ノルウェー政治の「新しい普通」 「右翼ポピュリストが与党」が当たり前の国に
欧州で台頭しているという「極右」・「右翼ポピュリスト」政党。ノルウェーでは「進歩党」がこのグループに位置する。進歩党は自身をリベラル政党と称するが、素直に受け止めて、そのように表記するメディアはノルウェーにはいない。
11日に迎えた国政選挙では、現政権の中道右派陣営が勝利。保守党と進歩党の連立政権で、自由党とキリスト教民主党が閣外協力をしている。
今回の選挙で敗北し、4年前の国政選挙より3.5%も支持率を落とした労働党(27.4%)は、政権交代を願っていた左派をひどく落胆させることになった。
「欧州の社会民主主義政党の勝利の波」を、ノルウェーの労働党は止めてしまったと現地メディアでは酷評される。
トランプ大統領に負けたヒラリー・クリントン氏を、ストーレ労働党党首と比較する声もあった。ストーレ党首は、選挙運動中に、自身とフランスのマクロン大統領には共通点が多いとも話しており、皮肉に笑う者もいた。
「世界で台頭するポピュリズムの波」に対する「ノルウェーの答え」が、「労働党の勝利」と期待する側面があったノルウェー総選挙。
しかし、笑みを浮かべたのは保守党のソールバルグ首相と、進歩党のイェンセン財務大臣だった。
世界に対する「ノルウェーの答え」は保守路線の継続
11日深夜には開票の9割が終わったが、翌日の新聞の印刷には間に合わず、選挙のまとめがしっかりと各紙に掲載されたのは13日だった。
多くの新聞社の政治記者や編集者が指摘したことのひとつが、「4年間のドタバタ政権を経て、進歩党が支持率をたったの1.2%しか落とさなかった」ことだ。「正直に言おう。感心せざるをえない」と評価する現地記者は多かった。
現時点では99.8%の開票が終わり、トップスリーの現時点の支持率は以下の通り
- 労働党(27.4%) 国会議員は49人に(4年前と比較して6人減る)
- 保守党(25%) 議員数45人(マイナス3人)
- 進歩党(15.2%) 議員数27人(マイナス2人)
労働党は人気ナンバーワンを維持してはいるが、支持率が30%台から20%台にも下落し、保守党と大差なくなった時点で「惨敗」と評価される。
進歩党のイェンセン党首は、開票の途中結果が発表された夜、党員と報道陣の前で涙を抑えきれなかった。
「彼女が泣いているのを初めて見たかも」と、生中継を一緒に見ていたノルウェーのフォトグラファーたちは話していた(筆者は保守党の会場にいた)。
移民や難民に対して過激な言動を繰り返す進歩党。支持率が高くとも、政権入りすることはなかった。2013年までは。
進歩党が初めて与党となったことで、「最も右寄りの政権誕生」の文字がノルウェーの歴史に刻まれた。
そして、2017年の国政選挙を経て、進歩党が恐らく与党となり続ける。これは、ノルウェー政治の転換期となる。
数十年前では与党になるなんて「絶対にありえなかった進歩党」、「恐怖言説で国を二分しているとされる進歩党」。その彼らが権力者であり続けることが、普通になったのだ。
進歩党が与党として2期目を迎えることは、ノルウェーでは不思議なことではなくなったのだ。
進歩党を与党へと招待した保守党に対して、不満の声も聞こえる。保守党の戸別訪問を取材していた時は、「進歩党と協力する限りは、保守党には投票しない」と玄関前で言い放つ人もいた。
とはいえ、異端視されていた進歩党を、上手に「中和」したのは首相の手腕。「大臣」の座に就いた瞬間、国民をまとめる立場という責任感などが影響し、過激な発言を控える進歩党党員は多い。
唯一、リストハウグ移民・社会統合大臣だけは、独自路線を貫き、過激な言動を連発。批判を浴びたが、全ての批判は彼女にとっては追い風となった。
批判される度に、「ほら、移民の受け入れについて難しい課題点を話そうとしたら、すぐに人種差別主義者だと言われるのよ!」と、Facebookで叫ぶだけで、リストハウグ「信者」は彼女を守った。
移民・難民議論において、批判は進歩党にとって追い風となる。進歩党が発言することは、日常生活で本音を言えない移民・難民懐疑派にとっては、ちょうどよい「もやもやした感情」の発散、「器」になるのだ。どこの政党を取材中も、「移民議論では進歩党には勝てない」という暗黙の了解があった。
移民大臣の言動が目立ち、厳しい批判は彼女に集中。保守党の首相は「まぁまぁ」と時に抑える立場をとる。
4党は毎年の国政予算の合意で騒動を起こしたが、4年間が過ぎ、国民からのサインは、「あと4年間、続けてみれば」だった。
新政権は、今回勝利した4党で続投となるだろうとされている。一方、これまで閣外協力していた自由党とキリスト教民主党が、今後の鍵を握ることに。
自由党は、閣外協力という「外からのサポート役」ではなく、今回は一緒に政権入りすることを望んでいるようだ。
キリスト教民主党は、移民政策で意見があわない進歩党を嫌がっている。保守党のソールバルグ首相が指揮する国は手助けしたいが、進歩党の暴走を後押しすることも避けたいのだ。現在は、「野党」となることも切り札としている。
いずれにせよ、これから恐らく数週間をかけて、4党はこれからの政権の形を話し合っていくことになる。
興味深いのは新聞社の動きで、自分たちの「第4の権力」を自覚してか、新政権がどうなるべきか、「アドバイス」している。
「自由党もキリスト教民主党も、嫌だろうが政権入りするべきだ。そうすれば、4党で大臣の職をシェアしなければいけない。進歩党の大臣の数は減り、結果として、進歩党の影響力と暴走を少しでも抑えることができる。世論を二分させる言論をするリストハウグ移民大臣は、この国にとって問題だ」という内容の社説を出したのはDN紙(硬派で数少ない右派新聞)。
他にもこの小政党2党に対して、政権の外から文句を言うのではなく、政権に座って、進歩党を抑える形で、支持者に対して責任をとるべきだ、という意見が新聞などでは目立つ。
また、この2党が協力する条件として、リストハウグ移民大臣を「クビにさせる」こともささやかされている。それほど彼女は「危険視」されているのだ。だが、一部の支持者や進歩党からは、強い支持を得る人気者だ。
「これから4年間、リストハウグにまた付き合わなければいけない。それはいい、もうわかった。仕方ない。でも、お願いだから、ほかの小政党2党は、全体を中和する強さを、もっともってくれ」というような空気感が現地メディアからはひしひしと伝わってくる。
暴れん坊の右翼ポピュリスト政党「進歩党」が与党であることが、もはや「異例」とは言えなくなったノルウェー。11日の夜、開票結果を見て、はっと息をのんだ人は多かっただろう。
※選挙結果の数字は掲載時で発表されている段階のもの
Photo&Text: Asaki Abumi