ゴールデンウィークに行くアルプスの雪山ではチェーンアイゼンは必要ない!その理由を解説します。
軽くてコンパクトなチェーンアイゼン(チェーンスパイク)はこの冬シーズンに購入した人が多かったのではないでしょうか。出歩く機会も少なく、ちょっと山に行くのにフルスペックのアイゼン(クランポン)は大げさですし、凍った登山道があるかもということで、軽量コンパクトさに惹かれたと考えられます。
近づくゴールデンウィークの雪山での事故防止の観点から「私は春、アルプスの雪山状況と機能がマッチしないチェーンアイゼンは持っていきません。」と宣言させていただきます。
予めお断りしておきますが、すべての道具には得意とする領域があります。不利な条件が出ても使い手である登山者の技術で補っていくのも登山の面白さだと思っています。ですからデメリットを承知の上で怪我と命を疎かにしないのであれば、使う使わないは個人の判断に依るかと考えています。
では、なぜかを解説していきます。
確認:チェーンアイゼンが最も得意とする領域は?
冬の八ヶ岳赤岳鉱泉までのアプローチ、凍った雪道が出てくる釜トンネルから入る上高地などです。この様な状況でスリップ防止し快適に歩くにはうってつけの登山用具です。標高が1500メートル付近からの道路や登山道がガチガチに凍りつく時期がチェーンアイゼンが活躍する時なのです。
5月、春の雪山に登りに行くと言えば?
ほとんどの場合は日本アルプスを中核とした標高2000メートル以上の登山領域を指すでしょう。
例えば、八方尾根からの唐松岳、遠見尾根からの五竜岳、上高地からの槍穂高の峰々、合戦尾根からの燕岳、八ヶ岳、立山室堂から雄山、中央アルプス千畳敷からの木曽駒ヶ岳など、交通手段と山小屋営業というインフラの整備されたコースが人気となります。
12本爪の前爪付アイゼンとピッケルが必要となる春の雪山登山に行く時期はどんな気候でしょうか。
ゴールデンウィークの時期ともなれば、街は初夏の気温となり、標高1000メートル前後は桜が咲き、標高1500メートル付近ではニリンソウなどの花々が咲く時期です。
白銀の峰々を見ながら登る標高2000メートル付近までは夏道に時々現れる雪を踏みながら登ることでしょう。冷え込んだ早朝に硬くなっていたザラメ雪も陽が高くなるにつれてあっという間に柔らかくなってきます。
標高2000メートル付近、雪の登山領域に入ってもチェーンアイゼンの出番はありません。この先に出番はあるのでしょうか?
チェーンアイゼンは12月から3月の凍った林道と平坦な登山道、そして夏山の雪渓を登るときが最も役に立つ状況です。
アドバイス:林道や傾斜が弱く平坦な登山道で部分的に雪を踏むときは自分の登山靴全体に荷重を丁寧に掛け、靴底のブロックパターンを食い込ませるイメージで歩きます。加えて大きく蹴り出すことがないように歩きましょう。
12本爪の前爪付アイゼンとピッケルが必要となる領域とは?
登り続けて標高を上げていくと、登山道はほとんど雪に覆われています。斜面のトラバースや急傾斜も現れてきました。
夏の登山地図と異なる積雪期に、より安全なコースとなるように設定された冬道もでてきます。夏道とは違い直線的に高みを目指すコースが選ばれることも多く、気が付くと急傾斜面に立っていることにビックリすることも多いです。
トレッキングポール(ストック)は使う状況とは?
一言でいえば、スリップ・転倒しても滑落の危険が無い箇所での使用となります。トレッキングポールは脚力を補い疲労を軽減する効果とバランスを崩さない為に使用します。シャフトの強度も強くなく、スノーバスケットが付いて雪の中に深く差し込めないので、行動中の支点にはなりません。つまり、滑落の危険性が高い急斜面に入る前にピッケルに持ち替える必要があります。
チェーンアイゼンを使用しない理由とは
チェーンアイゼンはチェーンと鋭くない短い爪、装着するためのラバー素材で構成されています。氷や硬い雪と柔らかいザラメ雪とが複雑に現れ、傾斜に変化がある雪斜面、時には出てくる岩場の通過、このような状況で使用すると、チェーンアイゼンにはどんなデメリットが顕在化するでしょうか。
写真を見てわかる点を下記に記しました。
- 短い爪がザラメ雪層で上滑りします。自分が考えている以上に滑るため、腰が引けた悪い姿勢となり、更なるスリップを起こし易くなります。雪が緩む下山時刻の雪の急傾斜面では圧倒的に不利で危険が大きいです。
- 鋭くない爪が硬い雪に刺さらない。登りは誤魔化せても下りはスリップの恐怖から姿勢が悪くなり、へっぴり腰となり更にスリップし易くなります。
- ラバー素材でできたハーネス(締め具)なので、靴底をフラットに置けない険しいスタンス(足場)では、登山靴との一体感が弱く、体勢が不安定になります。
アドバイス:歩行では滑るか滑らないかの二択思考にならないことです。歩行技術は理論とか筋力といった数値で表せるものではありません。様々な条件下で動的バランスを脳回路に覚えこませることが大切です。
余談ですが、
登山者に人気がある低中級山岳の中には粘土質の登山道もあります。そういった情報は前もって得られるのでしょうか。雪も氷もない時期にスリップ防止のためにアイゼンやチェーンアイゼンを装着する姿を時に見ることがあります。怪我防止の観点を重視したからだと解釈しますが、登山道は荒れ土砂は流出してしまいます。
滑って不用意に怪我をしないよう、パンツや登山靴を汚さぬように歩くなら、時間に余裕をもって丁寧に歩けば良いのです。汚れたなら洗えば良いのです。
多くの登山者は何度も同じコースを歩くわけではありませんが、耕運機が畑を耕すように登山道を荒らしていくのは少しでも避けるようにしたいものです。
山岳地帯の積雪状況は刻々と変化しています。余裕を持った装備と計画で登山を楽しんでほしい思います。
いつまでを冬山というのか。春山になれば易しくなるという大きな勘違いはこれです。