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米社会、新型コロナ対応でも“分断”

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:ロイター/アフロ)

トランプ大統領の就任以来、政治的分断の度合いを深めている米社会だが、新型コロナウイルスに関しても、共和党支持者と民主党支持者との間で事態の受け止め方や対応の仕方に大きな差が出ている。トランプ大統領は13日、国家非常事態を宣言したが、国民の気持ちがバラバラの状態で、新型コロナの危機を乗り越えられるのだろうか。

有権者の評価真っ二つ

テレビ3大ネットワークのNBCニュースとウォール・ストリート・ジャーナル紙が11日から13日にかけて共同で実施した世論調査によると、トランプ大統領の新型コロナへの対応を評価すると答えた有権者は45%。逆に、評価しないは51%だった。

評価はほぼ真っ二つだが、これを回答者の支持政党別で見ると、共和党支持者の81%が対応を評価、逆に民主党支持者の84%が評価しないと回答した。

同調査では、トランプ大統領の仕事ぶり全般を評価するかどうかも聞いているが、それに対する答えも、評価するが46%、評価しないが51%で、新型コロナ対応への評価とほぼ一致している。

これらの結果からわかることは、米国の有権者は、トランプ大統領の新型コロナへの対応を、実際に打ち出した対策の中身よりも、トランプ大統領を好きか嫌いかで判断しているということだ。

旅行もレストランもキャンセルしない

興味深いことに、新型コロナをどう受け止めているかも、トランプ大統領の支持者とそうでない有権者との間ではっきりと分かれている。

調査結果を詳細に報じた政治ニュース専門メディアのポリティコによれば、回答者の41%が、新型コロナは個人の生活に大きな影響をもたらすと見ているが、内訳を見ると、民主党支持者では56%がそう答えたのに対し、共和党支持者では26%にとどまった。

また、旅行の計画を中止した、あるいはすると答えたのは、民主党支持者では47%にのぼったが、共和党支持者では約半分の23%。さらに、民主党支持者の36%が、レストランの利用を控えると答えたのに対し、そう答えた共和党支持者は3分の1の12%だった。

調査結果を見る限り、共和党支持者のほうが新型コロナを恐れていないように見えるが、それは、新型コロナに対する正しい知識や自身の万全の備えというよりは、トランプ大統領に対する揺るぎなき信頼から来ているようだ。

メディアとの溝一段と

メディアの報道も対照的だ。トランプ大統領に近い保守派のフォックステレビは、トランプ大統領の新型コロナ対応を好意的に伝えているが、トランプ大統領から「フェイク・ニュース・メディア」呼ばわりされ、犬猿の仲のCNNテレビは、批判的だ。

CNN(オンライン版)は、トランプ大統領が国家非常事態を宣言した翌14日、「トランプは、非常事態宣言を発令した後、彼のサイン入りの株価チャートを支持者に送った」という見出しの記事を配信した。

記事によると、トランプ大統領は、国家非常事態宣言を発令した会見を開いたのとほぼ同時刻に、支持者や一部の国会議員宛てにメッセージを送った。メッセージには、「会見が始まった時から、株式市場はその歴史の中で最も大きな日となった」という文言とともに、ダウ平均株価が非常事態宣言の発令を受けて急反発したことを記録した株価チャートが添付されていた。チャートはトランプ大統領のサイン入りだった。

さらにCNNは、メッセージには新型コロナ危機のことは一言も触れられていなかったと述べ、大統領は、株価の急反発を自分の手柄として自慢しようとした、などと報じた。

分断をあおったつけが回ってくる

CNNに限らず、トランプ大統領の新型コロナ問題に対する姿勢に批判的なメディアは多く、就任当初から指摘されてきたトランプ大統領とメディアとの分断も、ここにきて再び目立っている。メディアによる政権批判は、健全な民主主義には欠かせないが、同時に、社会の分断を助長し、新型コロナ対策の円滑な実施に影響を及ぼす可能性もないとは言えない。

トランプ大統領は、就任当初から、自身の再選に必要な白人保守層の支持を維持し続けるため、半ば意識的に、社会の分断をあおってきたふしがある。国家的危機に直面した今、そのつけが回ってくるかもしれない。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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