Yahoo!ニュース

彩りを味わう秋の野山へ 立ち止まれば見えてくる大切なこと

加藤智二日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・カメラマン
赤は美味しさのアピールか?生き物にはどう見えているのか ※写真はすべて筆者が撮影

 春が花を愛でる季節とすれば、秋は冬枯れを前に木々が躍動する季節です。

 今年の色づきはどうでしたか。一言で片づけるなんて少し勿体ないのでゆっくり山を歩きながら葉っぱ達を見てみましょう。

 皆さんは紅葉を見て何を感じましたか?

・今年の夏は雨が少なかったせいか、葉先が痛んでいるのが多いようですね。

・全く葉緑素が分解されず夏の頃のような木もありますね。

・寒さがまだ来ていないのにすっかり葉を落とした木もありますね。

・日当たりの良い沢沿いの方が色味がきれいなようですね。

同じ木でも日当たりによって色づきは変わります ※写真はすべて筆者が撮影
同じ木でも日当たりによって色づきは変わります ※写真はすべて筆者が撮影

 赤や黄色の元は何なのでしょうか?同じ葉っぱなのにいろいろな色が出るのはなぜでしょうか。

 日本列島は緯度、標高や場所、気象、植生など様々な条件で千差万別の秋が詰まっています。さあ、週末は玉手箱のような野山に出かけましょう。

葉っぱが落ち、見通しがよくなった小梢にコゲラがやってきた ※写真はすべて筆者が撮影
葉っぱが落ち、見通しがよくなった小梢にコゲラがやってきた ※写真はすべて筆者が撮影

 きれいとは主観的なものです。そしてどこかと比較する必要はありません。

 今歩いている目の前の木々を観察してみましょう。

オオカメノキの紅葉、一部黄葉ですね ※写真はすべて筆者が撮影
オオカメノキの紅葉、一部黄葉ですね ※写真はすべて筆者が撮影

 葉っぱにはもともと黄色の色素であるカロチノイドと葉緑素クロロフィルが同居しています。黄葉は葉緑素が分解することで隠れていたカロチノイドの黄色が目立つわけです。赤い色素アントシアニンは葉っぱに蓄えられた糖質が寒さが切っ掛けで起きる化学反応で合成されるものです。

 ⇒ 光が当たらない部分はアントシアニン合成に十分な糖が無かったようです。

 春の新緑から秋の紅葉まで低山なら7~8か月の間、アルプスの樹林帯なら4~5か月の間、せっせと葉っぱ工場は稼働して幹を太らせ花を咲かせ実を実らせ冬越しのエネルギー貯蓄をしています。この期間は十分な水、日照と適度な気温が大切です。

 2023年の夏山!何か思い出しましたか。

 登山を通じて自然を感じることは地球環境の変化に目を向ける切っ掛けとなります。素晴らしいと感じることが環境を守りたいという行動に繫がっていくのです。

水面に光が反射するから池の周りの木は賑やかだ ※写真はすべて筆者が撮影 
水面に光が反射するから池の周りの木は賑やかだ ※写真はすべて筆者が撮影 

 ⇒ 落葉樹はどうして秋になると葉っぱを落として裸んぼになるのでしょうか。

 木々も身体を維持するのに必要なエネルギーを上回る生産物を光合成で生み出さなければ、成長もできず花も咲かせず実もつけられず子孫を残すことができません。

山の恵みのブナの実、豊作と不作の周期は山の食糧問題に直結 ※写真はすべて筆者が撮影
山の恵みのブナの実、豊作と不作の周期は山の食糧問題に直結 ※写真はすべて筆者が撮影

 秋が近づくと日照時間が短くなり、気温も下がってくるので光合成の効率が低下してきます。生き物に共通することですが、生きている限り自らの身体を維持するためにエネルギーが必要です。収入と支出が赤字になる前に”光合成工場”を閉鎖する作業が”紅葉&落葉”なのです。

 工場閉鎖のまえにクロロフィルを分解して役立つ成分を枝に向かって回収を始めます。と同時に葉っぱと枝の間にコルク質の離層をつくって枝から葉っぱへ水分や栄養が流れるのを遮断します。まるで現実社会の債権回収プロセスのようで切ないです。

メタセコイアは赤でもなく黄色でもなく茶色になります
メタセコイアは赤でもなく黄色でもなく茶色になります

 ⇒ なぜ、アントシアニンを合成して赤くなる必要があるのでしょうか。

 赤くなった葉っぱのアントシアニンが太陽光線で生じる活性酸素を抑制するとか、紫外線障害を防いでいるとか、害虫が嫌う成分であるとか、諸説があるようです。

 自然の営みにはたくさんの謎が隠されています。自分で見て触って、自分の頭で感じた素朴な疑問や好奇心を大切にしていきましょう。

 なぜを感じて脳がよろこぶ!ワクワク山歩きに出かけませんか。

日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・カメラマン

ネパール・パキスタン・中国の8000m級ヒマラヤ登山を経験。40年間の登山活動で得た登山技術、自然環境知識を基に山岳ガイドとして活動中。ガイド協会発行「講座登山基礎」、幻冬舎「日本百低山 日本山岳ガイド編」の共同執筆。阪急交通社「たびコト塾(山と自然を学ぶ)」、野村證券「誰でもできる健康山歩き」セミナー講師。山岳・山歩きに関するテレビ番組への出演・取材協力。頂上を目指さない脳活ハイキングの実践。神戸市須磨区カルチャー教室講師、一般社団法人日本山岳レスキュー協会社員、公益社団法人日本山岳ガイド協会 安全対策委員会・登山ガイド養成学校委員会 担当理事、日本プロガイド協会所属 山岳ガイドステージⅡ。

加藤智二の最近の記事