タイガースカップでの盟友対決第2弾は夢前ヤング(有本豪琉)が五條シニア(多井桔平、永井仁之丞)を撃破
■「タイガースジュニア2021」同士の対戦
関西の野球少年少女たちが目指す大会はいろいろあるが、中でも大きな大会の一つに数えられるのが「タイガースカップ」だ。阪神タイガースが開催する中学硬式野球の関西ナンバー1決定戦で、今年で19回目の長い歴史のある大会である。
シニアリーグ、ボーイズリーグ、ヤングリーグが参加し、各予選大会を勝ち抜いた12チームが、リーグの垣根を越えてトーナメント方式で戦う。しかも阪神甲子園球場が舞台である。
11月23日に開幕し、同26日にベスト4が出そろった。
この大会に、小学生の憧れのチーム「阪神タイガースジュニア」のメンバーだった選手が参加している。中学生になったタイガースジュニア2021の中から5人が出場し、お互いに意識しながら戦っていた。
多井桔平選手、永井仁之丞選手が所属する五條リトルシニアは1回戦で赤司海斗選手擁する兵庫西宮ボーイズを敗り、この日は有本豪琉選手がキャプテンを務める兵庫夢前ヤングと相まみえた。
では、その模様をお伝えしよう。
■兵庫夢前ヤングVS五條リトルシニア
夢前 002 000 2 =4 H9、E0
五條 000 000 0 =0 H5、E0
《バッテリー》
夢前:岡、梶岡―曽田
五條:永井、多井―河本
【得点経過】
三回表…先頭打者がヒット、犠打で送って2死二塁から2番・織金がセンターへ運んで1点、続く3番・有本が変化球をとらえライトへのタイムリーで1点(2-0)
七回表…2死から内野安打、ライト前と連続ヒットに四球で満塁とし、押し出し四球で1点。(4-0)
五條も5安打放つもつながらず、兵庫夢前ヤングが完封勝ちした。
■大きく成長して甲子園に凱旋
この日が初戦となった兵庫夢前ヤング。キャプテン・有本選手は「阪神タイガースジュニア2021」のメンバーだ。当時は小柄なほうだったが、ずいぶんと大きくなった。172cmというが、グラウンドではもっと大きく見え、非常に存在感が際立つ。
その有本選手が魅せた。第1打席こそ変化球に手を出して3球三振だったが、2打席目にライトへのタイムリー、先頭での3打席目はストレートをとらえてピッチャー返し、最終打席では満塁から四球を選んで押し出しをもぎ取った。
3打数2安打2打点とチームを牽引する姿が光っていた。
■対応力と冷静さ
久々の再会となったジュニアのメンバー、多井選手と永井選手については「すごく成長していて、球を見たときはビックリした。速くてコントロールもいいし、キレもよくなってるからヤバいなと思った」と讃える。
だからこそ、攻略法を考えた。まず空振り三振を喫した1打席目の反省から、2打席目は「低めのボールを振ってしまうから、その低めを当てられるように、打席のけっこう前のほうに立ちました」と対策し、低めのカーブをとらえた。
普段から打席ごとに立ち位置を変えるなど、工夫をしているというからさすがだ。
2死一塁から暴投でスコアリングポジションに進んだ場面で、「単打を狙いにいきました」と状況判断してミートに徹し、ランナーをしっかり還した。
そしてピッチャーが多井選手に交代すると、そのストレートの速さに目を見張った。だが、3球目の114キロをしっかりと打ち返した。
「けっこう差し込まれてたけど、いいところに飛んだかな」。打球は多井選手の足元をすり抜けていった。
満塁で回ってきた最後の打席も、「最悪、四球でいいと。無理に打ちにいって三振するより、四球でいいかなと思っていたので、よかった」と非常に冷静だった。
しっかりとボールも見えていたと胸を張る。
■キャプテンとして
キャプテンとして試合を振り返る。
「今日はちょっと緊張もあった。これで試合の雰囲気も慣れたから、次からはもっと100%の力を出したい」。
ナインの緊張をほぐすべく、懸命に声を出していた。ベンチでもチームメイトに声をかけることを欠かさない。「自分の結果が悪いときも、常に声を出し続けることを意識しています」と、キャプテンの自覚にあふれている。
「今日はバントとか小技がうまくいかなかった子もいたし、バッティングももっと積極的に初球から打っていったほうがいいと思った」。
ナインにもしっかりと自分の意見を伝えた。
■一石知男監督の談話
そんな有本選手について、一石知男監督は「いろんなところで中心としてやってくれています」と目を細める。
「試合もそうですけど、練習前とか準備とか後片付けのほうまで指示を出して、しっかりやってくれています。かなり周りが見えてきだしたのかなと思いますね。言葉でも周りを引っ張っていってます。そういう言葉の力も持っていますね」。
なんとも頼もしいキャプテンだ。
もちろん野球の力についても「ここ一番のバッティングですね」と讃える。
「自分の仕事はわかってるんです。自分の前にランナーがいると、それを還すのが仕事だと。打てなかったときはめちゃくちゃ悔しがって、また帰って練習しよる。失敗も成功も、すべてが成長になっとるんちゃうかなと思います」。
今後ますますの成長が楽しみだと、相好を崩していた。
■永井仁之丞(五條リトルシニア)
悔しい完封負けを喫した五條リトルシニアの二人も、気丈に取材に応じた。こういうときにしっかりと自分の言葉で語れるのは、やはり並みの選手ではない。ずっとトップを走ってきた自負がある彼らには、一流アスリートの資質が備わっている。
永井選手はマルチ打を放ったが、それよりピッチングを悔やんでいた。
「四球を出して自分でリズムを悪くして、甘く入ったボールをとらえられた。それが点につながって…自分でも引きずってしまったところがあった」。
先頭から連続四球を出した二回は、得意の牽制で刺したりもあって無失点で終えたが、それを引きずって三回の2失点になったという。
有本選手との対戦は「1打席目は変化球が決まって三振が取れて、次の打席もカーブが低めに決まったと思ったら、うまく拾われた」と悔しさをにじませる。
「この負けた試合を忘れずに、この冬を越してもう一回、一から自分もチームも作り上げていきたい」。
このまま終わる気なんて、さらさらない。「この敗戦があったから」と言える堂々とした姿を、春に見せるつもりだ。
■多井桔平(五條リトルシニア)
キャプテンの多井選手は「結果として全然打てんかったし、点も取られて実力不足やなと、この試合を通してわかりました」と肩を落とす。
「実力不足」と感じた要因はどこにあるのか。「バッティングだとチャンスで打てない、ピッチングだとちょっとリズムが狂ったらストライクが入らなくなる。そういうところです」と話す。
「打たれた球は全部甘く入った。アウトコースを狙って投げても真ん中にいって打たれたんで、そういう細かなところから直すよう練習していきたい」。
しっかりと自己分析している。
有本選手との対戦に関しては「楽しかったですけど、それよりチームが負けてたんで、そんなに意識せずに普通にいつもどおりやろうと思っていました」と振り返り、抑えられなかった悔しさを顕わにしていた。
この日の多井選手は速球でぐいぐい押すというより、丁寧なピッチングを心がけているのが窺えた。
「前回、海斗(赤司選手)たちとの試合(兵庫西宮ボーイズ戦)でわかったのは、やっぱり速いだけやったら打たれるということ。仁(永井選手)は速くないけど抑えている。そういうことを学んだし、緩急をつけろということも監督からも言われたので、今日はそれを意識しました」。
勝っても負けてもそこから学ぶ姿勢が、多井選手を成長させているようだ。
この大会でさまざまなことを得たという。「いろんなうまい選手と会って、自分に足りていないところもわかりました」と前を向く多井選手。
「次の大会は春の全国なんで、そこで優勝するというのが目標。自分もそうですけど、キャプテンとしても実力をつけたい。打つ、打たんとかじゃなくて、チームの盛り上げ方とか試合の入り方とか、そういうことをもっとやっていきたい」。
個人のレベルアップは当然のこととして、キャプテンとしてはチームが力をつけ、大舞台でその力を発揮するにはどうすればいいかを考え、実行していく。
多井キャプテンのもと、五條リトルシニアはこの黒星を糧にステップアップするだろう。
■タティス・ジュニアのように
さて有本選手だが、背中に背負う「23」は自ら選んだ番号だ。タイガースジュニアでも「メジャーのタティス・ジュニア選手が好きだから」と、この番号を着けていた。当時、「三遊間の打球に飛びついてアウトにした場面が印象的だった」と語っていたが、自身もショートとサードをこなし、守備でもチームに貢献している。
有本選手も今後、タティス・ジュニア選手のようなプレーヤーを目指していく。
次戦は準決勝で三田リトルシニアと当たる。打って守って、チームの先頭に立って奮闘するつもりだ。
(本文中の写真の撮影はすべて筆者)
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