アベノミクスでエンゲル係数は急上昇し一人当たりGDPは急降下した
フーテン老人世直し録(284)
如月某日
先週17日に総務省が発表した2016年の家計調査によると、支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」が1987年以来29年ぶりの高水準になった。
食費は生命維持に関わるため極端に切り詰めることが出来ない。そのため「エンゲル係数」は生活水準を示す指標と考えられる。生活水準が上がれば「エンゲル係数」は下がり、生活水準が下がれば「エンゲル係数」は上がる。
戦後の日本は焼け野原から高度経済成長を経て経済大国になった。国民生活が豊かになるにつれて「エンゲル係数」は下がり、2005年には22.9%とそれまでの最低を記録した。ところが第二次安倍政権が誕生した2013年から急激な上昇に転じ、2016年は25.9%と29年前の水準に戻った。
その原因を総務省は、1.円安による輸入価格の高騰、2.全体的な節約志向による消費の抑制、3.夫婦共働き世帯や単身高齢者の増加による外食や調理食品への支出増にあると分析している。
しかし3は安倍政権以前から続く傾向であり、第二次安倍政権誕生から上昇が著しくなったのは、主たる原因が1と2にあることを示している。つまりアベノミクスの金融政策による円安が輸入食料品価格を押し上げ、また全体的な節約志向を生み出し、「エンゲル係数」を上昇させたのである。
アベノミクスは輸出企業や投資家を潤す効果を生んだが、一方で国民生活の水準を押し下げ、景気回復のカギを握る個人消費の抑制につながったことになる。「エンゲル係数」の動向はそれを物語っている。
安倍政権の誕生で顕著になったもう一つの統計資料を以前にブログで紹介したことがある。国民生活の豊かさを示すと言われる「国民一人当たりのGDP」についてである。
GDPは国全体の生産量を表すもので、人口が多ければそれだけGDPも大きくなる。中国のGDPが日本を追い抜いたのは10倍の人口を持つからで、国民の豊かさにおいて日本を追い抜いたわけではない。一方、国民一人がどれだけ生産したか示す「一人当たりのGDP」は先進国ほど高く、新興国ほど低くなる。豊かさを示すのはこちらである。
米国はかつてGDPでも「一人当たりのGDP」でも世界1位だった。日本はGDPで米国を抜くことはできないが、「一人当たりのGDP」で1987年に世界7位となり、8位に落ち込んだ米国を抜き、その後も3位か4位の地位を維持して10年間も米国より上位に居続けた。
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