スウェーデン選挙で「極右」は勝ち組なのか?極右だけに注目してしまう国際メディア
2018年のスウェーデンの総選挙。国・県・自治体という3レベルの選挙が、同日に開催された。
国政選挙では、以下の点が大きな注目を集めたといえる。
- ステファン・ロヴェーン首相率いる、左派最大政党の「社会民主労働党」が大敗するか
- 極右(右翼ポピュリスト)政党である「スウェーデン民主党」が議席数を伸ばし、第1党か第2党となるか
- 政権交代となり、右派ブロックを率いる「穏健党」のウルフ・クリステルソン党首が首相になるか
- 右派は、移民・難民受け入れに懐疑的なスウェーデン民主党と連立するか?→極右とは距離を置く、これまでのスウェーデン政治の伝統を破ることに
右派と左派ブロックの議席数には大きな差は出ず、不安定な政権になるであろうことは投票日前から予想されていた。
9日の開票当日の夜も、予想通り決着はつかなかった。
首相は退陣を否定し、多くの党の党首は勝利発言ともとれるスピーチをして、夜を締めくくった(「ほとんどみんな勝利者、ポジティブな人たちだ」と思った)。
右派左派の差は1議席
最終的な結果が出たのは、16日。
- 左派ブロックは144議席
- 右派ブロックは143議席
- 両派から連立を否定されているスウェーデン民主党は62議席
2014年の総選挙と比較した議席数の変化
スウェーデン政治は、今は3ブロックに分けて議論されている。どのブロックも、今のままでは議会で過半数を得られない。
右派ブロック
・穏健党 84から70議席(14議席 減少)
・中央党 22から31議席(9議席 増加)←不安定な政権を避けるために「中道ブロック政権」がもし立ち上がると、中央党の女性党首が初の女性首相になる可能性もゼロではない
・自由党 19から20議席(1議席 増加)
・キリスト教民主党 16から22議席(6議席 増加)
左派ブロック
・社会民主労働党 113から100議席(13議席 減少)
・緑の環境党 25から16議席(9議席 減少)
・左翼党 21から28議席(7議席 増加)←スウェーデンの現地政治専門家などからすると、本来は現地でも異色政党である左翼党の議席数の増加は、国際メディアがニュースにはしようとしない側面
単独ブロック
・スウェーデン民主党 49から62議席(13議席 増加)←ここだけが「極右が躍進」と国際メディアでタイトルになる。
「予想されていたよりも議席数を伸ばさなかった」というタイトルは、国際メディアでは好まれないようだ。この党が「期待以上に躍進したか」は、人によって異なるだろう。
「極右」ばかりに注目する国際メディアと、隣国ノルウェー独特の目線
スウェーデン国内では、国際メディアが「偏向報道」をしたとして、批判もあがっている。
「極右・反移民政党」を、過剰にタブロイドネタとして持ち上げたことだ。スウェーデン民主党を勝利者とするような報道の仕方は特殊として、隣国ノルウェーでも話題となっていた。
一方で、ノルウェーでは「ノルウェーは、スウェーデンよりはましだ。移民議論に関しては、ポリティカル・コレクトネスなスウェーデンよりもオープンにできる」という目線の書き方が相次ぐ。
要は、「スウェーデンは、ノルウェーよりナイーブだ」とでも言いたいのかな、と筆者は感じた。
ノルウェーやデンマークでは、すでにその国での「極右」、つまり右翼ポピュリスト政党が政権入り、もしくは閣外協力して政権に影響を与えている。
ネオナチに起源があり、一部に問題ある政治家はいるとしても、民主主義を重んじるなら、「せめて対話くらいはしたほうはいいのでは」というのが、ノルウェーでよく出る意見。
「進歩党」が与党入りしているノルウェーは、スウェーデンを、「ノルウェーよりちょっと遅れているのだな」と(偉そうに)みている傾向がある。
スウェーデン現地メディアとは違う書き方の国際ニュースに、一部のスウェーデンの人々(既存メディア)は違和感を感じたのかもしれないが、スウェーデンメディアも、他国のことを報道するときは偏ることもあるだろう。
国際メディアが各国の「極右」や「ポピュリスト」を気にするのは自然の流れともいえる。
現地メディアほど、幅広い目線で記事を何本も出す余裕は他国にはない。そもそも、読まれない可能性もある。
他国にとっては、各国のトランプ版政党が、その国にどのような「混乱」をもたらしているかが興味深いのだ。
中道ブロック政権ができて、極右が政権に影響を与えられないという結果になったとしても、スウェーデン民主党がスウェーデン国会の風景を変えたことには間違いない。
スウェーデン民主党の存在がなければ、スウェーデンでの総選挙は、国際ニュースにさえあまりなっていなかったかもしれない。
「極右」も「極左」も議席数を伸ばした
スウェーデン民主党が49議席から62議席に議席数を伸ばしたことには変わりはないが、スウェーデンでは「極左」にあたる「左翼党」も21から28議席と増えた。
他にも、中央党、自由党、キリスト民主党と、右派左派ともに、小政党らは議席数を増やした。
議席数を減らしたのは、右派左派のリーダーである最大政党2党と、「緑の環境党」。
既存政党と、あまり結果を残せなかった緑の党に、国民から厳しい評価がくだされたことになる。
総選挙でスウェーデン民主党が、不安定な政権を揺るがすジョーカーとなったことには変わりはない。
だが、実は左派ブロックは、右派ブロックよりも1議席多いという事実があるように、国内外で騒がれていたほど、左派は数字を落とさなかった。スウェーデンの社会民主主義が、がたがたと崩れたというわけではない。
そして、話題を集めた極右のスウェーデン民主党は、「第2党、もしや、第1党!?」になるかとさえ思われたのに、「あれ、第3党か」という結果に終わった。世論調査通りとはならなかったのだ。
だから、ニュースのタイトルは、見方を変えればこういう書き方も可能ではある。
- 「極右、騒がれていたほど議席数伸ばさず」
- 「極左も議席数を伸ばす、与党入りか」
- 「左派は予想よりも良い結果を残す」
- 「議席数は左派が勝利」
- 「それでも右傾化するスウェーデン」
- 「首相に国民から厳しい判定」
期待や注目が大きかっただけに、スウェーデン民主党の中には「明らかにがっかりしていた」人もいたことは、スウェーデンやノルウェーでは伝えられている。
スウェーデン民主党の狙いは、議席数を増やし、政権に影響を与えることだ。しかし、今でも右派・左派ブロックの両方は、極右と話し合うことさえ否定している。
右派左派が、極右と、「協議交渉くらいはしてみよう」という試みどころか、「極右からの話し合いの招待状」さえも否定しているという点では、スウェーデンは、まだまだ右翼ポピュリストの波には必死に抵抗しているともとれる。
このままでは両派は議会で過半数を得られないため、「宙づり議会」状態となる。
再選挙の可能性もあるが、混乱を避けるために、両派の中道政党らが「中道ブロック」を渋々とつくる可能性もある。
その場合、スウェーデン民主党が中道ブロックから嫌がられることは確実で、狙い通りに政権に影響を与えられなくなる。
もしくは、どうしても首相を出したい右派ブロックがこれまでの伝統を破り、スウェーデン民主党と手を組むか?
不安定な政権は、国民にとってよい状態とはいえない。スウェーデン国会での混乱は続きそうだ。
関連記事
Photo&Text: Asaki Abumi