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【ニシキヤキッチン】人気レトルトカレー開発の裏側を聞く!「インドカレーの魅力を伝えたい」

こうしんりょーたろうスパイス料理研究家

 「レトルトカレーとは思えない美味しさ」「インドで食べたそのままの味」レトルトカレーファンのみならずインド料理マニアをも唸らせるNISHIKIYA KITCHEN(ニシキヤキッチン)のインドカレーシリーズ。開発14年目となる2024年5月には、全面リニューアルされ、9種のカレーが販売されました。その美味しさの秘密と商品開発の裏側を商品企画課の佐藤瑠恵さんに聞きました。(インタビュー・記事/こうしんりょーたろう)

NISHIKIYA KITCHEN(ニシキヤキッチン)
レトルト食品専門メーカー「にしき食品」(1939年創業)の自社ブランド。”世界の料理を「カンタン」に。”をコンセプトに、カレーやスープ、パスタソースやおかゆなど約120種類のレトルト商品を販売している。本社は宮城県岩沼市。

佐藤瑠恵(さとう・りえ)
株式会社にしき食品商品開発部商品企画課次長。SCA認定スパイスコーディネーター。自社ブランド「NISHIKIYA KITCHEN」の商品企画を担当。インドには約14年前から通い、ほぼすべての商品の企画・開発を手掛けた。一番好きな商品は「南インドのクリーミーフィッシュカレー」。趣味はアウトドア、バーベキュー、食べ歩き旅行。

さらなる美味しさを求めるインド研修

― ニシキヤキッチンのインドカレーシリーズは、マニアの間でも現地の味の再現度が凄いと評判です。美味しさの秘密を教えてください。

 インドカレーシリーズの土台となっているのが、商品開発チームが毎年行っている「インドへの研修」です。シリーズ以前にもレトルトカレーを販売していましたが、もっと美味しいカレーを作るためにインド料理を極めることが必要だと私たちは考えました。インド料理を学ぶにはやはり現地で学ぼうと2010年にインド研修を行ったことがインドカレーシリーズのルーツです。2010年以降、コロナ禍の数年間渡航できない時期もありましたが、この14年間で20回程インドに渡り、現地のレストランや食堂、家庭にもお邪魔して様々なカレーを食べ、その作り方や考え方について学んできました。このインド研修で得た経験や学びをもとに、研究と開発が行われています。

研修中に市場に立ち寄る
研修中に市場に立ち寄る

― 研修はハードだとお聞きしました。

 そうなんですよ(笑)研修では、1日に約30種類ものカレーを食べます。それだけでもハードなんですが、東西南北と広いインドの様々な地域に行くので移動もたいへんで…。例えば、北インドのデリーに18時に着いて、まずカレーを食べて、ホテルについたのが22時。夜中の1時半にホテルを出発して次は南インドへ移動するといった時もあります。本当に体力勝負で、身体をはってインド料理を学んでいます。

レストラン研修の様子
レストラン研修の様子

無いものはつくる

― 素材や調理法にも相当こだわっているそうですね。

 インド料理は、スパイスと塩で素材の美味しさを引き出す調理が基本です。ニシキヤキッチンでもその調理法にならい、素材を活かした味づくりを大切にしています。スパイスの香りを立たせるテンパリングという技法を用いたり、バターチキンに欠かせないカシューナッツを自社でペースト加工したり、ガラムマサラ(ミックススパイス)の配合をカレーによって変えたり、肉を自社でグリルしたりと、その料理が一番美味しくなるレシピを追求しています。
 また、レトルトにしたときに一番美味しくなるレシピを研究しています。例えば、スパイスの香り。高温加熱するレトルト食品はどうしてもレトルト後に香りが落ちてしまいます。そのため、香りが落ちることを考慮して、開封後に最高の香りとなるようスパイスの配合を細かく調整しています。塩素を徹底的に除去した純度の高い水やまろやかな味わいのシママース、圧搾一番搾り菜種油を使うなど、カレーのベースとなる水、塩、油にもこだわっているのですが、こちらもすべてレトルトにした際に一番美味しくなるという視点で素材を選んでいます。

商品開発部での試作の様子
商品開発部での試作の様子

― スパイスをはじめ日本では手に入らない素材もあると思いますが。

 私たちはインド研修のなかで「この味を日本に届けたい」と感じたカレーを、現地の味わいそのままに商品化したいと考えています。現地の味を再現しようとしたときに、どうしても日本で手に入らない原料もあります。
 その中でも特に苦労したのが、フレッシュのカレーリーフです。カレーリーフは南インドのカレーには欠かせないスパイスです。乾燥させたものは開発当初も入手可能でしたが、フレッシュな状態のものを国内で入手することは困難でした。しかし、現地の味を再現するにはどうしてもフレッシュのカレーリーフは欠かせない。作り手として中途半端なことはできないという思いから「手に入らないのならば作るしかない」と独自生産に踏み切りました。本社のある宮城県蔵王町の農家に協力いただき、4年の歳月をかけてカレーリーフを栽培することに成功しました。
 また、北インドのカレーに欠かせない食材であるパニールというフレッシュチーズがあるのですが、これも当時日本では入手が困難だったため、蔵王酪農センターに協力いただき、試行錯誤の結果、完成させることができました。
 もちろんインドから輸入しているものもあります。カシミールチリというインドの唐辛子があるのですが、こちらも国内で入手することが困難で、当初は作ろうかという話になりました。しかし、カシミールチリの独特の風味はインドで生産されてこそ生まれる味わいだったため、お取引先メーカーの協力を得て直接輸入することにしました。このカシミールチリは9月販売予定の新商品に使用されています。

ビニールハウスで栽培されるカレーリーフ
ビニールハウスで栽培されるカレーリーフ

「もっとインドカレーを知って欲しい」14年目のリニューアル

― 開発14年目となる今年、全面リニューアルするに至った理由を教えてください。

 インドカレーシリーズのリニューアルは実は4回目になります。現状の味に満足することなく、さらに美味しい商品を作っていくためにだいたい3年に1回の頻度で商品の見直しを行っています。インド研修で得た学びと経験を定期的に商品に反映させていくイメージです。
 2019年のリニューアル以降、コロナ禍でしばらくインドに行けない時期がありました。2023年に研修を再開したのですが、久しぶりの研修で得たものがとても多かったこともあり、14年に渡るこれまでの研究成果の集大成として全面リニューアルするに至りました。

ご家庭にお邪魔しての研修の様子
ご家庭にお邪魔しての研修の様子

― 今回のリニューアルのポイントを教えてください。

 今回の全面リニューアルには、「より多くの方にインドカレーの魅力を伝える」というテーマがあります。そのひとつの象徴が、3種類のバターチキンです。
 日本でバターチキンといえば、濃厚でクリーミーなトマトクリームカレーのような味をイメージすると思いますが、インドでは店によって全く味が違います。2023年の研修ではバターチキンの元祖「モティマハル」をはじめ、様々な場所でバターチキンをいただきましたが、スパイスの配合がそれぞれ違うのはもちろん、トマトの酸味が強かったり、チーズを使っていたりとその表現の豊かさに驚きました。日本で知られているバターチキンは、バターチキンの一部でしかないことを知ったんです。そこで私たちは、インドカレーの奥深さを知っていただきたいと3種類のバターチキンを販売することにしました。ぜひ、それぞれ食べ比べていただきたいと思います。
 また、東西南北と地方ごとのインドカレーの多彩なバリエーションを表現したこともひとつのポイントです。南インドのケララフィッシュやシュリンプカレー、9月には南インドのビンダルーも販売が予定されています。インドで研修しているニシキヤキッチンだからこそ表現できる味を追求しました。

スパイシーバターチキンカレーの他、バターチキンカレー、クリーミーバターチキンカレーがある
スパイシーバターチキンカレーの他、バターチキンカレー、クリーミーバターチキンカレーがある

― 食べ方の提案や消費者にわかりやすい工夫などもされているとか。

 そうなんです。実はインドカレーシリーズは、肉や魚のカレーは180g、野菜のカレーは100gと商品によって内容量を変えています。南インドのミールス(菜食料理を中心とした定食)のように、現地では複数のカレーを混ぜて食べる文化もあるんです。実際に野菜のカレーは2~3種類混ぜながら食べると美味しさが倍増するんですよ。日本ではカレーを食べる際に1食につき1種類という方が多いですが、組み合わせて食べる美味しさもぜひ知っていただきたい。そのために、野菜のカレーは内容量をあえて少なくしています。
 また、今回のリニューアルでパッケージを見直し、商品名も日本人にわかりやすくしました。例えば、「ケララフィッシュ」と言われても、初めて食べる人にはどんなカレーかわからないですよね。「南インドのクリーミーフィッシュカレー」と日本語名にすることで、より多くの方に手に取ってもらえるよう工夫をしています。もちろん、マニアの方向けにインド名での記載も残していますので安心してくださいね(笑)

インドカレーイメージ
インドカレーイメージ

― 価格も下がりましたよね。

 これも今回のリニューアルのポイントです。製造工程や原材料を徹底的に見直し、よりお求めやすい価格を実現しました。例えば、もともと600円台だったバターチキンは480円になりました。日常的に食べていただける価格を目指しました。可能な限りハードルを下げてより多くの方にインドカレーを食べていただきたいという思いです。

「未知の美味しさを届ける」挑戦

― 知られていない味を商品として販売する苦労もあったと思います。

 今でこそインドカレーは多くの方に知られるようになってきましたが、この14年の間にはこだわるが故にご理解いただけないこともありました。
 実は過去にすべてのインドカレーの内容量を100gに変えたことがあるんです。マニアの方にはたいへん喜んでいただいたんですが、同時に「なぜ減らした」「減らさないで欲しい」というご意見も多数いただき元の量に戻しました。また、商品化したいカレーが多すぎて、気付けば32種類にまで膨れ上がってしまったこともあります。認知度がまだ低いなかでこれはやりすぎました。
 お客様の反応や日本の市場の動向を見ながら少しずつ改良を重ねて今があります。スパイスやインドカレーが以前より身近になってきているので、私たちが積み上げてきた「こだわり」を理解いただける土壌ができてきたと思っています。

2016年のインドカレーシリーズ
2016年のインドカレーシリーズ

― 今後の目標を教えてください。

 まずは今回リニューアルしたインドカレーシリーズをたくさんの方に食べていただきたいです。そして、シリーズを通じて、より多くの方にインドカレーの魅力を伝えていきたいと考えています。
 ニシキヤキッチンでは、これまでも売れる売れないという視点ではなく、「現地で食べて感動した味を届ける」という信念とこだわりを持って商品開発に取り組んできました。9月には「ビネガー香る南インドのポークカレー」をはじめ3つの新商品が販売予定です。こちらもこだわりにこだわり抜いた商品です。インドカレーの魅力を知っていただきたく、私たちはこれからも挑戦を続けていきます。

インドの味を届け続ける
インドの味を届け続ける

インタビューを終えて

 「インドカレーの魅力を伝えたい」というニシキヤキッチンの熱い思いと佐藤さんのインド愛に終始圧倒されたインタビューでした。食に携わる者の一人として、現地の味をとことん追求し、未知の美味しさを消費者に届ける姿勢にたいへん感銘を受けました。
 この記事を読んだ皆様は、ニシキヤキッチンのカレーを食べたことある方もない方も、リニューアルしたインドカレーを食べたくなってきたでしょう。これがハードなインド研修で学んだ味か、素材や製法も凄いらしいなと、ぜひ熱意とこだわりを噛みしめながら食べてみてください。きっとより味わい深く感じられるはず。そしてリニューアルして実際美味しくなっています。進化を続けるインドカレーシリーズをぜひお試しあれ!
(写真提供/ニシキヤキッチン)

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スパイス料理研究家

スパイスマニアの料理研究家。スパイス&ハーブ「ちょい足し」レシピで、その魅力を伝える活動をしています。趣味はレトルトカレー収集。レシピ開発・コラム執筆・スパイスカレーの監修などをやってます。TBS『熱狂マニアさん』等メディアにも出演。

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