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米国で約2割の学生が大学入学辞退の可能性。日本で新型コロナウイルスによる「入学辞退」は防げるか?

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
(写真:アフロ)

世界中で新型コロナウイルスの感染拡大が止まない中、大学生や高校生の進学にも大きな影響を与えつつある。

アメリカの教育コンサルティング会社Simpson Scarboroughが実施した調査結果によると、新型コロナウイルスの影響を受けて、9月に大学に入学予定の約2割の高校生が入学を辞退する可能性があることがわかった。

学生の53%が新型コロナウイルスによって家庭の経済状況に影響が出ており、それを背景に入学を諦めつつある。

約80%は入学予定だと回答しているが、そのうちの11%が今後の状況次第とも回答しており、今後さらに入学辞退者が増える可能性もある。

また既に97%の大学生がオンラインで授業を受けており、対面式の授業に比べて、50%が「悪くなった」、13%が「やや悪くなった」と低く評価。5%のみが「良くなった」と回答している。

日本で「入学辞退」は防げるか?

もちろん、こうした事態は、日本にとっても他人事ではない。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、親の経済状況に悪影響が出ているのはもちろん、アルバイトの収入が減少し、生活費を抑えるために実家に帰省しなければならない、学費が支払えない勤労学生も出てきている。

これまで、筆者が代表理事を務める日本若者協議会でも実態調査のアンケートを実施し、要望を政府与党に伝えているが、新たに学生に経済的な補償を求める署名運動が立ち上がった。

関連記事:「迅速に一律で10万円以上現金給付を実施して欲しい」。緊急学生アンケート

署名はわずか1日程度で1500名近く集まっており、学生の困窮度合い、その声の大きさがよくわかる。

新型コロナウイルス感染症の蔓延によって、多くの学生がアルバイトを失っています。彼らの中には、扶養に入っている状態ではあっても、親を頼ることができない人が多くいます。そのような人たちは、自分が世帯主でない&アルバイトは収入の増減を証明できないために、政府による減収への補償を受けることができません。親からの仕送りもなく(少なく)、アルバイト収入も減り、さらに帰省自粛要請も重なり、彼らはかなり厳しい状況に立たされています。そこでまずは、一人暮らしの学生にも現金給付が行われる制度を構築することを求めます。提案としては、アルバイトの給与証明は難しいことを鑑み、国民全員に現金支給を行うことを挙げます。財源は国債しか現状では考えられませんが、国民全員を対象にしなければ生活に困窮する学生を救うことはできないと考えています。

出典:COVID-19で苦しむ学生への補償を求める運動

まずは既存の制度の活用を

一方、こうした事態に対して、政府も何もしていないわけではない。

文部科学省は3月26日、「新型 コロナウィルス感染症の影響で学費等支援が必要になった学生のみなさんへ」というタイトルで制度を紹介、活用を呼びかけている。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で経済状況が急変した学生は、授業料・入学金免除/減額、給付型奨学金支給の対象となる可能性がある。

新型コロナウイルス感染症の影響で学費等支援が必要になった学生のみなさんへ(文部科学省)
新型コロナウイルス感染症の影響で学費等支援が必要になった学生のみなさんへ(文部科学省)

各大学でも、学費の減額/延納措置が取られており、まずは各大学の学生課や奨学金窓口に相談することをおすすめしたい。

また、法律的にはアルバイトでも「休業手当」の請求が可能となっており、シフトを削減された分の一部給料(6割程度)をもらうことはできる。

(ただし現実的には、アルバイトの「立場」は弱く、雇用主に対して強く要求することは難しいため、政府や経済団体には雇用主に対して制度活用の周知徹底をお願いしたい)

そして、今回新しく開始された全国の社会福祉協議会の「緊急小口資金」制度は、学生も対象になっており、基本的には貸与になるものの、一定額、無利子で借りることができる。

問17 新型コロナウイルス感染症の影響により、アルバイト収入が減少している学生に対して貸付を行うことは可能か。

(答)

○ 特例貸付は、従前と同様に、世帯に対して貸付を行うものであり、

・ 雇用形態がアルバイトかどうか

・ 身分が学生かどうか

に関わらず、相談者の世帯が、新型コロナウイルス感染症の影響による収入の減少等により生計維持のために貸付を必要としている場合であれば、貸付対象となる。(緊急小口資金、総合支援資金ともに同様の取扱。)

○ なお、未成年者で婚姻していない場合には、親権者または後見人の同意が必要である。

出典:生活福祉資金貸付制度における緊急小口資金等の特例貸付の 運用に関する問答集(vol.6)について

やはり一律の現金給付が必要

こうした既存の制度を活用すれば、ある程度の学生は困難に対応できるだろう。

ただし、ここまで広範囲に、長期的な影響が続くことを考えると、既存の制度だけでは十分ではない。

ただでさえ、学費の高騰が続き、学生の生活環境が年々厳しくなっている中で収入が減れば、借金である貸与型の奨学金を借りなければならない学生も増えるだろうし、将来的な返済負担を強いる事になる。

元々、2020年4月から始まった「高等教育修学支援新制度」(授業料等減免+給付型奨学金)には大学院生が対象に含まれていないが、今回TAなどのアルバイトも減っていること、研究計画にも大きな支障が生じており、同期間で学位の取得要件を満たせるかが定かではないこと、そういったことを考えると、給付型奨学金の対象範囲の拡大、給付額の増額なども求められる。

現金給付に関しては、刻一刻と対象がコロコロ変わっており迷走している感が否めないが、学生も住民票を移しているか否かで給付の有無が変わること、細かいケースを挙げればキリがないことを考えると、やはり、一律の現金給付が最も国民の理解を得られ、効果的である。

2020年度第1次補正予算案は閣議決定されており、変更することは難しいと思うが、すぐさま第2次補正予算を作成し、国民一人あたりに一律10万円を支給すべきだ。

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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