北欧の極右、スウェーデン民主党を支持する人々の憤り
9月に開催されたスウェーデン総選挙。国際メディアで大きな注目を集めたのは、極右・右翼ポピュリストとされる「スウェーデン民主党」(SD)だった。
さて、この党の支持者はどういう思いを抱えているのか? 現地での取材中に垣間見た、党の一面を振り返る。
お隣の国ノルウェーでは、現地で極右とされる「進歩党」は、すでに与党として政権入りしている。
進歩党は、ノルウェーテロを起こしたアンネシュ・ベーリング・ブレイビク受刑者(一時、党員だった)や、スウェーデン民主党と絡められることを嫌がる。
極右政党や移民・難民の受け入れ状態に関しては、「ノルウェーは、スウェーデンほどまではひどくない」というのが、ノルウェーのメディアや政治家がよくする(上から目線)解釈。
選挙中、スウェーデンの新聞を読んでいると、デンマークで政権に閣外協力しているデンマーク版極右「デンマーク国民党」が、スウェーデン民主党を応援する広告が目に飛び込んできた。ノルウェー版極右は、まだここまで公に応援はしていないので、興味深い違いだ。
スウェーデン民主党の祭りに集まる、支持者たち
選挙前日の夕方、首都ストックホルムでは、オーケソン党首が、党員と支持者に向けて、締めのスピーチを行った。
盛大な音楽が響き、党の勝利を確信したかのような、お祝いムード。
ここで目に飛び込んできたのが、ひとりの年配の女性。
オーケソン党首の大ファンのようで、彼の顔写真を額縁に入れて、サインをもらえないかと党員に必死にお願いしていた。
党側は一度は断っていたものの、報道陣らの注目が集まっている中、よいPRになると思ったのか、党首は特別にサイン。
大喜びする彼女に、フランスなどのたくさんの媒体の記者がマイクで質問し、カメラマンが彼女を撮影した。
音楽にあわせて、一緒に歌い、党を応援するプラカードやスウェーデン国旗を振りながら、会場の雰囲気に酔いしれる人々。
独特な雰囲気に、奇妙なものを覚えた。
オーケソン党首の長いスピーチは40分ほどにも及んだ。
聞いていると、ノルウェーの進歩党と、話していることはほとんど同じだった。もはやコピーといってもいいくらいに。
聞いていて、「スウェーデンは、そこまで危険な国で、国の未来は危ないのか?」と驚く。
各党の違いは、今目の前にある社会をどうみるか、どのような未来を望むか、価値観の違いだと思う。
「スウェーデン民主党のメガネをかけて暮らしていたら、毎日不安ばかりになりそうだ」、とも感じた。
「言っていることは、ノルウェーの進歩党と変わらないのね」と、スウェーデンで出合った市民に話すと、「言っていることは同じでも、根幹が違う。スウェーデン民主党はネオナチの起源をもつ」という返答がよくきた。
党員にインタビュー
ストックホルム中央駅前では、各党がカラフルなスタンドを設置し、通行人と政治の話をしていた。
スウェーデン民主党のスタンド前には、常に多くの人があふれる。彼らの考えに反対し、議論しようという人も多い。
連日、このスタンドに立って市民と話をしていた党員ヨーハン・ティーレランさん(30)と話をした。
2014年から今年までは地方議員として活動。ブールという生まれ育った場所では難民を多く受け入れていた。自治体のケアが足りないがために、学校でも落ちこぼれ、職に就けない人を見てきたという。
「今後、このような人たちをさらに出さないためにも、国がケアできない数以上の外国人を受け入れるべきではない。私たちの国を以前のように偉大にしたい」と話す。
スウェーデンでもノルウェーでも、移民の議論をする時、その人が「移民」をどう定義しているかは曖昧だ。同氏は、日本人も含め、外国人全てを移民とし、その数は減るべきで、難民申請者に関しては国境も封鎖したいと考える。
「文化が違いすぎる国からの移民は、私たちの国の価値観や文化を学ばなければいけません。英語が共通語の企業で働くなら英語だけでもいいでしょうが、スウェーデン社会の一部になりたいと思うなら、スウェーデン語だって勉強するべき。難民に関しては、スウェーデンではなくて、難民キャンプで援助を施すのがよい」。
「ほかの北欧の国に比べて、スウェーデンが厳格な移民政策で遅れをとっているのは、他国よりも戦争に巻き込まれた歴史がないから。自分たちの国のアイデンティティやプライドについて、のんびりしすぎていた」。
「私たちを人種差別だと言ってくる人もいます。そういう人には、まずは党政策を読んでみてと伝えます」。
極右を支持するイラン難民
他の日に、スウェーデン民主党のスタンドで出合ったのは、ガサール・サべレリアンさん(35)。
2才の頃に、家族と政治難民としてイランからやってきた。15年間、飲食店で働き、昨年党員となり、今年の選挙に初出馬。
サべレリアンさんは、スウェーデンでは移民政策はいまだに話しにくい話題だと話す。彼女が言う「移民」は、難民についてだった。問題点を話すだけで、いまだに「あなたは人種差別者だと言われる」と憤りを政治活動に注ぐ。
極右の意見を否定することは非民主的か
左派ブロックのリーダーであり、社会民主労働党の党首、ステファン・ロベーン首相が、投票日前日に市民の前でスピーチをした。
そこで応援に駆け付けたのは、ノルウェーの野党・労働党、ストーレ党首。
この週は、姉妹党である政党を応援しに、ノルウェーの各政党たちが続々とスウェーデンに駆け付けていた。
ストーレ党首は、ロベーン政権下で、スウェーデンはより良い国になったと絶賛。
「スウェーデンの移民政策からは、大きなインスピレーションを受けている」として、話題の極右について、壇上でこう意見した。
「人種差別的な極右が、国会で影響力をもつかを決める、重要な選挙となる」。
「ノルウェーでも、スウェーデンでも、私がよく聞かれることがあります。『スウェーデン民主党が15~20%もの支持率を得るのであれば、彼らの意見にも耳を傾けなければ、非民主的ではないのか?』と」。
「それはありえません。彼らを否定すること、平等の権利・団結・個人の尊厳を破ろうとする者たちに対してノーということは、非民主的ではない」。左派ブロック支持者たちからは、大きな歓声があがった。
ノルウェー選挙と比べて、スウェーデン選挙では「人種差別」という言葉が頻繁に飛び交っている印象を始終受けた。
スウェーデン選挙からすでに2か月が経つが、右派・左派ブロックともに、未だに政権樹立には難航している。両ブロックが、スウェーデン民主党との連立を頑なに拒み続けており、過半数を得られずにいるからだ。
もし新政権づくりが4度にわたり失敗すれば、スウェーデンでは異例の再選挙が待ち構えている。
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Text&Photo: Asaki Abumi