豆類の誤嚥による窒息を予防する - 業界への要望とアンケート結果
2020年2月、島根県松江市の認定こども園で、節分の豆まき行事の際に豆を喉に詰まらせて4歳(当時)の園児が死亡したことを受け、同年4月、NPO法人 Safe Kids Japanと子どもの事故予防地方議員連盟は連名で、日本ピーナッツ協会に対し、「4歳未満の子どもには豆を食べさせないでください」と豆類の包装袋に記載していただきたいと文書で要望した。
参考:「豆・ナッツ類の誤嚥や窒息を予防するために」(Yahoo!ニュース(個人)山中 龍宏 2020年3月12日)
これまでの、保護者・保育者に対する「お子さまがのどにつまらせないよう必ずそばで見守ってあげてください」という注意喚起では不十分で、「乳児にはちみつは与えないこと」という表記と同様に、乾燥した豆類の入った包装袋に危険性を明記すべきであると考え要望した次第である。この要望書は、同年6月、日本ピーナッツ協会から加盟している会員企業に送られた。
要望書の送付から1年が経過し、いくつかの企業では実際に包装袋の表記を変えていることがわかった。そこで今回、会員企業の対応状況等を調査するとともに、企業の率直な意見を収集して課題を抽出し、今後の取り組みについて検討するためにアンケートを行った。
◆調査対象:日本ピーナッツ協会の会員企業 全94社
◆調査方法:日本ピーナッツ協会を通してアンケート用紙を配布
◆調査期間:2021年5月から6月の約1か月間
アンケート結果は
35社(37%)から回答が得られた。但し、94社のうち10%程度の企業は、製菓原料等、一般消費者向けではない製品を製造しているため、本アンケートの対象外であった。
要望書を「すべて読んだ」のは12社(34%)、「ざっと読んだ」のは22社(63%)、「読んでいない」は1社(3%)であった。
要望書を読んでの感想は下記のとおりであった。約半数の企業は、表記を変えたり、変えることを検討したりしていた。
実際に包装袋に表記された写真も送られてきた。
「注意表示を追記するつもりで検討中」と答えた10社に対し、どのような内容を追記する予定かを質問したところ、「5歳以下のお子さんには、豆は食べさせないでください」が2社、「お子さんに豆を食べさせる際は、十分にご注意ください」が7社であった。
注意表示を追記するのがむずかしいと答えた企業に対し、どのような点がむずかしいかをたずねた結果は以下のとおりであった。
「とくに行動は起こさないつもりである」と回答した企業に、その理由をたずねた結果は以下のとおりであった。
自由意見欄には、以下のような記載があった。
・デリケートな問題ではあるが、いずれかは記載するべきでしょう。
・わかりやすいマークを作成、母子手帳や学校の授業等による周知 (餅、ナッツ他)。
・細かな注意書きを書き出すときりがない。
・誤嚥を引き起こす食品は他にもたくさんあるし、子どもだけでなく、おとなや高齢者も可能性があります。年齢にかかわりなく、4歳でも5歳でもまわりにいるおとなの接し方で回避可能な事故ではないかと思います。
今後に向けて
保育の場で、豆による窒息死が発生したことを受け、豆類を製造、販売している企業に対し、乾燥した豆類が入っている包装袋に「4歳までは食べさせないで」という表記の記載をお願いし、一部では実現した。
アンケートにより、回答した約半数の企業では、包装袋に「子どもには食べさせないで」という表記が行われている、または行おうとしていることがわかった。全体的には、今後はこの表記が浸透していくと思われる。安全を最優先すべき保育の場で、それまでに医療関係者にはよく知られていた豆類の危険性が、保育関係者には知られていないことが明らかになったことで、豆類が入った包装袋に危険性を明記する必要性が企業に理解され、それが実現しつつあることがわかった。
豆類の危険性は、保育の場だけでなく家庭でも同じである。包装袋への記載は保護者向けのメッセージでもあるが、この表記だけで誤嚥や窒息が予防できるとは思えない。包装袋の裏に、小さな文字で書かれている警告表示を読む人はあまりいないのではないか。
乾燥した豆類による窒息を防ぐには、どうしたらよいのだろうか?
①実態を知ることが不可欠である。保育の場で死亡するとニュースになるが、実際には、日々、日本中で、乾燥した豆類による気道異物が発生している。多くの場合、入院して気管支鏡で豆を取り出す処置が行われている。
②豆類が気道に入った(誤嚥)状況について、詳しく記録する必要がある。年齢、歯の生え方、嚥下障害の有無、どういう豆か、どういう状況で起こったか(歩きながら食べていて転び、大泣きをして、その後、大きく息を吸い込んだら口の中の豆のかけらが気管に入り激しくむせた、など)、その後の症状、経過(外来受診、入院など)など細かく記録する。
③これらの情報を集めて検討する必要があるが、実際にはむずかしい。保護者は「私が見ていなかったから」と自分の不注意、責任と考えて、どこにも報告しない場合が多い。そこで、企業も行政も一般の人も、豆類による誤嚥が起こっていることを知らない。また、保護者が自発的に豆による誤嚥の情報を提供する場もシステムもない。唯一、継続的に重症度が高い誤嚥の事例の情報を収集できるのは医療機関であるが、いまだその体制は整っていない。
④「豆類を誤嚥した」と企業に報告する消費者はいないので、企業は「豆類による誤嚥」の事例を知ることはできないが、アンケートを行えば実態を知ることができる。抱っこひもからの転落については、抱っこひも安全協議会が定期的に使用状況、転落の有無などのアンケートを行い、子どもの安全のための活動を展開している。これと同じように、豆類を製造・販売している企業は、消費者、あるいは医療機関を対象にアンケートを行って、誤嚥の発生状況を知り、具体的な予防策に結びつける活動を行うとよい。得られたアンケート結果を公表し、メディアを通して豆類の危険性を伝え、安全に食べてもらう活動を展開することが望ましい。
⑤一般社団法人 日本ピーナッツ協会の落花生製品の安全マニュアル(2015年版)には「のど詰め」の項があり、市中で販売されている豆の包装袋には、『「お子様がのどに詰まらせないように必ずそばで見守ってあげてください」「お子様やご高齢の方は、のどに詰めないように注意してお召し上がりください」という注意文をすべての製品に表示することが望まれる』と書かれているが、今後は改訂版を検討し、「5歳までは豆を食べさせないでください」と表記するマニュアルを作成していただきたい。また、今回のアンケートで「わかりやすいマークを」という提案があったが、これは、すぐに検討して包装袋に印刷していただきたい。
終わりに
子どもの安全を確保し、豆を安全に食べてもらうという目的は、われわれも企業も同じです。今回のわれわれの要望に対して、日本ピーナッツ協会、並びに加盟企業の方々には真摯に対応していただきました。この場を借りて心よりお礼申し上げます。今後とも、よろしくご協力のほどお願い申し上げます。