シャヘド136自爆無人機による移動目標であるタンカー攻撃方法の推定
11月15日、オマーン沖でイスラエル系の海運会社イースタン・パシフィック・シッピングが所有するリベリア船籍のタンカー「パシフィック・ジルコン」が自爆ドローン攻撃を受けて損傷しました。死傷者は出ていません。
翌11月16日にアメリカ海軍の爆発物処理班が被害タンカーに乗り込んで証拠品を収集し、アメリカ海軍研究所はイラン製自爆無人機「シャヘド136」の攻撃と断定、11月22日にアメリカ中央軍およびアメリカ海軍中央司令部が分析の結果を発表しています。
以前から頻繁に残骸が発見されてよく見慣れてる五角形の垂直安定版の部品が確認できます。またGNSS(GPSやグロナスなど)の受信機も回収されています。発見された残骸はイラン製自爆無人機「シャヘド136」(フーシ派名称「ワイド」、ロシア軍名称「ゲラン2」)で間違いないでしょう。
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今回のオマーン沖でのタンカー「パシフィック・ジルコン」攻撃は、手口が2021年7月29日に同様にオマーン沖で攻撃を受けたタンカー「マーサー・ストリート」と似通った事例です。どちらもイスラエル企業のタンカーです。
- 2022年11月15日:タンカー「パシフィック・ジルコン」攻撃事件、イースタン・パシフィック・シッピング(シンガポール本社のイスラエル系企業)
- 2021年7月29日:タンカー「マーサー・ストリート」攻撃事件、ゾディアック・マリタイム(イギリス本社のイスラエル系企業)
イランがイスラエルのタンカーを狙って攻撃を仕掛けて来た可能性が高いでしょう。イスラエルはイランを名指しして非難していますが、ただしイランは否定しています。
固定目標しか狙えない筈のシャヘド136による移動目標攻撃
シャヘド136はこれまでの使用状況や回収された残骸を分析した限りでは、地上固定目標に攻撃を行うプログラム飛行型の自爆無人機であり、GNSS(GPSやグロナスなど)で誘導される方式です。無人機というよりは小型の巡航ミサイルと説明したほうが適確で、移動目標を狙うことは出来ません。
しかし現実にはシャヘド136は移動目標であるタンカー攻撃にも使われています。この点が不可解だったので、1年前のタンカー「マーサー・ストリート」攻撃事件の時にはこう予想していました。
ところが、この後の2021年12月にイランがシャヘド136を公開した際にも、2022年9月からウクライナでの戦争にシャヘド136が大量に投入開始されて以降も、シャヘド136に遠隔操作可能な派生型は確認されておらず、該当する残骸の部品も発見されていません。現在までの状況を見る限り、シャヘド136にはそのような光学カメラを搭載した遠隔操作式の派生型は存在しない可能性が高いように思えます。
またパッシブレーダー誘導の可能性も考えましたが、民間船の周囲には他の民間船も多数存在するので、航海レーダーの発信源に向かって突入するのは誤爆の可能性があまりにも高く、現実的ではないように思われます。
AIS-guided attack:AIS情報だけで民間船に突入?
そこで可能性として考えてみたのですが、一定以上の大きさの民間船に発信が義務付けられているAIS(自動船舶識別装置)の情報だけで攻撃を行う方法です。もしこれが可能であるなら、VHF電波で送信されるAISでのリアルタイムの船舶の位置情報を自爆無人機が取得できるなら、光学カメラやレーダーなどの搭載無しにGNSS誘導方式のまま小改造で移動する船舶への攻撃が可能になります。
- 発射前にインターネットのAIS情報サービスで目標船の進路を確認。目標船の未来位置に向かって自爆無人機を飛行させる。
- 自爆無人機が接近したら目標船のAISのVHF電波を拾って識別し、リアルタイムの位置座標を把握して突入する。
ただしこの攻撃方法が技術的に可能であったとしても、狙えるのは民間船だけで、AISを発信する義務の無い軍艦への攻撃には使えません。