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日米首脳会談を「満額回答」と言って喜ぶ国家に尊厳はあるか

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(283)

如月某日

安倍総理とトランプ大統領との日米首脳会談から1週間が経った。この首脳会談の結果を総理周辺は「満額回答」と大喜び、帰国後の国会審議では野党から厳しい批判は見られず、トランプ政権の対日姿勢が予想より柔らかだったためか国民の内閣支持率は上昇した。

しかし「満額回答」ってなんだ。春闘じゃあるまいし、日本国民は米国という「経営者」の下で働く労働者なのか。そして日本政府は交渉の先頭に立つ組合幹部なのか。安倍官邸の姿勢はまるで組合が「満額回答を勝ち取った」と宣伝する場面を思わせる。そして結果は本当に「満額回答」だったのか?

首脳会談の注目点は2つあった。安全保障と経済である。トランプ大統領は選挙期間中に米国が日本を防衛している現状に不満を示し、在日米軍の駐留経費増額を主張する一方で、日本との貿易不均衡を問題にしてTPPからの脱退を宣言すると同時に、金融政策が為替操作に当たると非難していた。

これに対して日本政府は米国が安全保障と経済を絡めて取り引きしてくることを警戒した。トランプ氏は自伝に『アート・オブ・ザ・ディール(取り引き術)』とタイトルをつけるほど、ディール(取り引き)を好む人物である。経済での取り引きに安全保障が絡めば、安全保障で米国に弱みのある日本はトランプ大統領の取り引き術に嵌る可能性がある。

そこで経済交渉は麻生副総理とペンス副大統領の間で行うことにして切り離し、安全保障ではマティス国防長官が首脳会談前に来日して「尖閣諸島への日米安保条約第5条の適用」を表明し、米国が日本防衛に責任を持つ姿勢を明確にすることになった。

政府の意向を受けたメディアは「尖閣への日米安保条約第5条適用」を水戸黄門の葵の印籠のように報道する。それが示されれば日本の安全保障は万事うまくいくかのように。そして来日したマティス国防長官は安倍総理、稲田防衛大臣など会う人ごとに何度も何度もその言葉を繰り返した。それが「満額回答」の証明であるかのように。

しかし前のブログに書いたようにそれは米国にとって痛くもかゆくもない。トランプ政権はオバマ政権と変わらないだけで、米国は他国の領土問題に関わって自国の国益を損ねるような真似は決してしない。つまり米国民の税金を使うことも血を流すこともない。米軍が軍事行動を起こすのは米国の国益を損ねると判断された場合に限られる。

尖閣防衛が米国の国益に直接かかわるとフーテンは思わない。日米安保条約は米国が日本防衛の義務を負うと同時に、米国と中国が日本を自立させない共通の利益に立っている。そして米中には軍事衝突を避ける様々なパイプがある。むしろ自国の領土は自国で守るのが当たり前で他国に守ってもらおうと考える方がおかしい。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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