JRがつくったお洒落なホテルはどこ? そこだけで食べられる五感を刺激する料理
日本全国にあるJR
日本に暮らしていて、JRを利用したことがない人はいないでしょう。
JRはJapan Railwaysの略称であり、1987年に日本国有鉄道が民営化する時に分割して発足したJR北海道(北海道旅客鉄道)、JR東日本(東日本旅客鉄道)、JR東海(東海旅客鉄道)、JR西日本(西日本旅客鉄道)、JR四国(四国旅客鉄道)、JR九州(九州旅客鉄道)、JR貨物(日本貨物鉄道)の総称です。
東京都に在住していればJR東日本が有する山手線や中央線に日々乗車していたり、大阪府のビジネスパーソンであればJR東海の東海道新幹線を数ヶ月に1度は利用していたりするのではないでしょうか。
日本ホテルを傘下にもつ
JRというと鉄道のイメージが強いですが、JR東日本の傘下には1981年に設立した日本ホテルがあり、東日本の各地にホテルを展開しています。
東京駅と一体化した東京ステーションホテル、2020年5月18日にオープンしたばかりのホテルメトロポリタン川崎といったメトロポリタンホテルズなど、日本ホテルは数多くのブランドを擁しています。
その中で今、特に話題となっているホテルが、2020年4月27日に浜松町の「ウォーターズ竹芝(WATERS takeshiba)」高層棟に開業した「メズム東京、オートグラフ コレクション」。
なぜ注目されているかというと、日本ホテルがマリオット・インターナショナルと初めて提携したホテルだからです。
オートグラフ コレクション ホテルとは
オートグラフ コレクション ホテルは、どのようなホテルブランドでしょうか。
30以上の国と地域において、絶好のロケーションを誇る180軒以上の独立系ホテルを有しているコレクションホテルです。それぞれの個性を大切にしており、各ホテルがたったひとつしかない特別なものということから「Exactly like nothing else(唯一無二)」を志向しています。
「メズム東京、オートグラフ コレクション」は東京ベイの新名所である「ウォーターズ竹芝」高層階に入居していることから、コンセプトは「TOKYO WAVES」。
浜離宮恩賜庭園をはじめとした東京ベイエリアの眺望、アートや音楽にこだわった空間、最低でも40平方メートルを超える広々としたゲストルームを有しています。
スタッフがスターサービス クルーと呼ばれていることや、ヨウジヤマモト社の「Y's BANG ON!(ワイズバングオン)」がホテルと初めてコラボレーションしたジェンダーレスなユニフォームを採用していることも特徴的です。
また、ホテルはよく専門職の集団であると表現されており、縦割りの組織が基本ですが、「メズム東京、オートグラフ コレクション」には宿泊部門や料飲部門といった部門が存在せず、ワンチームでサービスしています。
食も注目
コンセプトやロケーション、デザインや設備に加えて、食にも注目です。「メズム東京、オートグラフ コレクション」が擁している料飲施設は以下の2つ。
- シェフズ・シアター(Chef’s Theatre)
- ウィスク(Whisk)
「シェフズ・シアター」は、伝統的なフランス料理をスタイリッシュにアレンジし、ビストロのようにリラックスした雰囲気の中でオープンキッチンのライブ感を楽しめるダイニング。朝食は人気のエッグベネディクトやオムレツ、フランス・ジュラ地方の郷土料理などからメインを選べるアメリカンブレックファストを、ランチには前菜からプチフールまで全5品のコースを、ディナーでは五感(見た目、食感、味わい、香り、音)を旅する全5品のコースを提供しており、時間帯によって異なる料理や雰囲気を楽しめます。
「ウィスク」は「アーティストのアトリエ(工房)」をテーマにしたミクソロジーバー。「ウィスクする」=「混ぜる、泡立てる」という言葉の通り、伝統と革新、刺激と趣き、静と動など、様々なものが混ざり合うことをコンセプトにしています。著名な絵画をモチーフにしたオリジナルのミクソロジーカクテルがシグネチャーです。
※新型コロナウイルスの影響で変更になっていますので、詳細は公式サイトをご確認ください
総料理長
「シェフズ・シアター」および「ウィスク」を率いるのが隈元香己氏。総料理長ではなくキュリナリーマイスターという肩書になっているのも、他ホテルと違うところです。
隈元氏は1988年都内フレンチレストランで料理人としてのキャリアをスタートし、1993年にホテルメトロポリタン エドモント(現・日本ホテル株式会社)へ入社。
日本人で初めてミシュランガイドの星を獲得した日本ホテルの統括名誉総料理長である中村勝宏氏の薫陶を受けます。
2014年1月には、フランス料理界の巨匠ジョエル・ロブション氏が審査委員長を務めるフランス料理界の権威あるコンクール「第64回プロスペール・モンタニェ国際料理コンクール」で、日本人として2人目、日本在住の日本人としては初めての優勝という栄誉に浴しました。
主な受賞歴
- 2004年「第11回メートル・キュイジニエ・ド・フランス・ジャン・シリンジャー杯」優勝
フランス料理文化センター主催
- 2004年「トロフェ・インターナショナル・ド・キュイジーヌ・エ・パティスリー」優勝
アカデミー・キュリネール・ド・フランス主催。フランス料理の世界大会
- 2014年「第64回プロスペール・モンタニェ国際料理コンクール」優勝
クラブ・ガストロノミック・プロスペール・モンタニェ主催。審査委員長はジョエル・ロブション氏。日本人として史上2人目
主な受賞歴をみても、積極的にコンペティションに出場し、自らの実力を高めようとする料理人であることがわかるでしょう。
ディナーコースの詳細
「シェフズ・シアター」で隈元氏の料理を最も楽しむにはディナーコースが一番。「祝宴」と題されたコースは以下の通りです。
Fanfare - 祝宴 -
※7月1日以前のメニュー
- Chapter 1/Awake- 目醒め-
アミューズブッシュ
- Chapter 2/Breeze- 息吹-
フォアグラ / 土佐文旦 / 独活
- Chapter 3/Season- 旬-
鮎魚女 / 季節野菜
- Chapter 4/Festival- 祝祭-
仔羊 / レモングラス
- Chapter 5/Garden- 花園-
エクアドル産カカオ / 有機レモン
- 小菓子、猿田彦スペシャルティコーヒー
※7月1日以前のメニュー
Vendee - ヴァンデ地方 -
※7月1日以降のメニュー
- Chapter 1/Awake- 目醒め-
アミューズブッシュ
- Chapter 2/Floral- 花園-
青トマト / 青唐辛子 / 独活
- Chapter 3/Coast- 海岸-
鱸 / 塩レモン / タラゴン
- Chapter 4/Challans- シャラン-
シャラン産鴨 / 茄子 / 黒大蒜
- Chapter 5/Fireworks- 花火-
ブリアサバラン / マンゴー
- 小菓子、猿田彦スペシャルティコーヒー
コースはまるで物語のようにChapterが振られており、アミューズから冷前菜、魚料理、肉料理、デザートへと展開していきます。それぞれのChapterで、五感のいずれかを刺激するというコンセプトになっているのも興味深いところです。
あえてソムリエが置かれていないのも特徴的。その理由はアート、音楽、エチケットなど、感性からワインをセレクトしたいからということです。ワインを選ぶのに迷ったら、その時のフィーリングに合ったエチケットのデザインで選ぶのも「シェフズ・シアター」ならではの楽しみ方です。
アミューズブッシュ
最初に供される「アミューズブッシュ」は視覚を意識したもので、溶岩石をプレートにして4種のアミューズが並べられています。
肝の苦味が効いたソースと合わせた稚鮎のフリット、フレッシュなカワハギのセイボリー、甘味ある甘海老が載せられたイカスミのライスクラッカー、パルミジャーノ・レッジャーノのソースを包み込んだパスタのフリットと、見た目だけではなく、食感も味わいも異なる取り合わせ。
フォアグラ / 土佐文旦 / 独活
「フォアグラ / 土佐文旦 / 独活」は食感に焦点を当てた一品です。フォアグラに定番のブリオッシュと共にいただきます。
プレートの上には横に細長くプレゼンテーションされた料理が2つ。手前がフォアグラで、層の間には、甘味と酸味のバランスがいい土佐文旦のコンフィチュールが挟まれています。奥にはハーブが載せられたウドがあり、朴訥な味わいが濃厚なフォアグラとよいコントラスト。
鮎魚女 / 季節野菜
「鮎魚女 / 季節野菜」は味覚にフィーチャーした魚料理です。
三浦半島のアイナメをポワレして、魚介の出汁でつくられたブイヤベースのソースが目の前でかけられます。旬のアイナメの美味を、ブイヤベースがさらに引き出しているといってよいでしょう。
自家製ラビオリに包まれているのはイカと野菜。ハマグリやソラマメ、サフランで煮たジャガイモやペコロスが付け合わされており、様々な味覚を楽しめます。
仔羊 / レモングラス
「仔羊 / レモングラス」は嗅覚を刺激するメインディッシュ。
厚みのある骨付き仔羊ロースをローストし、レモングラスで香りを付け、爽やかな風味に仕上げています。大きな鍋で火を入れ、テーブルで見せてから切り分けてくれるので、臨場感たっぷり。
仕上げにジュ・ダニョー(仔羊の出汁)のソースをかけてもらい、さらに香りが広がります。ガルニチュールのゴルゴンゾーラで風味付けたシイタケ、バニラバターで香りを加えたタマネギも豊かな香り。
エクアドル産カカオ / 有機レモン
最後のデザートは「エクアドル産カカオ / 有機レモン」で、聴覚に働きかけるという意欲作。伝統菓子のヴァュランを、モダンな見た目と軽やかな味わいに仕上げました。
レモンのメレンゲ、ソルベ、カカオクリーム、ジンジャーのコンフィチュールといった構成で、レモンの酸味となめらかなカカオクリームでメリハリがあります。
周りを包むメレンゲと間に挟まれた飴細工のサクサクとした食感が楽しいです。
隈元香己氏へのインタビュー
五感をテーマにしたコースを生み出した隈元氏とは、どういった料理人なのでしょうか。
料理において最も大切にしていることは「見た目がよいだけではいけない。手を加えすぎず、シンプルに素材のポテンシャルを引き出すことが重要。調理の基本に忠実でなければならない」と食材へのリスペクトを真っ先に挙げます。
いくつものコンペティションでよい成績を収めていることも興味深いです。
隈元氏は「指導者に恵まれた。とにかく丁寧に丁寧にと、しっかり料理を作るように教えられた。それがよい結果を結んだのではないか」と振り返ります。
これまで様々な経験を積んでいますが「シェフズ・シアター」はどのようなレストランであると感じているのでしょうか。
「オープンキッチンは初めて。キッチンでの所作がゲストから見えるので、タイミングを図って魅せることを意識している。オペレーションを確立していき、ますますゲストに楽しんでいただけるようにしたい」と述べます。
隈元氏は2019年1月頃にジョインしてから、どのようなレストランにしようかと思案してきました。
「賑やかで活気があって入りやすく、手頃な値段でおいしいものが食べられるダイニングにしたいと考えた。陶芸作家のイイホシユミコ氏にオリジナルプレートを作成してもらうなどテーブルウェアにもこだわっている」と振り返ります。
今後については「もっと江戸前の食材を使いたいが、まずはしっかりと足固めをしていきたい。チームワークを強めていって、スキルアップしていく」とあくまで基本に忠実です。
キュリナリーマイスターの理由
隈元氏は総料理長のポジションにありますが、キュリナリーマイスターという珍しい肩書になっています。その理由は、調理スタッフがキュリナリーアーティストという位置付けなので、彼らを束ねる棟梁はマイスターであるからということです。
30人を超えるキュリナリーアーティストを率いるキュリナリーマイスターの隈元氏が、これから、どのような唯一無二の料理を紡ぎ出していくのか今後も楽しみです。