仮面も食べられる? あの有名ミュージカルをテーマにした全く新しいコース料理
ミュージカル観劇時の食事
ミュージカルなどを観劇する際、劇中に座席で食事をとることができません。観劇は全部で3時間近くかかることが多いため、観劇前に食事をとるか、観劇後に食事をとるかで悩んでしまうこともあります。
観劇前であれば空腹は満たされますが、服に匂いがついたり、眠くなったり、トイレに行きたくなったりしてしまうかもしれません。観劇後であればこういったことは起きませんが、お腹が空いたり、帰宅時間が遅くなったりしてしまうでしょう。
このように観劇と食事はなかなか難しい関係にありますが、実は最近、有名なミュージカルをテーマにしたコース料理が話題となっています。
それは、メズム東京、オートグラフ コレクション(以下、メズム東京)の「シェフズ・シアター(Chef’s Theatre)」で2021年9月13日から2022年1月10日にかけて提供されている「『オペラ座の怪人』ランチ&ディナー プログラム」。
ミュージカルをテーマにしたコース
メズム東京と隣接するJR東日本四季劇場[秋]では、劇団四季による人気ミュージカル「オペラ座の怪人」が上演されています。この「オペラ座の怪人」の世界をイメージしたコース料理が体験できるのです。
ランチ(5,700円)とディナー(11,400円)が提供されており、ランチにはワイン3杯(3,600円)とモクテル3杯(1,980円)のペアリング、ディナーにはワイン5杯(6,400円)とモクテル4杯(2,640円)のペアリングも用意。
※いずれも税・サ込
ランチとディナーの内容は以下の通りです。
ランチ
・蘇る記憶
オマール海老 / 根セロリ / バニラ
・歌劇ハンニバル
信州サーモン / マスカット / 季節野菜
・音楽の天使
仔羊 / アンディーブ / ヘーゼルナッツ
もしくは
・オペラ座の怪人
本日のお魚 / ムール貝 / 香草
・ファントムの怒り
栗 / カシス / ヨーグルト
・スペシャルティコーヒー / 小菓子
ディナー
・マスカレード
アミューズブッシュ
・墓場の決闘
フォアグラ / 無花果 / 季節野菜
・ドン・ファンの勝利
羽太 / 渡り蟹 / 香草
・ファントムの隠れ家
ブレス産仔鳩 / ポルチーニ茸 / 栗
・愛の結末
フロマージュブラン / ペッシュ・ド・ヴィーニュ / 薔薇
・スペシャルティコーヒー / 小菓子
ランチはアミューズ、前菜、魚料理もしくは肉料理、デザートの4皿コース、ディナーはアミューズ、前菜、魚料理、肉料理、デザートの5皿コースとなっています。大きな特徴はランチが「オペラ座の怪人」の1部目、ディナーが「オペラ座の怪人」の2部目に相当しており、それぞれのメニューが代表的なシーンを表現していること。ランチとディナーのアイドルタイムは幕間といってもよいでしょう。
このような大きな構想のもと考えられたコースはなかなかありません。来年の初めまで続けられるコースで時季によって食材も新しくなります。
では、いくつかメニューを紹介していきましょう。
ランチ/蘇る記憶
ランチの最初に提供されるアミューズです。
舞台上では1905年のパリ・オペラ座。劇場の所有物がオークションにかけられ、出品されたシャンデリアのヴェールが取り払われたシーンとなります。
アミューズはシャンデリアを模したカクテルグラスの一品。バニラの風味を付けたオマール海老に百合根と根セロリのサラダ、百合根のムースといった構成です。百合根の食感と根セロリの香りが印象的。シャンデリアのきらびやかさと、味わいの華やかさが重なり、物語へと引き込まれます。
ランチ/歌劇ハンニバル
ランチの前菜は、オペラ「ハンニバル」の舞台稽古中、「オペラ座の怪人」の仕業と思われる謎めいた出来事が起こる場面を表現した一品。
脂がのった信州サーモンの味わいを純粋に味わえるようにと、シンプルに塩と砂糖でマリネし、オリーブオイルで香ばしくコンフィしました。周囲に添えられた色とりどりの季節野菜が賑やかな舞台稽古をイメージしています。
ディナー/ドン・ファンの勝利
ディナーの魚料理です。
怪人が自作したオペラ「ドン・ファンの勝利」が披露される場面。ドン・ファン役の演者と入れ替わっていた怪人が舞台上で愛を告白し、再びクリスティーヌを連れ去ります。
旬の白身魚を用いており、皮目はパリッと香ばしく焼き、身はふっくらとソテーにしました。ホウレンソウやハーブ、ツブ貝、ブランダードを白身魚にのせています。
劇中に登場する酒場のワゴンと舞台の賑やかさを演出。劇中でクリスティーヌが手にする赤いリンゴは、トマトとレモンを合わせたコンディメントに。濃厚な渡り蟹のビスクソースが印象的です。
ディナー/愛の結末
ディナーのデザートで、最後の一品となります。
怪人から究極の選択を迫られたクリスティーヌが、怪人に意を決して近づき、オペラ座を舞台にした物語は結末を迎えます。
怪人の仮面をグラスロワイヤルで表現したという、意欲的なアシェットデセール。仮面の下には、 口の中で溶ける上品なフロマージュブランのムース、中には鮮やかなワインレッドの爽やかなペッシュ・ド・ヴィーニュ(ブドウ畑に植えられた桃)のコンポートが挟まれて います。哀しくも美しい愛の物語の結末が凝縮された一皿です。
物語に綿密に沿っている
ここまでいくつか紹介してきましたが、改めて特筆するべき点を紹介していきましょう。
まず言及しておきたいのは、舞台の場面を忠実に表現したメニューであること。どれも舞台上の特定シーンをドラマティックに切り取り、料理やデザートへと、美しくまとめ上げています。ミュージカルのシーンを表現するようなコースは、あまりにも労力を要するので、これまで見たことがありません。
どのような食材をどのように調理してシーンを表現しているのか、実際に見て食べるのはとても楽しいことでしょう。
ランチとディナーで完成
ランチが第1幕目、ディナーが第2幕目であり、両方を通して完成するという枠組みも非常に新しいです。最先端のイノベーティブレストランであっても、ランチとディナーで完結するという試みは見かけられません。
もちろん、ランチとディナーでは、それぞれがひとつのコースとして組み立てられているので、ランチだけでもディナーだけでも満足できます。ただ、これよりもさらに大きな構想として、ランチとディナーを通してひとつの物語を体験できるのは、これまでにはない斬新な手法であるといえるでしょう。
充実したペアリング
ペアリングが非常に充実しているのも魅力的な点。
料理には全てアルコールおよびノンアルコールのペアリングドリンクが用意されています。アルコールだけではなく、ノンアルコールも考案されているのは驚くべきところ。しかも、このペアリングドリンクも舞台上のシーンに沿ったものになっているのです。
料理を引き立てているだけではなく、味わいや色合い、香りや風味、ボトルの形状が場面とリンクしています。新たな楽しみが増えるので、是非ともペアリングも注文した方がよいでしょう。
開催された背景
「『オペラ座の怪人』ランチ&ディナー プログラム」は凝りに凝った内容となっていますが、どのような経緯で開催されることになったのでしょうか。
メズム東京は、JR東日本の子会社である日本ホテルが運営するホテルです。
「オペラ座の怪人」が上演されているのは、同じくJR東日本が運営するJR東日本四季劇場[秋]。旧四季劇場の伝統と歴史を受け継ぐ劇団四季の新拠点として、2020年10月24日に都会のオアシス「WATERS takeshiba(ウォーターズ竹芝)」内に誕生しました。
JR東日本は再開発地区の竹芝を盛り上げようとしており、また劇団四季の理念に共感したメズム東京のフレンチレストラン「シェフズ・シアター」による「五感を魅了する美食体験」を提供すべく、「オペラ座の怪人」とのコラボレーション企画が持ち上がったのです。協業の相乗効果によって、メズム東京もJR東日本四季劇場もより多くの人々に注目されています。
今回の「『オペラ座の怪人』ランチ&ディナー プログラム」は、ランチとディナーのプランが用意されているだけではありません。
ランチとディナーが楽しめる上に宿泊も付いた「ランチ&ディナー プログラム 付き宿泊プラン」や、宿泊者を対象に滞在中に劇団四季のミュージカル(全劇場対象)を観劇すると「シェフズ・シアター」で利用可能な5,000円分のホテルクレジットが付くプランも用意されています。
さらには「オペラ座の怪人」をモチーフにしたコンセプトルームもつくられるなど、とても力が入れられているのです。
クリエイティブディレクターの存在
物語をこれだけ忠実にコースとして表現するのは並大抵のことではありません。
この不可能を可能にしているのが、クリエイティブディレクターである小泉堅太郎氏の存在。メズム東京に関わる全てのクリエイティブを考案し、制作するという重責を担っています。
街場のレストランはもちろんのこと、どのようなラグジュアリーホテルであったとしても、クリエイティブディレクターという役割は通常設けられていません。しかし、総支配人である生沼久氏による、一貫したブランディングに基づいた他とは一線を画する創作的な商品をつくるという考えのもと、クリエイティブディレクターが置かれました。
生沼氏は前職のモクシー東京錦糸町でキャプテン(モクシーにおける総支配人)を務めていた時に、仕事を通して小泉氏と知り合います。その時に、生沼氏が小泉氏の才能に惚れ込み、メズム東京の開業準備に際し、クリエイティブディレクターとして小泉氏を招聘したのです。
小泉氏がコンセプトから物語、プレゼンテーションや見せ方を立案し、キュリナリーマイスター(総料理長)である隈元香己氏、ペストリーを担うキュリナリーアーティストの養父直人氏、さらにはマーケティング部門と協力し、数々の魅力的な商品を紡ぎ出しています。
絵画をモチーフにしたアフタヌーンティーも大人気に
このクリエイターチームは「『オペラ座の怪人』ランチ&ディナー プログラム」の前にも既に大成功を収めています。
2020年11月9日から絵画をモチーフにしたアフタヌーンティー「アフタヌーン・エキシビジョン」の提供を開始。第1弾はサルバドール・ダリの「記憶の固執」、第2弾はヨハネス・フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」、そして第3弾となる現在はレオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」をテーマにしました。
物語や設定が丁寧につくり込まれており、非常に完成度の高いアフタヌーンティーであったことから、今では予約するのが困難となるほどの人気に。この試みが大成功したことによって、他のホテルなどでも絵画をテーマにしたアフタヌーンティーが流行しているのです。
絵画をモチーフにしたアフタヌーンティーの次には、ミュージカルをモチーフにしたコースを創出したメズム東京。これからも他のホテルに先んじて食のシーンをリードしていくことが期待されます。