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スウェーデン選挙には未成年の若者も参加 開票日当日の緊迫感 写真レポート(2)

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
首都ストックホルムに溢れる選挙スタンド Photo: Asaki Abumi

9日に開催されたスウェーデン総選挙。

国・県・市という3つのレベルの選挙が同時に開催された。今年は、右翼ポピュリスト政党「スウェーデン民主党」の存在も、国際メディアでは大きな注目を浴びる。

ノルウェー政治を取材してきた私が、外国人目線で、スウェーデン選挙中の10日間を振り返る。

1本目の記事は「スウェーデン選挙 現地写真レポート(1)」にて。

未来の有権者、若者も政治を議論する

選挙期間中、中学生たちは、学校の宿題で、各政党のスタンドを訪れて、政策質問をしていた。

キリスト教民主党の党員に、質問をする中学生たち Photo: Asaki Abumi
キリスト教民主党の党員に、質問をする中学生たち Photo: Asaki Abumi

15歳のベッラ・へリーンさんとアミーティス・ダイアロードさんは、「政治家に話しかけるのは緊張しない。楽しいよ」と答えた。

各党への質問とその答えを書いた紙。この後は答えをまとめて、クラス内で発表予定とのこと Photo: Asaki Abumi
各党への質問とその答えを書いた紙。この後は答えをまとめて、クラス内で発表予定とのこと Photo: Asaki Abumi
フェミニスト政党のスタンドで質問をしていた子ども。その後ろでは母親が微笑みながら見守っていた Photo: Asaki Abumi
フェミニスト政党のスタンドで質問をしていた子ども。その後ろでは母親が微笑みながら見守っていた Photo: Asaki Abumi

今年は特別な選挙、だから話をしよう

選挙や政治の取材では、異なるエリアに行き、地元の人と交流してみることで、見えてくものもある。今回は、ストックホルムの東西南北で、ホストと交流できる4家庭のAirbnbに順番に滞在した。

どの家のホストも、その家族も、有権者だったため、9日の投票を控えて、政治の話には積極的だった。

「今年の選挙は特別。スウェーデン民主党(ポピュリスト)が支持率を集めそうだし、夏の異常気象で、環境問題と気候変動にまた注目が集まっている」。そう話す人に、滞在中は何人も出合った。

Airbnb3棟目の自宅に戻ると、キッチンには、各党の選挙マニフェストが印刷されて、ずらりと並べられていた。

各党の公約が書かれたマニフェスト Photo: Asaki Abumi
各党の公約が書かれたマニフェスト Photo: Asaki Abumi

「あさきがスウェーデン政治に熱心だから、私も投票前に、もっとちゃんと知っておかなきゃとインスピレーションを受けたの!」と、ママは楽しそうだった。

このお家の机でパソコン作業をしている最中、向かい側のアパートの窓には、とある白い紙が貼られていた。

Photo: Asaki Abumi
Photo: Asaki Abumi

「私の心は、左翼党に。9月9日は、投票に行こう」と書かれていた。選挙への熱意が、ひしひしと伝わってきた。

ノルウェーと正反対で、スウェーデンはEU加盟国、NATO非加盟国だ。NATO非加盟を支持する団体もスタンドを設置。権力者にその声を届けようと、首相宛のポストカードなどを配布 Photo:Abumi
ノルウェーと正反対で、スウェーデンはEU加盟国、NATO非加盟国だ。NATO非加盟を支持する団体もスタンドを設置。権力者にその声を届けようと、首相宛のポストカードなどを配布 Photo:Abumi

北欧政治のつながり、ノルウェーから応援団

北欧の社民党はポピュリストの波にどう対応する?ノルウェーのストーレ党首(左)とスウェーデンのロヴェーン首相 Photo: Asaki Abumi
北欧の社民党はポピュリストの波にどう対応する?ノルウェーのストーレ党首(左)とスウェーデンのロヴェーン首相 Photo: Asaki Abumi

選挙直前、8日には、ノルウェーの左派最大政党・野党「労働党」のストーレ党首が、ステファン・ロヴェーン首相率いる社会民主党を応援しにやってきた。

会場には、労働党青年部の若者ら40人も応援団として登場。

「あさき!」と、話しかけてきたのは、労働党青年部オスロ支部代表のヴィリュグラインさん。オスロで普段取材しているノルウェーの政治家たちとストックホルムで再会するのは、不思議な感じだった Photo:Abumi
「あさき!」と、話しかけてきたのは、労働党青年部オスロ支部代表のヴィリュグラインさん。オスロで普段取材しているノルウェーの政治家たちとストックホルムで再会するのは、不思議な感じだった Photo:Abumi

ノルウェーとスウェーデンの政党同士は、姉妹党として、選挙の際には互いをサポートしあう伝統がある。

ノルウェーの右派最大政党「保守党」のソールバルグ首相も、姉妹党のスウェーデン穏健党をSNSで応援。ノルウェー他党も、続々とスウェーデンに駆けつけていた。

右派ブロックは政権交代を狙う

右派ブロック4党の党首たち。右派と政権樹立協議を望むスウェーデン民主党の党員らが、後ろから見つめていた(左後ろ) Photo: Asaki Abumi
右派ブロック4党の党首たち。右派と政権樹立協議を望むスウェーデン民主党の党員らが、後ろから見つめていた(左後ろ) Photo: Asaki Abumi

スウェーデンでは、ノルウェーよりも右派ブロックは仲がいいなと感じた。

穏健党・キリスト教民主党・自由党・中央党の4党は、「アリアンセン」チームと名乗る。

SNSなどでも、4党の党首の団結が固いことを必死に強調。

「正しく変化を」というロゴの服を着るスウェーデン民主党。右派ブロックと一緒に政権に影響を与えるコマとなることを狙う。だが、右派の反応は冷たい Photo: Asaki Abumi
「正しく変化を」というロゴの服を着るスウェーデン民主党。右派ブロックと一緒に政権に影響を与えるコマとなることを狙う。だが、右派の反応は冷たい Photo: Asaki Abumi

選挙前夜、Airbnb4棟目に戻ると、ホストが友人とワインを飲みながら、私の帰りを待っていた。

「今日の取材はどうだった?」と、聞きたかったようだ。ホストは投票会場で票を数える仕事を翌日に控えており、その友人は国会で働いている人だった。

「スウェーデンでは、選挙の日には、いつもよりちょっとお洒落な服装をするのよ」というような話を聞きながら、その夜は政治の話で盛り上がった。

投票日当日

さぁ、9日。スウェーデンの今後の行方が決まる日だ。

投票会場のひとつ。人々は投票用紙を片手にしてやってくるので、会場の周辺には独特の雰囲気が漂うPhoto: Asaki Abumi
投票会場のひとつ。人々は投票用紙を片手にしてやってくるので、会場の周辺には独特の雰囲気が漂うPhoto: Asaki Abumi

観光地ガムラスタンの投票会場に行くと、各党の党員が無言で選挙人名簿を配布していた。

国の決まりで、党員たちは、投票会場から30メートル離れた場所でないと、政治の話はしてはいけない。そうとはいっても、有権者たちは党員たちに話しかけるのだが Photo: Asaki Abumi
国の決まりで、党員たちは、投票会場から30メートル離れた場所でないと、政治の話はしてはいけない。そうとはいっても、有権者たちは党員たちに話しかけるのだが Photo: Asaki Abumi
会場周辺では、「選挙に行こう!」と歌う人々もいた Photo: Asaki Abumi
会場周辺では、「選挙に行こう!」と歌う人々もいた Photo: Asaki Abumi
ゆっくりと、ゆっくりと歩きながら。高齢の女性が、大事な一票を手にもって、会場へと向かう Photo: Asaki Abumi
ゆっくりと、ゆっくりと歩きながら。高齢の女性が、大事な一票を手にもって、会場へと向かう Photo: Asaki Abumi

投票会場では有権者にインタビューもした。これは別の記事で報告予定。

さぁ、開票

投票が締め切ったのは20時。

どの党を訪問しようか迷ったが、この日の開票の夜は、右派リーダーの穏健党の選挙集会で、結果を見守ることとした。

穏健党の選挙集会 Photo: Asaki Abumi
穏健党の選挙集会 Photo: Asaki Abumi

次々と開票され、結果が更新された夜。

右派・左派ブロックの差は、予想通りわずか。報道陣からすると、「勝者がいない夜」となった。

ノルウェーで政治を追っていると、「政治家はポジティヴだ」とよく思う。他者からは敗北に見えても、負けや過ちを認めたがらない政治家は、様々な解釈で、結果をポジティブに捉え直す。

この選挙の夜も、緑の党以外は、全党が勝ち宣言をしていた。首相は退陣宣言をせず、右派ブロックは首相に辞任を求める。

ポピュリストのスウェーデン民主党が勝者かという見方は、別の記事にて。

結果として、緑の党を除いて、どの党の党首も、残念だったと認めない、喜びのスピーチをすることに。

選挙結果を喜び、首相の退陣を要求する穏健党党首。しかし、選挙結果はどの党にとっても微妙な緊迫感を残したままだ Photo: Asaki Abumi
選挙結果を喜び、首相の退陣を要求する穏健党党首。しかし、選挙結果はどの党にとっても微妙な緊迫感を残したままだ Photo: Asaki Abumi

緑の党には悔しい結果に

北欧の緑の党やポピュリスト政党に興味がある私には、スウェーデンの緑の党の衰退は興味深かった。政権入りしたスウェーデン緑の党のこれまでの成功の軌跡を、自慢にしていたノルウェー緑の党には、苦い味のする夜となっただろう。

スウェーデン国民が、環境問題や気候変動に関心が低くなったわけではない。ただ、「緑の党」が必ずしもよりよい解決策ではないかもしれないという、4年間辛抱強く付き合った、国民からのメッセージだ。

緊迫するプレスルーム

穏健党の選挙集会のプレスルームでは、各国の記者たちが、パチパチとノートパソコンで記事を書いていた。

プレスルームで仕事する報道陣 Photo: Asaki Abumi
プレスルームで仕事する報道陣 Photo: Asaki Abumi

しかし、右派と左派ブロックの差はわずか。

各地の開票結果がテレビ中継で発表される度、結果がころころと変わるので、記者たちは首を振りながら笑い、何度も記事を書き直していた。

スウェーデンはどこに向かうのか、不安定な政権に

選挙翌日の朝、電車には「ロヴェーン首相を、有権者が罰する」という新聞記事の紙面が Photo: Asaki Abumi
選挙翌日の朝、電車には「ロヴェーン首相を、有権者が罰する」という新聞記事の紙面が Photo: Asaki Abumi

10日の昼間、ノルウェーに戻る前に、スウェーデンのDagens Nyheter新聞社を訪問。ヒューゴ・エヴァルド記者が出迎えてくれた。

「昨日は新聞社で、深夜3時まで働いていた。やっと家に帰って寝ているスタッフが多いから、今日の仕事場はこれでもガラリとしているほうだよ」。

新聞社のパネルボードには、各党の得票率が書かれており、現場の緊張した雰囲気が残っていた Photo: Asaki Abumi
新聞社のパネルボードには、各党の得票率が書かれており、現場の緊張した雰囲気が残っていた Photo: Asaki Abumi

「右派ブロックも左派ブロックも、スウェーデン民主党とは組まないと言っている。でも、それでは過半数には届かない」。

「右派の社会民主党と緑の党、左派の中央党と自由党による、中道ブロック誕生の可能性もあるからね」と語るエドヴァルド記者。

一体だれが首相となり、どの党が与党となるのか。

異色ブロックであるスウェーデン民主党にどう向き合っていくのか。

不安定となるであろう、これからの政権の行方を映した選挙となった。

※ポピュリスト「スウェーデン民主党」などについては別記事をアップ予定

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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