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マーカーペンを巡る陰謀論「シャーピーゲート」が浮上 「票が数えられなかった」と訴訟に発展 米大統領選

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
「不正を止めろ」と訴えるアリゾナ州フェニックスのトランプ支持者たち。(写真:ロイター/アフロ)

 開票が進む米大統領選。

 バイデン候補がリードする中、アリゾナ州の選挙人の数11人をめぐって、2つの見方がされている。AP通信やFOXニュースは開票状況からバイデン候補がこの11人の選挙人を獲得すると判断し、すでにバイデン氏が獲得した選挙人の中に加えているが、CNNや米紙ニューヨークタイムズはまだ未確定として加えていないのだ。

 アリゾナ州の票が70%しか開票されていない時点で、AP通信とFOXニュースが同州の11人の選挙人をバイデン候補側に加えた判断に、トランプ陣営は激怒している。

“シャーピーゲート”陰謀論とは?

 そんな中、アリゾナ州の州都フェニックスがあるマリコパ郡のトランプ支持者の間で新たな陰謀論が浮上し、激戦州として注目されているペンシルベニア州にまで広がっている。

 その名は“シャーピーゲート”。ツイッターでは#SharpieGateというハッシュタグで拡散されている。

 シャーピーとはシャーピー社から売り出されているマーカーペンのブランドだが、この陰謀論支持者は「投票所係員がトランプ支持者にシャーピーで投票用紙に印をつけるよう強いたためにそうしたところ、票がシャーピーのインクで滲み、集計マシンが票を読み取ることができなかった。票がカウントされなかった」と訴えているのだ。

 拡散されているこの陰謀論をトランプ氏の息子エリックや共和党のロビイストもシェアしている。

 そもそも“シャーピーゲート”陰謀論はどこから生じたのか?

 それは、アリゾナ州のある不動産エージェントが、投票が行われた11月3日夜にフェイスブックに投稿した動画が元になっているようだ。その動画(ツイッター上では、上の動画)では、ある女性が、投票所係員が有権者が普通のペンで投票用紙に印をつけようとしているのを遮り、シャーピーを使うよう強いているのを見たと訴えている。その女性はまた、集計マシンがシャーピーで印がつけられた票を読み取ることができなかったのを目撃したと話している。一方、普通のペンで印をつけたその女性の票は読み取られたという。

 フェイスブックはその動画は誤情報を含んでいるという理由で警告したが、すでに10万回以上シェアされてしまった。

 トランプ支持者たちはこの動画をツイッターで拡散、「民主党が選挙を盗み取ろうとしている」と訴えている。もっともツイッター側は、この動画に選挙の安全性に関する警告文をつけており、それをクリックすると「シャーピーで印がつけられた票はアリゾナ州では有効です」と説明されている。

シャーピー票は集計される

 アリゾナ州とペンシルベニア州の選挙管理側も、シャーピーで印がつけられた票はきちんと集計されると主張。

 アリゾナ州マリコパ郡の関係者は有権者が投票所でシャーピーを渡された理由について「マーカーペンのインクは早く乾くため、投票所の集計マシンに票を通す時に汚れないから」と話している。

 アリゾナ州の州務長官ケーティー・ホッブス氏も「重要:投票所では、どんなペンを使って投票したとしても(シャーピーでも)、票は数えられます」と集計マシンはシャーピーで印がつけられた票も読み取ることができるとツイートした。

シャーピー票を巡って訴訟も

 そんな中、11月4日、フェニックスに住むある女性が、集計マシンがシャーピーで印をつけた彼女の票を読み取ることができなかったとして、法律事務所を通じて訴状を提出した。法律事務所には同様の苦情が400件以上も寄せられているという。その女性は、投票所係員に、新たに投票したいと求めたところ、拒否されたという。女性は、シャーピーで印をつけたために票が読み取られなかった有権者に新たに投票する機会を与える裁判所命令の発令を要求している。

 票がカウントされていないことを問題視したトランプ支持者たちも、11月4日夜、アリゾナ州フェニックスの開票所前に集結、「票を数えろ」、「選挙を盗むのを止めろ」と声をあげた。

 一方、劣勢に立つトランプ氏はツイッターで「票の集計を止めろ」と郵便投票の集計中止を訴え続けている。ミシガン州デトロイトの開票所にもトランプ支持者が集結して「集計をやめろ」と訴えた。

 同じトランプ支持者であっても、アリゾナ州では票を数えるよう訴え、ミシガン州では集計をやめるよう訴えている状況なのだ。

 大統領選の開票をめぐる混乱は続く。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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