中学生硬式野球「タイガースカップ」優勝は夢前ヤング MVPは有本豪琉 プレゼンターは阪神・桐敷拓馬
■第19回タイガースカップ
西日を浴びたその顔は、誇らしげに輝いていた。
野球少年の憧れの地である阪神甲子園球場で、中学生硬式野球の関西の頂点に立った有本豪琉キャプテン(兵庫夢前ヤング)は、堂々と胸を張って優勝旗を受け取った。
さらに最優秀選手賞(MVP)にも選出され、スタンドから万雷の拍手を浴びていた。
毎年恒例の「タイガースカップ」は阪神タイガース球団創立70周年を機に始まり、今年で19回目を迎えた。
中学生硬式野球(近畿2府4県の参加リーグ所属の中学2年生以下の単独チーム)の関西ナンバー1を決定するこの大会は、ボーイズリーグ、ヤングリーグ、シニアリーグがそれぞれ予選を行い、勝ちあがった12チームがトーナメント方式で戦って王者を決める。
リーグの垣根を越えた戦いは、普段対戦しないチームとも当たるため、選手たちにとって新鮮で刺激にもなるようだ。
なにより舞台が甲子園球場である。いつも以上のアドレナリンが出るのか、素晴らしいプレーがいくつも見られた。
今大会には「阪神タイガースジュニア2021」のメンバーも5人参戦していたが、決勝まで進んだのは有本選手のチームだけだった。
では、12月2日に行われた兵庫夢前ヤングの試合を振り返ろう。
■準決勝は兵庫夢前ヤングVS三田リトルシニア
夢前 100 300 1=5 H8、E0
三田 000 000 0=0 H5、E2
《バッテリー》
夢前:梶岡、岡―吉田
三田:綾部、児玉―明山
【得点経過】
一回表…1死から2番・織金が敵失で出塁すると、すかさず盗塁。3番・有本が中前打で還す。(1-0)
四回表…敵失、犠打、安打の1死一、三塁から9番・藤原のバントヒットで1点、さらに一、二塁から暴投、1番・春名がセンターに運んで1点、2番・織金の4連打目で1点。(4-0)
七回表…先頭の織金が三塁線を破る二塁打で出塁、3番・有本がレフトへのエンタイトル2ベースで1点。(5-0)
散発5安打に抑えた兵庫夢前ヤングが完封勝ちで決勝戦へ
■決勝は兵庫夢前ヤングVS明石ボーイズ
夢前 040 110 0=6 H10、E1
明石 000 000 0=0 H6、E3
《バッテリー》
夢前:岡、梶岡―曽田
明石:空、山嵜―吉本
【得点経過】
二回表…四球、犠打、敵失で2死二、三塁から1番・春名の中前タイムリーで1点。なおも一、三塁から2番・織金が右越え三塁打で2点。3番・有本が左前打で還して1点。(4-0)
四回表…連続三振の2死から2番・織金がサードを強襲。エラーを誘って二塁へ。それを3番・有本がレフト線へタイムリー二塁打で1点。(5-0)
五回表…安打、四球、バントヒットで1死満塁から9番・藤原の打席で牽制悪送球で1点。(6-0)
兵庫夢前ヤングが0封で優勝
■有本豪琉、走攻守に関してのコメント
◆試合を振り返って
「決勝ではピッチャーの球もすごくよくて、接戦というか少ない点の守り合いになるかと予想していました。
でも、論(織金選手)が突破口を開いてくれて、それでチームも勢いに乗れた感じです」。
◆バッティングについて
準決勝と決勝の通算8打数5安打(うち3本は二塁打)4打点。
「日ごろからもですが、前日もお父さんやおじいちゃんと練習をしてきました。バッティングも守備も。その練習の成果が、この結果になったのかなと思います。
準決勝では2打席目に簡単に三振してしまって、それはあかんけど、その次に修正ができたのはよかったと思います」。
「バッティングは時と場合を考えて、たとえばランナーがいないときは長打を狙ったり、ランナーがいて還さないといけないときは単打を、と意識を変えています。
狙い球などはチームで徹底しているけど、監督から声がかかるときもあれば、自分で考えるときもあります。外に来るやろなと思ったら、タイミングを遅らせて逆方向に追っつけ気味にしたりと、対応しています」。
◆守備、走塁について
「前の試合(準決勝の明石ボーイズVS忠岡ボーイズ)を見ていたので、バッターの特徴を考えてポジショニングを変えたりしていました。
ショートやサードの位置から外野を見て、自分がポジションの指示を出したりします。バッターによって後ろに下がりすぎだなと思ったら、前に来させたりというのを指差し確認をしながら。
自分自身の守備に関しては、送球も含めて一つ一つ丁寧にというのを意識しています。
ランナーで出たときは『1本で還れるかな』とか、相手の守備位置を指差し確認しながら見ています」。
■有本豪琉、MVPや甲子園球場に関してのコメント
「MVPは、2年間キャプテンをしてきて、ここまで来れたご褒美かなと思ったりしてるんで、ありがたいですね。
プロ野球選手(桐敷拓馬投手)に渡してもらいましたけど、こんな機会は一生に一回あるかないかの貴重な時間だったので、噛みしめて受け取りました。
ほかの子らはなかったので、その分、僕がしっかりと気持ちを込めてもらいました」。
「甲子園球場は、タイガースジュニアのときに練習をしたことはあるけど、試合は初めてでした。人生初なので、勝ったときの嬉しさはすごくありました。でも、ほかの球場にはない緊張感もありました。
そもそもヤングの予選からけっこう厳しいブロックに入っていたので、ここに来れただけでも嬉しいというか、一回でも甲子園のグラウンドに立てたことが嬉しかったんで…。
もし1日でも雨が降ったりしたら鳴尾浜球場になるとも聞いていたので、天候もよくてよかったなと思います。
この大会では相手の応援の圧にもやられそうになったけど、自分らの力が100%出せたのかな、だから勝てたのかなと思います」。
■一石知男監督の談話
試合後の一石知男監督は当然のことながら、相好を崩していた。が、準決勝、決勝の連続完封勝利にも「できすぎですよ」と、慢心することはない。
勝因にはまずピッチャーを挙げる。梶岡建志投手(先発4回4安打0点と1回2安打0点)、岡勇心投手(3回1安打0点と先発6回4安打0点)の2人が2試合とも完封リレーで、ホームを死守した。
「ピッチャーが本当にしっかり頑張ってくれましたね」と手放しで讃える。
実はこの2試合だけでなく、初戦の五條リトルシニア戦でも同じく岡―梶岡リレーで4-0と完封勝ちしている。つまり今大会の3試合すべてシャットアウト勝利ということだ。(初戦の記事⇒タイガースカップでの盟友対決第2弾は夢前ヤング(有本豪琉)が五條シニア(多井桔平、永井仁之丞)を撃破)
そして、「この大会は論が突破口を開いてくれて、それを豪琉が還すというのが多かったですね」と“恐怖の2番3番コンビ”に拍手を送った。
有本選手については全幅の信頼を寄せており、「しっかり仕事をしてくれましたね」とその勝負強さを褒めるとともに、「プレーだけじゃなくて準備とか片付け、チーム全体のことを考えて注意をしたりしている。言いにくいことも、ちゃんと言ってますね。それを野球の神様が見ていて、こういう結果になったんじゃないかと思いますよ」と、何人かいた候補の中から選ばれたMVPについても、大いに納得していた。
一石監督自身は3年前にも優勝を経験し、自身は連覇達成になるが、やはり甲子園でというのは格別だという。
「憧れですね。野球人としたら特別なところ。腹の底から大好きな野球を、こんな立派な球場でできるって、めちゃくちゃいい経験」。
この経験が選手たちの今後の上達につながり、野球の見方も変わって成長していくだろうと語る。
子どもたちがプロ野球選手と接することができたことにも喜ぶ。
「夢を大きくもってチャレンジしていったら、次はああいうふう(プレゼンター側)になれる」。
すべてが「いい経験で、よかったです」と、しみじみと噛みしめていた。
チームは春の全国大会に向けての支部予選中で、あと2勝すれば出場が決まる。
「年内にあるので、しっかり勝ちきって、いい正月にしたいなと思います」。
そう言って、ニッコリ微笑んだ。喜びに浸れるのは束の間で、またすぐに厳しい戦いが続く。
■プレゼンターは阪神タイガース・桐敷拓馬
プレゼンターとして登場し、優勝旗や優勝カップ、メダルなどを授与したのは桐敷投手だ。
「この素晴らしい甲子園で野球ができたのは、今後の人生につながる大きな財産になります。そして、ここで開催できることは当たり前ではありません。裏方さんやチーム関係者、保護者のみなさまのおかげでできたので、その方々に感謝の気持ちを持ちながら、今後も頑張ってください」。
見事なスピーチも贈ってくれた。
試合は決勝戦の途中から見ていたと言い、「ほんとレベルが高くてすごいなと思いました」と目を丸くしていた。
自身の中学時代は全国大会など大舞台の経験はなかったそうで、それだけにタイガースカップ出場選手の送球技術の高さや体の大きさなどにビックリしたという。
タイガースでは、野球発展のための社会貢献活動をしている選手も多い。それを見て、桐敷投手も感じるところがある。
「もっと野球を広められたらなと思います。先輩方がやっていることは、絶対に自分もやっていかなきゃいけないし、繋げていきたい。野球を好きになったり、始めてもらえたらという思いはある」。
将来的には地元の埼玉や大学時代を過ごした新潟で野球教室の開催などし、野球人口拡大に寄与したいと意気込んでいた。
■「阪神タイガースジュニア2021」の監督・白仁田寛和氏
タイガースカップの運営に携わっているのは白仁田寛和氏だ。ご存じ、元タイガースの右腕で、2020年と2021年のタイガースジュニアで監督を務めていた。現在はタイガースの振興部でタイガースカップを担当している。
懐かしい子どもたちとの再会に「久しぶりに会えて、プレーも見られて、すごく成長していたし、楽しかった」と笑顔を見せる。立場的には公平に見ながらも、心の中ではジュニアたちのプレーを楽しんでいたという。
「(ジュニアの)みんな、目立ってたなぁ。5人全員が主力だったりチームの中心選手で、すごいなと思いました。ほんと頑張ってるなと、それが一番印象強いですね」。
チームとして一緒に野球をしたのはほんのひととき、4ヶ月間だけだ。それも毎日ではなく週に1度。しかしその思い出は鮮烈で、強い絆で結ばれている。
「僕には、子どもたちは教え子という感覚はないんですよ。なんていったらいいのかなぁ…仲間というのもちょっと違う…あ、チームメイト。チームメイトですね。そういう感覚です。当時も今も」。
小学6年生のジュニアたちと同じ目線で考え、戦った。縁あって“チームメイト”になった彼らの今後は、やはり気になるようだ。
「またどこかで繋がるかもしれない。子どもたちが何年か後にタイガースのユニフォームを着ることもあるかもしれないとか、思ったりもするし。うえぽん(ジュニアでの上本博紀コーチ)もファームの野手コーチになったし、いずれ会う機会がありそう」。
有本選手のMVPにも「単純に嬉しかった」と言い、そのほかのタイガースジュニア全員に「目標は高く持ってると思うけど、どんどん突き進んでほしい」とメッセージを送っていた。
■野球振興に精力的な阪神タイガース
第19回タイガースカップは天候にも恵まれ、無事幕を閉じた。
熱い3日間、11試合だった。タイガースジュニア2021の選手たちに注目していたが、ほかの選手も素晴らしく、どの試合も見ごたえがあった。彼らの今後ますますの活躍が楽しみである。
桐敷投手の言葉にもあったが野球人口の減少は、ずっと叫ばれている問題だ。少子化とともに、いや、もしかするとその速度以上に野球の競技人口は低下しつつあるかもしれない。
しかし今春のWBCでの侍JAPANの活躍や、阪神タイガースとオリックス・バファローズの日本シリーズでの戦いぶりで、野球熱は確実に高まっている。
高校野球の甲子園大会だけでなく、このタイガースカップのような中学生にとっても「目指せる場所」があることは非常に大きく、タイガースの活動は意義深い。
タイガースカップに憧れて、野球を始める子どもが一人でも増えることを願う。
(撮影はすべて筆者)
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