就活でおなじみSPI、何がわかるの? 人事異動に活用の動き
これまでの日本企業の人事異動のやり方とその課題について伺った前回に続き、今回はデータ、特に適性検査のひとつである「SPI」を活用した人材配置のあり方についてリクルートマネジメントソリューションズ エグゼクティブコンサルタントの竹内淳一さんに伺いました。
竹内 淳一(リクルートマネジメントソリューションズ ソリューション推進部 エクゼクティブコンサルタント)
1993年、株式会社リクルート入社。人事部門での採用リーダーを経て、2003年から「データを活用し個を生かし組織を強くする」をテーマに、採用から入社後の活躍までを一貫して取り組むコンサルティングに従事。組織マネジャー・プロジェクトマネジャーとしてコンサルティングや営業、サービス開発を行い、2011年より現職。
あらためて、SPIとは?
ー SPIというと、就職活動の際に受けたことのある人も多いのではないかと思います。あれによって、何が測れるのでしょうか?
竹内淳一氏(以下、敬称略):まず、SPIの元になっている考え方を図を使って説明しますね。
この図の一番上の「成果」の真下にある「行動」が、ある人材の表に見える部分です。氷山モデルで言えば、海面より上に出ている部分ですね。それより下の部分は人の内面です。通常は内面が行動として発揮されると、成果につながったり「その人らしさ」として周りに伝わったりします。また、何らかの経験から学ぶことによって内面も影響を受け、自己の変革につながっていくことがあります。この「発揮し、学ぶ」という「出し入れ」を人は常にやっているのですが、それがスムーズにできるかどうかは心の状態に左右されます。
SPIというのは、内面の中でも一番奥底にある「変わりにくいもの」を測定するために開発されたものです。「性格」と捉えていただくと分かりやすいと思いますが、慎重であるとか、体を動かすことが得意だとか、人との関わりにおいて内向的だとか外交的だとか、最もベースにある特徴です。これは、生まれて以降、幼少期、学生時代、社会人になってから……と色々な経験をしながら確立されていくものです。
ー 「この人はこういう性格だな」というのは普段の付き合いからも分かってきますが、SPIではそれ以上のことが分かるのですか?
竹内:表に現れている行動というのは、内面がそのまま出ているわけではないんですよね。例えば僕も、コンサルタントという自分の仕事について「コツコツやることが大事だよね」と言いますが、実はコツコツが苦手なんです。だから、ちょっと余裕のないときなどは普段の発言とは違う面がひょこっと顔を出すことがあったりします。
こういった「普段は隠れている内面」も捉えられるのがSPIのポイントではないかと考えています。その人の普段の行動とは異なる傾向がSPIの結果として出たら、「当たってない」と捉えるのではなく「この人の奥底には、こういう資質があるのかもしれない」と考えてもらえれば良いと思います。
データを人材配置に活かすとは
ー このSPIを人材配置に役立てるというのは、具体的にはどういうことなのでしょうか?
竹内:簡単な例を挙げますと、仕事に対しての適応性を判断するのに使えます。
ある仕事について期待される「行動」と「資質」というものがあるとします。次の図では、右下にいる人は「資質」の面ではその仕事にフィットしているはずなのですが、それが行動として発揮されていません。逆に左下にいる人は、資質の面でその仕事にあまり合っていないがために活躍できていない、と見ることができます。
SPIでは、横軸である「資質」のフィットレベルを見ることができるので、その人の持っているものを活かすにはどうしたら良いのか、異動させるのが良いのかどうか、といったことを検討する材料になるわけです。
ー 特定の仕事に対してどのような資質が必要なのかは、一般的な解があるものですか?
竹内:多くの場合、個別の企業ごとに分析が必要です。というのも、同じ「営業」であってもソリューション型の営業なのか販売型の営業なのかで、必要な資質が全然違いますよね。まずはその組織のその職種において注目すべき資質をあぶり出し、SPIのどの尺度に注目すべきかを決めてデータを活用しましょう、とご提案することが多いです。
ー 「この尺度に注目しよう」と決めてデータを確認した結果、資質フィットレベルは低いけれど成果を出している、という人も出てきますか?
竹内:もちろんです。「ここに注目しましょう」と絞り込んだ資質以外の強みをその人が持っていて、それを生かして活躍されている可能性も大いにあります。ですので、注目している尺度でフィットしていないからといって「この人はダメだ」と判断してしまうのは間違いです。
ー データは参考にはなるけれど、それだけで決められるものではないということですね。
竹内:おっしゃるとおりです。ただ、参考といっても結構大事な参考情報であるということはお伝えしたいですね。経験やスキル、本人の希望も大事ですが、やはり奥底にある資質がプラスに働いたり、邪魔をしたりすることがありますから。
データ活用で異動の検討は楽になる?
ー データを活用して人材配置というと、求められる資質の数値が高い人を自動的にピックアップするような機械的な方法をイメージをしがちですが、そういうわけではないんですね。
竹内:そうですね。異動する人をシステムで自動的に決める、というようなことはほとんどあり得ないと思います。ただ、候補者のピックアップにデータを使うことは可能です。例えば、次世代の幹部候補者にフラグを立てておくというのもそういう話のひとつです。
最近ですと、会社のデジタルトランスフォーメーションを先導する「DX人材」がどこにいるのか、一生懸命探している企業さんは多いですね。その際、何に注目してピックアップするのかが問題になるわけです。技術や経験、本人が希望しているかどうかというのもひとつの要素ですが、資質という面では「挑戦的なタイプ」かどうかというところに注目して候補者を選び、チームを作っていく、というような使い方ができます。
ー なるほど。同じ技術や経験を持っていても、挑戦的なタイプか保守的なタイプかで向いている仕事が違うというわけですね。
竹内:そうですね。
ー データを活用することで、異動の検討プロセスが短くなったり、楽になったりという効果はあるのでしょうか?
竹内:結論から言うと、期間は変わらないでしょうね。定期異動であれば、前回井関が説明したとおり検討の始まりと終わりのタイミングは決まっていますから、その期間内にどれだけやるか、という話なんです。
今までは、熟練者が経験とスキルをもって、できるだけ検討するということになっていたわけですが、データがあることでその暗黙知が組織知になり、経験の少ない人でも検討できるようになります。また、根拠となるデータがあることで現場の人の意見を聞いたりしてさらに検討の質を高めたり、関係者の納得を得やすくなったりします。要は、時間が短くなるというよりも質が上がるという効果が見込めるわけです。
データの利用に本人がメリットを感じるには
ー ひとつ気になるのは、SPIで自分の奥底にある資質が明らかになり、そのデータを人事や上司が使っているということを「嫌だな」と思う人もいるんじゃないかということです。
竹内:そうですね。特にSPIは、採用の際の「スクリーニングツール」として広く世間に認識された経緯から、本人がメリットを感じづらかった部分があると思います。特に最近は利用目的に沿ったデータの取扱いをするということが非常に重要になっていますから、今回お話した用途で使われる場合は、採用選考のときのデータではなく入社後にもう一度受けていただいたデータを使うことと、データの活用範囲、目的を本人に伝えたうえで活用するというのが我々の基本的なスタンスです。
また、SPIは開発された当初から「個を理解し、生かす」という目的を大事にしています。ですので、現在のSPI3というバージョンになるときには、フィードバックツールも拡充しました。本人へのフィードバックのほか、上司が育成支援するために役立つ情報をお渡ししています。
本人と上司と、育成を担当する人、この三者が情報を共有した上で成長を促進していくという形になると、本人にもデータを活用する意味を感じていただけるのではないでしょうか。
ー 人事や部門の都合だけでなく、自分の成長やキャリアも支援してくれているという信頼感があれば、自身のデータが共有されることもポジティブに捉えられそうですね。そのような関係の中でこそ、データを活用した人材配置が生きるのだと感じました。お話、ありがとうございました。