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岸田首相はチワワ!? 米有力紙がこれでもかというほど酷評 衆院選

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
岸田首相はチワワなのか?(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 岸田首相のことをチワワと呼ぶ人がいるとは!

 今回の衆院選について書かれている米有力紙ニューヨーク・タイムズの記事を読み、思わず笑ってしまった。

 記事には、岸田氏について「何人かの外務省の公務員は、陰で、彼を“お行儀の良いタイプの犬”と呼んで、チワワというニックネームをつけた」という、岸田氏を30年前から知っている元防衛大臣中谷元氏の発言が紹介されている。

 それにしても、犬の種類は数多くあるのに、なぜ、チワワなのか? 

顔のない首相

 まず、同紙は「日本は何十年にもわたって、顔のない首相が全然不足しておらず、辞任するやいなや忘れられるリーダーの回転ドアだ」と首相が短期間に変わる日本の政界を批判、直近で辞任した菅前首相については「不眠症の治療をしているとしばしば思わせるようなコミュニケーション・スタイルで失敗した」と揶揄し、自民党の衆院選勝利については「岸田氏は通常よりも間を空けずに行われた衆院選で党を勝利に導いた」と言及している。

 また、自民党の選挙戦略と結果について、自民党は国民に人気の反体制派(河野太郎氏のこと)と日本初の女性首相になったかもしれない極右のナショナリスト(高市早苗氏のこと)を見送り、岸田氏を任命するという賭けをして選挙は接戦となり、過半数を維持したものの、景気停滞とコロナ危機の初期対応に対する国民の不満に直面して議席を失ったと説明している。

気弱な性格だから選ばれた

 同紙は以前にも、岸田氏にはカリスマ性がないことに言及していたが、今回は、岸田氏を菅氏と比べながら、つまらないと皮肉っている。

「前任の菅氏より若干だがつまらなくはない指導者の岸田氏は、いまだ日本のメディアにつまらないとしばしば書かれ、国民、あるいは支持者や友人とさえ繋がるのに苦労している」

 また、岸田氏が自民党総裁に選ばれたのは気弱な性格だからと指摘。

「元外務大臣の岸田の隆盛は、日本で自民党の力が強固なことを強く反映している」とし、「彼はまさに、黒幕が自分たちのアジェンダを投影できる気弱な性格だから選ばれた」という政治エキスパートのコメントを紹介、「彼はカリスマ性が欠けているものの、党は、彼を選んだことを選挙に勝てる自信のある選択とした」としている。

黒幕のアジェンダを投影

 さらには、岸田氏が主張していた“新資本主義”がじょじょに影を潜め、自民党の黒幕のアジェンダが岸田氏に投影されていったことも示唆されている。

「所得の不平等を狭める“新資本主義”という岸田氏のレトリック、コロナで仕事が制限され不満を感じている国民を狙ったプラットフォームは、選挙期間中、漠然としたものになっていった」

と“新資本主義”という岸田氏の主張がはっきり見えなくなったとし、

「彼は金融所得に課税する案をじょじょに弱めた。その代わりに、自民党のよくある経済戦略に回帰し、党を支持している建設業界のような大きな産業が後押ししているプロジェクトにもっと財政支出するよう訴えている」

と岸田氏が当初主張していた金融所得課税の見直しから自民党らしい経済政策へと戻っているという見方をしている。

 確かに、岸田政権は、建設業界に重点を置いているようだ。建設通信新聞は「防災・減災、国土強靱化対策の強化や財政の単年度主義の弊害是正といった建設業界にとって有望な政策が複数示された」と指摘している。

 経済政策だけではなく、岸田氏の原発や国防に対する姿勢にも黒幕のアジェンダが投影されてることが示唆されている。

「広島出身の政治家の岸田氏は、核兵器に反対し、外交には鳩派のスタンスを取ってきた。しかし、首相候補として同氏は、中国に対してタカ派の見方を強め、福島事故以降大半が稼働していない原発の再稼働を擁護した。原発支持は、自民党右派の重要なアジェンダだ」 

形だけの指導者

 自民党の黒幕に御されているかのような岸田氏について、「彼は、党のほかの人々の考えを押し通すための形だけの指導者のようです。彼は強い指導者ではない。彼は、多くのアイデアを考え出す人ではない」というコンサルティング会社のアナリストの見解も紹介している。

 国民に対して耳障りのいい“新資本主義”を掲げ、核兵器に反対するハト派の姿勢を見せはしたものの、結局は自民党本来のアジェンダに回帰しているかに見える岸田氏。同氏にチワワというニックネームがつけられたのは、結局、自民党の黒幕に対してチワワのようにお行儀のいい姿勢を見せているからということか。

印象が薄い

 さらに同記事は、チワワと呼ばれていること以外にも、岸田氏の人柄についてこう言及している。

「同僚にはあまり印象を残さなかった」、「岸田氏が大学時代に出会い、親友の1人だと言っている議員は、自民党総裁選で彼のライバル河野氏に投票した」、「彼は他の政治家を特徴づけている威張ったところや傲慢なところがない」(つまり、政治家らしくないということが言いたいのだろう)、「彼が思い出されるとしたら、それは、威厳を保って深夜前にバーを出る大酒呑みとしてである」、「ソーシャル・メディアで愛されようとする彼の試みは、受けなかったり完全に嘲笑されたりした」

 世界の人々に読まれている有力紙に、皮肉を込めて、これでもかというほど酷評された岸田首相。しかし、的を射ていると感じている国民や記事に拍手を送りたい国民は少なくないのではないか。

 この酷評をバネに岸田首相はドーベルマンに変身できるのか、それとも、自民党の黒幕にお行儀のいいところを見せ続けるチワワのままであり続けるのか。

 同紙によって明るみに出された岸田首相のリアル。しかし、世界がどのくらい日本の首相に注目しているかは謎である。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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