会社員も参考にしたい〜フリーランスという働き方の満足度が高い理由〜
今年前半に発表された複数の調査から、フリーランスで働く人は会社員など雇われて働く人に比べ、収入に関する不満や不安はあるものの、それ以外の点では総じて満足度が高いことが分かりました。その理由を知ることで、会社員であっても幸せに働くヒントを得ることができそうです。
「スキマ時間で副業」から「企業の変革の担い手」まで。複数調査が示すフリーランスの多様性
今年4月に「フリーランス実態調査2018年版」を発表したランサーズの推計では、日本における“広義の”フリーランス人口は1,119万人、労働力人口の17%を占めます。
“広義の”と付くのは、フリーランス一本で仕事をする人のほかに、会社などに雇われて働きつつ副業・複業として個人でも収入を得る744万人が含まれているためです。
今年は、このランサーズの調査のほかにも複数の「フリーランス実態調査」の結果が発表されています。5月には、以下の4つの企業・団体が合同で調査結果を報告し、識者と議論するプレスセミナーが開催されました。
複数の調査から見えてきたのは、「フリーランス」の多様性です。例えばランサーズの調査では、会社の仕事の余暇に稼ぐ「副業系すきまワーカー」が41%と最も多くを占めます。一方Warisは、高い専門性によって取引先企業の組織変革やイノベーション創出の触媒としての役割を担う「変革型フリーランス」に特化して調査を行なっています。
両社の調査対象は、フリーランスとして取り組む仕事へのスタンスも内容も、そして収入も、かなり異なっているでしょう。
しかし、どの調査にも共通していたのが、フリーランスの人たちの仕事や生活に対する満足度が比較的高いということです。
会社員に比べて高いフリーランスの満足度とその理由
ランサーズの調査では、現在の働き方について「満足している」と回答した人が、フリーランスでは51%、ノン・フリーランスでは36%でした。
また、フリーランスに対して「現在の働き方に満足している理由」を問う質問では「自分の能力を生かせていると感じる」がトップで57%に上りました。
フリーランス協会の調査でも、フリーランスと会社員の満足度比較を行なっています。下のグラフの通り、あらゆる項目において会社員よりもフリーランスの方が満足度が高いという結果になっています。
なぜフリーランスの方が満足度が高いのか、ヒントになりそうなのが、日本政策金融公庫の調査です。
ここでは、「開業する際に重視したこと」によってフリーランスを
・収入重視型(収入を重視)
・仕事重視型(仕事のやりがいを重視)
・生活重視型(私生活との両立を重視)
の3タイプに分けています。
このタイプ別に、収入、仕事の内容ややりがい、私生活との両立に対する満足度を集計したものを見ると、それぞれが重視するものについて、他のタイプのフリーランスよりも満足度が高い傾向があります(ただし、収入に関しては収入重視型のフリーランスでも満足しているのは22.2%と、他タイプよりは高いものの、低水準です)。
また、「事業を始めて良かったこと」についても、収入重視型の場合は「収入が予想通り増加」「自由に使える収入を得た」など収入関連の項目が、仕事重視型の場合は「経験・知識や資格を生かせた」「思い通りに仕事ができた」など仕事の内容に関する項目が、生活重視型の場合は「時間に余裕のある生活ができた」「個人生活を優先できた」など生活に関わる項目が、それぞれ多く選択されています。これらのことから、フリーランスは各々が重視する点を満たす働き方を実現しやすいと言えるでしょう。
会社員でいるために要求されるのは忍耐力?
もうひとつ、フリーランスの満足度が高い背景を説明してくれそうなのが、フリーランス協会の調査における「現在の働き方を続ける/成功させる上で重要だと思うものは?」という質問に対する会社員とフリーランスの回答の比較です。
フリーランスが最も多く選択しているのが「自分を売る力(セルフブランディング)」(62.4%)で、2番目が「成果に結びつく専門性・能力・経験」(60.6%)となっています。それ以外の項目も概ね会社員よりも高い割合にあるのですが、ひとつだけ会社員の方が高い項目が「忍耐力」(会社員:35.9%、フリーランス:28.7%)でした。
「会社員でい続けるためには忍耐力が必要」と考えている会社員が多いということは、裏を返せば「忍耐していられないから会社員を辞めた」、「フリーランスになって忍耐力を必要としない仕事を選んでいる」というケースが多いのかもしれません。
これは筆者の主観ですが、ここで上がっている項目の多くは、向上するほど自分の価値が上がったと感じられて嬉しいものです。しかし「忍耐力」に関しては、前よりも余計に忍耐を要する仕事ができるようになったとしてもあまり喜べないというか、むしろ「消耗させられた」とか「もう勘弁してほしい」という感覚に陥るケースが多いように思います。
だからといって、「まだ会社員で消耗してるの?」と言いたいわけではありません。これらの結果から、フリーランスか会社員かにかかわらず、満足度高く働くヒントが得られるのではないかと思うのです。
仕事の充実感を支える「成長のトライアングルモデル」
Warisの調査では、取引先企業に変革をもたらす力のあるフリーランスは、以下の3つの柱をバランスよく持っているという分析が示されています。
成長のトライアングル・モデルの3つの柱
1.ビジョン・モチベーション
2.ヒューマン・キャピタル(能力・スキル)
3.ソーシャル・キャピタル(ネットワーク)
どういう仕事をしていきたいのかというビジョンがスキルアップの原動力となり、新たなネットワークの形成にもつながるなど、3つが相互に良い影響を与えあい、らせん階段のように成長していくというイメージです。
「現在の働き方を続ける/成功させるには忍耐力が重要」と考える人は、もしかすると「この働き方を続ける」ということが目的化し、自身の「ビジョン・モチベーション」が二の次になっているために「成長のトライアングルモデル」が機能していないのかもしれません。
今回、4社の調査結果報告を受けてのパネルトークに参加した石山恒貴氏(法政大学大学院政策創造研究科 教授)は、以下のように発言しています(カッコ内は筆者が補足)。
「(会社員が)長く働くためには、すごく尖ったことをやるより、失敗しないで忍耐していくのがいい。そうすると別に専門性(ヒューマン・キャピタル)を高めなくてもいいし、自分を売りこもうとか、やりたいことを表明しようとすると『あいつ、目立とうとしてる』みたいに言われて逆にディスられる……。だから、人脈(ソーシャル・キャピタル)も作らなくてよくて、とにかく忍耐して我慢していきましょう、ということが(会社員側のスタンスとして)見えてきたと思うんです。でも、それで本当に幸せですか? ということなんですよね」
組織の変革と個人のマインドチェンジが満足度の高い会社員を増やす
上述の石山氏の発言は、日々の仕事を忍耐で乗り切ろうとしている個人への問いかけであると同時に、そういう人たちを生み出している組織への糾弾でもあると思います。
多くの経営者は、「自社の人材に求める能力」を聞かれたら「忍耐力」よりも「成果を生み出す専門性・能力・経験」の方を選ぶでしょう。また、社外との連携により新しいビジネスを生み出して行くオープン・イノベーションが必要だと言われている今の時代においては、「社外の人脈」や「自分を売る力」なども身につけてほしいところでしょう。
しかし社員にはそれが伝わっていない、あるいは「社長はそう言うけれど、現場では出る杭が打たれる」というような状況がままあるのではないでしょうか。そういう風土を打破し、社員ひとり一人の「成長のトライアングルモデル」を実現させるーー、これがこれからの企業にとって大事なのではないでしょうか。
筆者は、フリーランスという働き方にはメリットも多いものの、万能だとは考えていません。人によって会社員として働く方が性に合っているとか都合が良いということもあり、何より組織でなければ成し遂げられないことはたくさんあるので、そこに属する人たちが幸せに働ける方法を追求するのはとても大事なことです。
複数のフリーランスの実態調査が出てきたことで見えてきたことを、逆に会社員の働き方に生かせればと思い、今回の記事を書きました。
ランサーズの調査によれば、副業・複業フリーランスの人口はこの4年で1.4倍、経済規模は3倍になり、今後も伸びて行くことが予想されます。副業を解禁する会社も出てきており、会社員でありながらフリーランス的マインドを持つ人も増えていきそうです。それにより、会社の中にもよい影響がもたらされるのではないかと期待しています。