世界で最も裕福・幸福な国の葛藤 「石油開発にNO」緑の環境党がノルウェーで勢力拡大
11日に開催されるノルウェー国政選挙。小政党の検討次第で政権交代となるかが注目されている。
アーナ・ソールバルグ首相(保守党)が率いる青色(右派)陣営と、ヨナス・ガーレ・ストーレ党首(労働党)が率いる赤色(左派)陣営。どちらが勝利しても不思議ではない状況で、連合を組む他政党の議席数が結果を左右することになる。
ノルウェー政治では、環境・気候のために石油開発に今後どれだけの予算を組むかか、常に大きな議論のひとつとなっている。
右派・左派問わず、大政党は石油・天然ガスからの収入に依存しており、小政党は持続可能な社会を目指して、他事業に投資するべきだと反対している。
新たな油田の採掘はおこなわず、徐々に石油開発をやめるべきだと、最も過激な主張をしているのは緑の環境党だ。
小政党で、現在は国会議員は1人しかいないが、今選挙で議員数が拡大する可能性が浮上している。
支持率が4%を超えた場合は、政権と連立・合意体制を組むことが可能。
「右派・左派」の伝統的な捉え方を否定
同党は、「右派・左派」という元来の政治の考え方と距離を置いており、環境・気候変動対策に取り組むのであれば、どこの党とも協力するとしている。
場合によっては、緑の環境党が政権樹立を決める「駒」となる可能性がある。
2年前の統一地方選挙では、首都オスロでその現象が起こり、中心地から一般自動車を減らすなどの斬新な対策がおこなわれている。
国政選挙では、石油開発が絡むため、同党との協力に大政党は否定的だ。緑の環境党は、政権に協力する条件として、新たな石油採掘をストップさせるという条件を付きだしている。
ノルウェーはパリ合意を無視している
8月半ば、オスロにある国際プレスセンターにラスムス・ハンソン党首が訪れ、外国人記者たちに党の政策を説明した。
「我々の目標は、持続可能な世界へ向けて、ノルウェーがリーダー的な存在になることです。これまでの伝統的な政党は、気候変動対策を30~40年間も約束しておきながら、実現してきませんでした」と、パリ合意はすでにノルウェーの政治家たちからは無視されていると指摘する。
「青色政権が統治してきたこの4年間でさえ、石油・ガス事業での失業者数は4万人。今後も職は失われていくでしょう。石油・ガスに投資続けることには、大きなリスクを伴います」。
「他の事業全体よりも7倍の予算を石油・ガス事業につぎ込んでいるという事実は、ノルウェーの現在の関心がどこに向かっているかを表しています。国にとっての大きなリスクです。将来的なノキア社のようになるでしょう」。
石油とのお別れは、いい意味でショック療法になる
石油・ガス事業からの撤退は、国にとって「ポジティブなショック療法」となる。政府や国がどのような未来を目指しているか明確にすれば、ビジネス業界は同じ方向を向いて動き出すと、党首は語る。
「石油とガスの代用品は?」という答えは、国民の多くが求めている。党首は代表例として漁業をあげる。
「国で2番目に巨大化した市場は、養殖サーモンです。間違ったこともしているので、もっと持続可能であるべきだとは思いますが、素晴らしい市場です。奇妙なことは、50年間の間に我々が創造できた市場が、この一種類の魚における技術・研究だけということです。なぜ、ほかの市場をつくりだせてこなかったのでしょうか」。
長期的な投資を他事業にまわし、石油・ガスに別れを告げるという「信号」を、ノルウェーは世界に発信する必要があるというのが党の考えだ。
また、石油・ガス産業の代替案においては、緑の党だけに答えを求めるのではなく、「そもそも全政党と国民全員で考えていくべきことなのでは」、という声も同党からは聞かれるようになった。
「もし新政権と合意すれば、新しい党が政権入りするという歴史を刻むことになります。赤色(左派)と青色(右派)という考え方を超え、(地球に優しい)緑色という変換期を迎えることになるでしょう」。
石油開発を続けることと、縮小すること。どちらが未来の世代に対して非現実的で無責任か
ノルウェーでは、同党の考え方は「非現実的で、理想郷に住む人たちの集まり」だと笑いのネタにされることがある。
「よく指摘されることですが、我々の中には確かに高学歴・都会出身者・若者が多いかもしれません。博士号取得者の集まりだ、とさえ言う人もいます。しかし、実際は科学者、技術者など、様々な年齢や職種の人々の集まりです。ノルウェーの未来に何が待ち受けているかを最も知っている、石油・ガス業界で働いた人々もいます。なによりも、緑の党の支持者は、全ての各政党から流れてきた人々です」。
「我々を非現実的だと批判する人もいますが、石油・ガス開発を進めることこそが最も非現実的で、他国や国民に対して無責任だと思います」。
右派ポピュリスト政党との協力だけは否定
同党はどの党も協力するとはしているが、唯一、絶対に協力をしないと宣言しているのが、進歩党だ。
欧州で話題となっている「極右・右派ポピュリスト政党」にあたる進歩党は、厳しい移民政策だけではなく、石油開発や道路増設などに積極的。緑の環境党は「排ガスをだして、コンクリート建設ばかり進める灰色政党」と批判している。
緑の環境党は難民申請者や移民の受け入れにも寛容的で、「欧州のポピュリストの波」に抵抗したい人に対しても、投票を呼び掛けている。
右派陣営であるソールバルグ首相(保守党)たちは、同党と協力することはないという姿勢を以前から示している。一方、合意体制を組む可能性が消えないのは左派の労働党。同党のストーレ党首は選挙直前に「緑の環境党と協力することはない」と地元紙に断言した。
とはいえ、ノルウェーの政治家といえば、状況に応じて発言をコロコロと変えるので、どうなるかは分からない。
世界で最も裕福・幸福・平和な国の葛藤
北欧各国の中でも、オイルマネーが豊富なノルウェーは、他国と状況が異なる。
パリ合意の目標は今のノルウェーでは達成できないだろうことは、現地の報道ですでに広く認識されている。
一方、世界で最も裕福・幸福・平和な国のひとつであることが、国民に罪悪感と責任感を植え付ける側面もあり、環境・気候議論は盛んだ。
ノルウェー国民の葛藤が具体化したのが、「緑の環境党」という存在。だからこそ、罪悪感を消すために同党は大きな反発にあうのかもしれない。
選挙当日まで投票先を決められない人が多い国で、各政党は今もせめぎあいを続けている。いずれにせよ、石油開発の方向性はこれからも議論され続けていくだろう。
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Photo&Text: Asaki Abumi