復活する少女時代、復活しないSMAP──躍進を続ける韓国芸能界、遅々として進まない日本芸能界
アップデートした韓国芸能界
5月18日、韓国の8人組ガールズグループ・少女時代の復活が発表された。デビュー15周年を迎える8月にフルアルバムがリリースされる予定だ。
少女時代がフルメンバーで活動したのは、2017年8月に発表したデビュー10周年記念アルバム『Holiday Night』が最後だった。それから2ヵ月後に、ティファニー、スヨン、ソヒョンが所属プロダクションのSMエンタテインメントを退所。この後、活動停止状態となっていた。
翌年にはSMエンタに残留した5人のユニット・少女時代-OH!GGでカムバックしたが、それ以降は全員がソロ活動を続けてきた。スヨン、ソヒョン、ユナ、ユリは俳優活動を中心に、テヨン、ティファニー、ヒョヨンはソロ歌手として、そしてサニーはタレント業を続けてきた。
こうしたプロセスを考えれば、今回の活動再開はファンにとって大きな驚きだったかもしれない。とくに日本では、(ロックバンド以外では)なかなかこうしたことは生じないからだ。
しかし、少女時代がデビューしてから15年、韓国芸能界は大きく進展した。インターネットを通じて日本をはじめ全世界に進出し、大きな成功を収めてきた。PSYやBTS、BLACKPINKなどがグローバルヒットしている状況について、もはや多くの説明は不要だろう。
今回の少女時代の復活にも、その背景には大きくアップデートした韓国芸能界と、それを支えてきた韓国社会の姿が見える。
自腹で復活したT-ARA
少女時代にかぎらず、最近のK-POPではガールズグループの復活劇が複数見られる。
まずT-ARAだ。2009年にデビューして「Bo Peep Bo Peep」などのヒットを生んだこのグループは、2017年にメンバー全員が所属プロダクション・MBKエンタとの契約が終了し、活動停止が続いていた。途中には、商標権をめぐってMBKと衝突することもあった。
しかし昨年11月、約4年ぶりのカムバックを果たした。メンバー4人は全員異なるプロダクションに属しており、さらにグループとしての所属先はない状態にある。新曲「TIKI TAKA」の制作費はメンバー個人が自腹で捻出したという。
元GFRIENDのVIVIZ
次にVIVIZだ。2015年にGFRIENDとしてデビューした6人組は、初期の少女時代を思わせる清楚系のスタイルで10年代後半に独特のポジションを維持していた。しかし、所属プロダクションのSOUCE MUSICが2019年7月にBTSのHYBEに買収される。そして2021年7月にメンバー全員の契約が終了し、GFRIENDの活動も停止した(このグループと入れ替わるように同社から今年5月にデビューしたのが、宮脇咲良のLE SSERAFIMだ)。
だが、GFRIENDのメンバーだったウナ、シンビ、オムジはBPMエンタテインメントに移籍。そして今年2月に3人組の新グループ・VIVIZとして活動を再開した。
この3人が興味深いのは、再出発でありながらも過去の自分たちを決して否定していないことだ。今年4月から始まった音楽サバイバル番組『QUEENDOM2』(Mnet)に出演し、最初にそこで披露したのはGFRIEND時代のヒット曲だった。それはJYJや新しい地図が、東方神起やSMAPの曲を歌うようなものだからだ。
2NE1はコーチェラで電撃復活
そして最近なにより注目されたのは、今年4月の2NE1の復活劇だ。しかもその場は、世界最大の野外音楽フェスティバルであるコーチェラだった。
YGエンタテインメントから2009年にデビューした2NE1は、少女時代やワンダーガールズなどとは異なりヒップホップを軸にK-POPガールズグループの新たな道を切り拓いた存在だ。10年代中期以降に興隆したガールクラッシュ(女性が憧れる女性像)ムーヴメントの先駆けともなったこの4人組は、2016年11月に7年の活動に幕を下ろした。それは、同じくYGのBLACKPINKのデビューから3ヵ月後のことだった。
今回の復活は、メンバーのひとりであるCLがソロとして出演していたステージで、他の3人のメンバーとともに代表曲「I AM THE BEST(내가 제일 잘 나가)」(2011年)を披露したものだ。よって、今後も恒常的に活動するかどうかはわからないが、それは歴史が積み重なったK-POPだからこそ生じたサプライズだったと言える。
「奴隷契約」はもはや過去
こうした“復活劇”が生じるのは、K-POPのグループが短命であることに起因する。日本と異なり、10年代以降の韓国には「K-POP7年の壁」と呼ばれるものが存在する。これは、デビューから7年前後にグループが活動停止をしたり、メンバーが脱退したりすることが目立つからだ。
実際にそれは、00年代後半から10年代中期にかけてデビューしたガールズグループの推移を見てもわかる。メンバーが再契約をして7年を超えて活動を続けるグループもあるが、その多くは7年前後で幕を閉じるケースが多い(ボーイズグループは兵役という別の要素がここに加わる)。
先にあげた3組のうち、2NE1とGFRIENDはこの「7年の壁」で解散に至った。そして今年はTWICEがデビューから7年目を迎えるため、メンバーやグループの去就が注目されている。
これには、プロダクションと芸能人の専属契約期間が最長7年とされている背景がある。それまでの韓国芸能界では、長期契約が「奴隷契約」と呼ばれ問題視され、裁判沙汰も珍しくなかった。なかには東方神起とJYJのように分裂したグループもあった。こうしたトラブルを防ぐために、韓国の公正取引委員会は2009年に標準契約書を示し、その結果として生じたのが「K-POP7年の壁」だ。
ジャニーズやAKB48など長寿グループが多い日本の芸能界を基準としてしまうファンには、こうしたK-POPグループの短命傾向を好まない向きがしばしば見受けられる。
だが、むしろ「7年の壁」はK-POPに競争原理を持ち込み、活性化をもたらしている。最近では、前述したVIVIZやCLCからKep1erに移籍したチェ・ユジンのように、活動期間が長くないからこその再チャレンジも見られる。
「7年の壁」を越えた少女時代
今回の少女時代の復活は、この「7年の壁」をメンバーと芸能プロダクションが乗り越えたものだと位置づけられる。メンバー3人が他のプロダクションであるにもかかわらず、SMエンタはそのことを否定せずに受け入れる体制を見せたからだ。
過去にSMエンタは、東方神起から分裂した3人組・JYJの活動を妨害した過去がある。2013年には、公正取引委員会がSMエンタに活動妨害を禁止する命令を下したほどだ。日本芸能界ではいまも見られる独立・移籍による活動のハードルは、過去には韓国にも存在していたのである。
だがそれから6年、SMエンタもK-POPも大きく変わった。公取委の指導やK-POPの全世界的な広がりによって、「退所したら干す」などといった旧態依然の態度はあまり見られなくなった(というよりも、インターネットメディアが中心の時代に「干す」などといったムラ社会的な“掟”はそもそも機能しない)。
たとえば大手プロダクションのJYPエンタも、創業者でソロアーティストのJ.Y. Park(パク・ジニョン)が同社を退所した元ワンダーガールズのソンミとのデュエット曲を2年前に発表した。
最近では、YGエンタを独立してからはじめてのカムバックとなるPSYが、BTS・SUGAやMAMAMOO・ファサなどとのフィーチャーソングを立て続けに発表して大きな注目を浴びている。より良い音楽を求めるために、プロダクションの壁を超えていくことが当然のこととなりつつある。
このように、韓国芸能界は10年ほどで大きく姿を変えたのだった。
復活できないSMAP
12年前、こう話したのは少女時代のスヨンだった。
テレビ東京『ASAYAN』から2002年に生まれたデュオ・route0として日本でも活動していた経験もあるスヨンは、日本語も達者でSMAPのことももちろんよく知っている。だからこそ、韓国でこう話したのだった。
スヨンはSMエンタを離れた3人のうちのひとりだが、彼女はそれでも今回の5年ぶりのカムバックを選んだ。活動は恒常的ではないかもしれないが(それこそ5年に1回程度かもしれない)、過去の思いが現在も続いており、SMエンタもそれを理解したということだ。そして、なによりそれを可能としたのは、韓国芸能界から古い体質が払拭されたからだ。
翻って日本は、2018年に公取委が芸能人への独占禁止法の適用を表明し、翌年、元SMAPの新しい地図の活動に圧力をかけた疑いがあるとしてジャニーズ事務所が「注意」された。それ以降に芸能人の独立・移籍は珍しいことではなくなった。
だが、たとえばジャニーズを退所したタレントがテレビ番組や音楽のステージでジャニーズ所属のタレントと共演することはまだ多くは見られない(TOKIOや中居正広は例外だ)。そもそも新しい地図は、いまだにSMAPの曲をいちども歌っていない。
もちろん今後、終焉に向かう地上波テレビとともに日本の芸能界も自由度は増すことは確実だ。大手芸能プロダクションの経営者も、高齢のために徐々に退場しつつある。旧態依然とした「芸能界・20世紀レジーム」は、メディアの変化と時間の経過によって自然に瓦解する過程に入っている。
しかし、問題はそのスピードだろう。日本の芸能界に強く影響を受けていた韓国芸能界は、たった10年で日本を追い越していった。BTS、『パラサイト 半地下の家族』、『イカゲーム』と、音楽・映画・ドラマで世界の頂点に立ち、世界のエンタテインメントの最前線に立っていると言っても過言ではないだろう。質も人気も、日本とはかなりの差ができている。
少女時代の復活がとても明るく輝いて見えるのは、その一方で日本の芸能界が暗いからだ。SMAPが簡単に復活できるような業界にならないかぎり、日本のエンタテインメントの低迷はまだまだ続くだろう。
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