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ノルウェー9政党のうち首相を含む8党の党首が「7年後にはガソリンとディーゼル車の新車販売は終わる」

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
電気自動車(EV)で選挙運動した自由党党首 Photo:Abumi

ノルウェーの主要政党9党のうち、首相を含む8党の党首が、「7年後にはガソリン車とディーゼル車の新車販売は終わっているように、政治家として活動していきたい」と答えた。

ノルウェーでは9月11日に国政選挙がおこなわれた。

投票直前に各党の政策や将来の展望を有権者が知るために、8日には国営放送局NRKで党首議論が生放送された。

番組司会者が出した質問に対し、各党首が「イエス」か「ノー」で答えた際のことだった。ほぼ全員の党首が、ガソリン車とディーゼル車の新車販売に将来的な見切りをつけていることが明らかとなった。

「たくさんの人がイエスと答えましたね!」と司会者は驚く。

唯一、微妙な反応を見せたのは、進歩党の党首であるイェンセン財務大臣。裏表に「イエス」・「ノー」と書かれた手持ちの札を、クルクルと回して両方見せ、立場を明確にできない様子を示した。

「右翼ポピュリスト政党」とされる与党の進歩党は、「車党」とも呼ばれており、車の運転手の味方とされやすい。排ガスを出すからと、ガソリン車とディーゼル車の運転手に対して増税ばかりおこなわれることに懐疑的だ。

「ノルウェーが2025年をめどにガソリン車とディーゼル車の新車販売を禁止する」は誤報?

ガソリン車とディーゼル車の新車販売の終了時期については、ノルウェーでは議論が曖昧になっていた。

昨年の6月、右派産業紙DNは、「右派政権は2025年をめどにガソリン車とディーゼル車の新車販売を禁止する方向で同意」という報道を流した。

このことはすぐさま他国でもニュースとなっていたが、実は続きがある。

与党で首相が所属する保守党は、すぐさまプレスリリースを流し、「誤解を招く書き方だ」とDN紙の報道を誤報だと否定した。

「いずれにせよ、技術進化により、この頃には環境に優しいエネルギーで動く車ばかりになっているだろう。新車販売を禁止する法案をつくる必要はない」というのが党の見解だった。新車販売を強制的に禁止するつもりはないのだ。

この流れは、ノルウェー国内でも、「え?結局どっちなの?」という空気となった。

保守党がすぐさま一生懸命にこの速報を否定する動きに入った理由は、「車党」とされる進歩党の反応を心配したためとされる。

一方、閣外協力する自由党(自称「環境党」)は、「報道は間違っているとはいえない」という反応をしたので、世間や報道陣を混乱させた。

その騒ぎがあった後で、各党の党首がガソリン車とディーゼル車の将来的な新車販売についてどう思っているかが明確に国民に伝わったのが、今回の党首議論での一幕だった。

「いずれにせよ、新車でガソリン車とディーゼル車を選ぶ人は自然といなくなるだろう」という希望

ノルウェーのリーダーたちは化石燃料車に未来を見出せず Photo:Asaki Abumi
ノルウェーのリーダーたちは化石燃料車に未来を見出せず Photo:Asaki Abumi

9党のうち、首相を含む8党の党首が7年後には新規販売の市場や需要はないのではないか、という予測を出したのは画期的ともいえる。

※法律で「禁止する」としているわけではない。他の政治的取り組みや世論の変化などで、新車購入時にガソリン車とディーゼル車を選ぶ人は、いずれにせよ「自然といなくなっているだろう」というもの。必ず達成するというわけではない「展望・目標」だ。ノルウェーの政治家は、達成できないかもしれないが、理想的な高い目標数字を掲げて、市場をその方向に動かそうとする狙いがよくある(効果はある)。ノルウェーから発表される数字は、「必ず達成される」わけではないことには注意しておきたい。

電気自動車の優遇制度は維持するべきだ

その後、各党首たちは車のエネルギー対策について議論。

中道右派政権の4党のなかで、最も環境・気候変動対策に熱心なのは自由党。グランデ党首は、「いまだに半分ほどの人が、化石燃料車を使用しており、ゼロエミッション車の今日の優遇策は維持するべきだ」と強調した。

ノルウェーでは電気自動車における優遇制度があるが、購入者が増えたことから一部の廃止も検討されている。

ガソリン車とディーゼル車の使用者が減れば、有料道路などを走る化石燃料車からの国への環境税などの収入が減る。それでも、イェンセン財務大臣は「車の運転者の党」とされる進歩党党首であるため、「車への税金はできるだけ減らしたい」と話した。

緑の環境党のハンソン共同党首は、「電気自動車の使用者を増やすために、さらに3000の充電スポットを新設するべき」だとコメント。しかし、これに対しては計画性に欠けているとし、議論会場では他党首から笑われていた。

いずれにせよ、ノルウェーのリーダーたちは将来的に国の道路を走っているのは、ゼロエミッション車だろうと考えている。

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2016年のノルウェーでの自家用車における新規購入は、ガソリン車とディーゼル車が59.8%、電気自動車が15.67%、ハイブリッド車が11.17%、プラグインハイブリッド車が13.37%を占める。電気自動車とハイブリッド車を合わせると、シェアは4割を超える。

昨年の電気自動車の新規登録の数は6月は2412台だった一方、2017年6月には4619台となっており、購入者は1年間で急激に増加(ノルウェー電気自動車連盟調べ)。

Photo&Text:Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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