「タイガースカップ」でタイガースジュニアの盟友対決!兵庫西宮ボーイズVS五條リトルシニア
■タイガースカップ
「阪神タイガースジュニア2021」の5人の選手が出場する中学硬式野球の関西ナンバー1決定戦である「タイガースカップ」。
今回はタイガースカップの1日目、11月23日に阪神甲子園球場で行われた第4試合をお伝えする。
(タイガースカップについての詳細記事⇒関西中学硬式野球「タイガースカップ」に出場する阪神タイガースジュニア 中島大誠)
■兵庫西宮ボーイズVS五條リトルシニア
西宮 000 004 0 =4 H8、E3
五條 012 002 × =5 H9、E1
《バッテリー》
西宮:木ノ下、中川、赤司―赤司、森本
五條:永井、多井―河本、亀田
【得点経過】
二回裏…2死二塁から8番・植村の中前タイムリーで1点。(0-1)
三回裏…1死一、三塁から4番・長瀬のタイムリーで1点、敵失で1点。(0-3)
六回表…先頭からの4連打で1点、2連続スクイズで2点、重盗で1点。(4-3)
六回裏…四球の走者を1番・多井のライト線と敵失で還して1点、四球を挟んで敵失で1点。五條リトルシニアの勝利(4-5)
■タイガースジュニア同士の対決
この対戦、両チームにタイガースジュニア2021のメンバーがいた。兵庫西宮ボーイズの赤司海斗選手、五條リトルシニアの多井桔平選手、永井仁之丞選手だ。赤司選手、多井選手はともにキャプテンを務めている。
序盤に3点を挙げた五條リトルシニアだったが六回に逆転され、さらにその裏、再逆転してシーソーゲームを制した。
まずは先発の永井選手から話を聞こう。
「ストレートも変化球もしっかり低めに決まっていたり、高めのボールでもしっかり空振りが取れたのが大きかったと思います」。
その言葉どおり相手につけ入るスキを与えず、5回を投げて散発の3安打、三振を5つ奪う好投で、小気味いいピッチングが光った。
最初にヒットを許したのが赤司選手だったが、2打席目はきっちりセカンドゴロに抑えた。
「海斗との対戦はめっちゃ楽しかったです。ピッチャーとバッターの間で笑ったりして、なんかなつかしいなとか思ったりしてました(笑)。ジュニアでやってたときよりもいい選手だなと思ったし、尊敬します」。
お互いに成長した姿で対戦を楽しんだようだ。
3番として3打数2安打1四球という結果には、「相手の先発が左だったので、甘く入ってくる変化球を逃さずにセンター方向を意識して打つことができました」と、しっかり役割が果たせたことに笑顔がこぼれる。
ただ六回から入ったライトの守備で、最終回に打球を捕り損ねてしまったことが悔やまれる。
「捕ったと思ったんですけど…グラブが開いてなくて当たって弾いちゃいました」。
2死一塁から一、三塁へとピンチを拡大したが、後続を抑えて無事ゲームセットとなり、事なきを得た。
このときの投手が多井選手で、打者が赤司選手だったのは、なんともドラマティックだった。そして、実はこれにはもう一つの“ドラマ”が潜んでいた。
■キャプテン・多井桔平(五條リトルシニア)
1番バッターの多井選手は4打数2安打1打点で盗塁も1つ決めた。打者として大いに活躍したが、先発のショートからマウンドに上がった六回、先頭から4連打を浴びてしまった。
「ちょっと変化球が調子悪くて、まっすぐだけやったんで狙われてて、甘く入って打たれました。焦りがあった感じです」。
ストレートは最速133キロと球速は出ていたが、この回はマウンドでの修正が難しかったようだ。
続く2連続スクイズには「初めて見ました」と目を丸くし、「スクイズで取られるのは悔しかった」と唇を噛む。いずれも自身の前に転がされたものだった。
3点リードをすべて吐き出したあと、四球を与えて2死一、三塁になった。ここで一走がスタートを切り、キャッチャーのセカンドスローの間にホームを陥れられた。これにも「三塁ランナーはケアで来てなかったです」と無警戒だったことを悔やむ。
■気合いで打った打席
だからこそ、その裏の攻撃で1死一塁で回ってくると、「自分が点を取られたというのもあって、気持ちがめっちゃ入ってて、『ここで決めんとあかんな』みたいな強い気持ちで(打席に)入りました」と、自ずと気合いが入ったという。
この回から相手投手が赤司選手に代わっていたこともあって、より気持ちが奮い立った。しかし心が熱く燃えながらも、頭の中は冷静だった。
「一気に逆転するにはホームランしか無理。だから、後ろにどんどんつないでいこう」。
そして打った打球はライトへライナーで抜けていった。相手のエラーも誘って一走を還し、自身も俊足を飛ばして一気に三塁まで到達した。これが結果的に大きく、その後、敵失で生還して逆転した。
■WBCの大谷VSトラウト?
赤司選手との対戦をこう語る。
「初めて対戦して打たれたんで、自分も打ち返さないとって、ほかのバッターとかほかのピッチャーよりも気合いが入ってましたし、楽しかったです」。
六回の4連打のうちの1本は赤司選手に打たれたものだ。だがその裏、きっちりと“お返し”はした。
五條が1点リードで迎えた七回表、続投した多井選手は調子を取り戻し、ポンポンと2つのアウトを取った。勝利まであと1人となったところで、もう一つの“ドラマ”があった。
簡単なゴロにセカンドが足を滑らせ(記録は内野安打)2死一塁。ここで回ったのが赤司選手だった。セカンドのスリップがなければ起こり得なかった対戦に、「なんかWBCみたいな感じで(笑)」と、多井選手は大谷翔平VSトラウトの対戦になぞらえた。
そして先述した永井選手の失策が出たのが、まさにこの打席だった。
甲子園という大舞台で飛び出した、タイガースジュニアたちにからむ“ドラマ”。それでも最後は多井選手がきっちりセカンドゴロで締めて、五條リトルシニアが勝利した。
永井選手は「2回戦もこのまま火をつけて、みんなで気持ちを入れてやっていきたいです」、多井選手は「次はまたチームメイトがいるので、しっかり勝って優勝までいきます!」とそれぞれ宣言した。
■キャプテン・赤司海斗(兵庫西宮ボーイズ)
一方、敗れた兵庫西宮ボーイズの赤司選手は、悔しさを押し殺して真摯に取材に応じた。こういうところはジュニア時代と変わらないキャプテンシーの高さだ。
まず3点差を追いついたことに関しては「3点ってけっこう大きい点差の中、監督さんの采配だったり、選手同士つなげたから3点4点取れたんで、そこは大きかったと思います」と冷静に振り返る。
その4点を取った場面は「ガツガツいかな、いくとこいかな点取れんから、勝負かけにいくぞっていう感じだった」と明かす。
最終回、まさかの打席が周ったときは「キャプテンなんで、ここは自分が打たないと終わってしまうので、チームのことを優先して後ろにつなぐっていう思いで打ったら、ああいう結果が出ました」とライトへ運び、相手のエラーを誘った。
それがジュニアでのチームメイトだった永井選手なのだから、「運命を感じますね」とうなずく。
中学に入って初めてキャッチャーをするようになったが、丁寧なキャッチングでミットもしっかり止め、ブロッキングも懸命だった。
「そこは意識しています。その1球でピッチャーの投げる球も変わってきますし、キャッチングとか配球とかすごく大事だと思っています」。
キャッチャーというポジションの魅力を感じているという。
ただ、反省も忘れない。
「まだまだ周りも見えてないですし、配球も『このバッターだったらどうだろうな』とか、ピッチャーの気持ちも考えられてない部分もあるので、それが今日打たれたところでもあるので、そのへんをもうちょっと修正してきっちりやっていきたいと思います」。
敗戦の責任を一身に背負っていた。
■ピッチャーとキャッチャーの二刀流
「リードしていたら、最後投げると思います」と試合前に話していたとおり、逆転したあとマウンドに上がった。
悔やんだのは1アウトを取ったあとと、同点にされて2アウトからの、この2つの四球だ。
「無駄な四球があった。それが一番点に絡みやすいんで、今日はその四球から点を取られた。そこだけが…。今後も四球を出さないということをやっていきたいです」。
自らに課していた。
■これからも切磋琢磨する
盟友との対戦についても語る。
「小学校のときはジュニアという同じチームでやってたんですけど、中学校になって敵になった。でも、お互い譲り合っても引いてもおもしろくないし、やっぱり男と男の戦いやから、手を抜かずお互いにできたと思います」。
お互いに精一杯戦ったことに関しては、満足感を漂わせる。ただ、やはり勝ちたかったし、勝てたという思いはある。
「やっぱり二人とも変わらへんなって感じ、いい意味で。すごくうまいし、レベルが高いなと思いました」。
次は絶対に負けない。お互いに成長した姿でまた対戦できることを楽しみにしている。
キャッチャーの守りにつく前、自身の持ち場の土に何か書く仕草をしていた赤司選手。聞けば「大事な大会のときは、いつも『感謝』という言葉を書いています」と明かす。
チームメイト、指導者、相手チーム、そしていつも応援してくれる家族へ―。
感謝の気持ちをもって臨んだ試合だった。これからもそれは決して忘れない。
■ジュニア対決は続く
勝ち上がった五條リトルシニアは26日、兵庫夢前ヤングと対戦する。またもやジュニアの有本豪琉選手との対決が待っている。
(本文中の写真の撮影はすべて筆者)