「人種差別だと思う」、「怖い」 スウェーデン極右政党に対する嫌悪感 地元の人の声
スウェーデン国会の現在の状況
9日に開催されたスウェーデン総選挙。
左派ブロックは144議席、右派ブロックは143議席。両派から連立を否定されている、新3ブロック目となるスウェーデン民主党は、62議席という結果になった。
どのブロックも過半数を満たせていないため、困難な政権運営が暗示された選挙結果。
24日、新しい国会議員を迎えた議会では、新たな「国会議長」を任命する採決がおこなわれた。
国会議長は、議会で首相候補者を提案する役割を持ち、国王の次に高い権限を持つ存在。
どの党の党員が国会議長になるかは、後の首相候補にも大きな影響を与える。
結果、右派ブロックの頭である、穏健党のアンドレアス・ノーレン氏が、国会議長に。
既存政党の顕著な極右嫌い、揺れる政権と首相
本来であれば、最大政党が国会議長のポストを握る伝統がある。
しかし、右翼ポピュリスト政党(極右)の「スウェーデン民主党」の後押しで、第2政党の穏健党の推薦者が、国会議長となった。
それでも、右派ブロックの極右嫌いは顕著だ。
3人の副党首を決める際、第3政党であるスウェーデン民主党の候補者は、ひとりも多数決で選ばれない結果に。
「極右にこれ以上の権力を与えまい」とする、既存の右派左派ブロックとの構図が浮き彫りとなった。
25日、国会では、ステファン・ロヴェーン首相(社会民主労働党)が、首相として辞任を迫られる見通し。
ロヴェーン首相が、退陣を要求される時期をぎりぎりまで引き延ばした背景には、「右派ブロックと極右との依存関係」を、社会に見せる狙いがあったのかもしれない。
「既存ブロック」の伝統に終止符が撃たれ、新たな形のブロックが誕生する可能性もある。
スウェーデン民主党に対する現地の声
さて、ここまで既存政党らに毛嫌いされている「スウェーデン民主党」とは、どのような政党なのだろうか。
スカンジナヴィア諸国、ノルウェーやデンマークでは、すでに右翼ポピュリストが政権に影響を与えている。
スウェーデンは、3国の中で、特に右翼ポピュリストに対するアレルギーが強いといえる。
今回、現地での取材中に、スウェーデン民主党に対する人々の反応を書き留めた。
「このままではいけない」と政治に目覚める
ストックホルム中央駅前の投票スタンドにて、現地では極左とされる「左翼党」の党員、マレーネ・カーレンさん。「スウェーデン民主党の力が強くなってきて、何とかしなきゃと感じて、5年前、党員になりました」。
「スウェーデン民主党とは協力しない」というバッジを無料配布していた。
「一緒に政権を樹立することは、ありえない」
右派ブロックの頭である「穏健党」の戸別訪問に密着した時。
マクシミリア・ヒルデビーさんは、「私たちの党が、スウェーデン民主党と一緒に座ることはない」と話す。
それでも、訪問する家庭の中には、その言葉を信じない人もいるそうだ。
「人種差別だと思う」
各政党の選挙スタンドには、中学生たちが学校の宿題で、政策質問をする。
若者にとっては、スウェーデン民主党に声をかけることが、何よりの大きな出来事のようだった。
「スウェーデン民主党に、質問してきた!」と、友人に勢いで報告する生徒の姿を何度も見た。
スウェーデン民主党に質問した直後だった、パルミーダさん(14)と話をした。
「外国人は来てもいいけど、あまりたくさんは来てほしくないと言われました。そのような考えは、人差差別だと思います。私たちは、人間なのに」
「政治家と話す機会があるのはわくわくするけれど、悪い言葉も返ってきます。18歳になったら、絶対に投票にいきます」。
「私の家族に、スウェーデン民主党に投票する人がいます。恥だわ。ネオナチに起源をもつという事実を、支持者は見てみないふりをするのよ」という人もいた。
他にも滞在中はたくさんの地元の人と話したが、スウェーデン民主党に嫌悪感を抱いている人の数は、圧倒的だった。
スウェーデン民主党の党員とコンタクトを取るのは難しくはない。だが、党員でもなく、「ひっそりとスウェーデン民主党に投票」し、メディアに名前やお顔を出して話していいという人に出合うのは簡単ではない。首都から離れて、地域をまわる余裕は、今回は残念ながらなかった。
政策よりも思想の闘い
一方で、スウェーデン民主党嫌いの人々には、ノルウェーの右翼ポピュリスト「進歩党嫌い」には同じ程度では見られない、ある特徴を感じた。
選挙なので、私は各党の政策も気になる。しかし、この党の、どのような政策にそもそも反対しているのかを口にする人が、ほとんどいなかったのだ。政策よりも、思想の話になりがちだった。
「ただ、嫌い」という感情をぶつけられ、「怖い」という言葉を多く耳にした。「あの党に、政策なんてあるの?」、「支持者は、地方に住んでいる、教育を受けていない人たち」とバカにしている人もいた。
スウェーデン選挙取材中は、隣国ノルウェー以上に、「人種差別」という言葉も頻繁に聞いた。
では、スウェーデン民主党に投票した113万5627人は、教養が低い人たちで、女性を差別する男性で、外国人嫌いなのだろうか?
なぜ、4年前の総選挙に比べて、33万人以上が新たにこの党に投票したのか?
既存政党の何に問題があるのか?
「スウェーデン民主党にヒトラーとネオナチ支持者の党員がいた」、という事実が新聞の見出しになる影で、見ないふりをされている社会問題があるのではないか?
既存政党に対話を拒否され、毛嫌いされるスウェーデン民主党。その国会構図は、大きな声では言えない、不安な思いを無視され続けてきた人々を反映している。
私が取材するノルウェーと比べると、議論カルチャーがまったく同じではないようだった。
Photo&Text: Asaki Abumi