っていることも多々あり、そこに炎や閃光が立ち上ると心が痛む。
2021年の日本の製材品輸入統計では、最大の相手国はカナダで、ついでロシア、スウェーデンと続く。 ウクライナは14位だったが、輸入量は4万6837立方メートルだった。これは総輸入量の 0.9%だ。
これならたいした量ではないと思ってしまうのだが、実は厄介な問題がある。それは隣国のルーマニアだ。日本がルーマニアから輸入する製材品は、7位の13万9402立方メートルで2.8%。ところが、ルーマニアの日本向けの製材工場はウクライナ国境にあり、原料の大半がウクライナから供給されていると思われるのだ。
しかも、それは違法伐採されたもの、言い換えると盗伐の疑いが濃い。ウクライナの森林から明らかに違法に伐りだされたもののほか、合法か否かが明確でなく、環境破壊的な伐採が行われた可能性のあるグレーな木材の可能性が高いのだ。
すでに国際的な環境NGOは、ウクライナ政府の森林セクターが広範囲の違法伐採をしており腐敗している点について報告書を発表している。以前よりルーマニアおよびウクライナでは汚職が蔓延していることが問題になっていたが、木材もその対象になっている疑いが濃厚なのだ。
ルーマニアから出荷される製材は、多くが集成材である。それは、オーストリアのシュバイクホファー社を通じて日本に輸出されていた。
つまり日本には、直接輸入されるウクライナ材だけではなく、日本の集成材輸入量2位のオーストリア、4位のルーマニアの分にもまぎれて、ウクライナの木材が日本に入って来ると想像できるわけだ。それも森林破壊をともなって。
こうした問題については、以前にも記した。
もし身近に新築の住宅があったら、柱などになっている白い木材(ホワイトウッド)を確認してみよう。たいていヨーロッパ製の集成材で、それがウクライナ産の木材である可能性も少なくないだろう。
ほかにもウクライナ材は、墓地などに立てる卒塔婆塔にも使われているらしい。意外と多くの木材がウクライナから日本に入っていたことに私も驚くが、おそらく今後しばらくは、流通システムが滞ると思われるから、日本への輸出は減少すると想像できる。
しかし洋の東西を問わず、国が乱れたときほど盗伐は増える。取り締まりが混乱の中で有名無実化してしまうからだ。むしろチャンスとばかり、より大胆な違法伐採が行われかねない。戦争が続く間、そして終息しても当面は行政の混乱が続くと予想されるから、違法な伐採が横行するのではないか。
本当は、違法伐採の疑いがある木材は、輸入元でも取り締まらなければならないのだが、日本の法律は、ザル法であることで有名だ。該当するクリーンウッド法は、適用は登録制で、違反しても業者に罰則がないのである。この法律の改定検討作業も始まるようだが、より厳密に適用するよう要望したい。
目の前の木材を見ても、その生産や流通を考えてみると世界情勢が浮かび上がる。ロシア材とルーマニア、ウクライナ材の動向は、気にかけておきたい。