五月まで楽しめる雪山キャンプには決して忘れてはいけない原則がある。命も守る快適ポイントを紹介します。
雪中でのキャンプは何が夏と違うのでしょうか。
生存するために優先順位をつけてみました。一位は空気(酸素)、二位は水、三位は食料、四位は衣服、五位は住居です。そのそれぞれに良質で快適というレベルがありますが、安全と安心快適な雪中キャンプをするためのポイントをご紹介します。
気温が低く水は凍り、雪はテントを埋めてしまうのが雪山のキャンプです。
限りある燃料を使って、飲み水をつくり、食事をつくり、温かい飲み物もつくります。
山岳用テントは畳一枚ほどのスペースに二人程度という狭い空間です。そこは玄関であり、居間であり、食堂であり、寝室でもあります。衣食住を自分自身でコントロールしながら雪山を歩く登山スタイルのひとつです。
・水ときれいな雪を確保するためにどうするべきか。
1:行動中に必要な分だけを背負う。
凍結するほどの気温が想定される場合はポリカーボネート製の広口ボトルが使いやすいです。便利なペットボトルも狭い口は凍りついてしまうことと、雪を直接ボトルに投入できないので、雪山厳冬期にはデメリットが目立ってきます。キャンプ中の水を確保するためにハイドレーションの水タンク部分を持っていくこともあります。
500~900ミリリットルの魔法瓶(テルモス)は必ず持っていくようにしたいものです。
2:現地調達できる沢水、又は雪を利用する。
キャンプ地が決定したら、テント場の整備と設営に並行して行うのが水の確保です。
きれいと思われる沢水があれば取りに行きます。湧き出している源泉なら理想的ですが、沢であれば水量が多く、ニホンジカなど野生動物の痕跡が見られないのが理想的です。
近くにない場合、空けたリュックサックにメンバー全員の空水筒と汲み上げるための小型コッヘルやコップも忘れないようにします。ケースバイケースですが、危険回避の観点から二人で行くことが望ましいです。
雪山で流れる水はまず手に入りませんので、雪を融かして水つくりをしなければなりません。雪は繰り返し積もるので表面より下層の方が密度が高くなります。効率的に雪から水をつくるには水分を多く含む雪を手に入れる必要があります。共同装備として持ってきたショベルを使ってきれいで「締まった雪」を取ります。水用の雪はやや厚手の大きなビニール袋に入れてテント入口に置いておきます。雪には砂や黄砂、栂などの針葉樹の枯れた小葉が少なからず入っています。気になる場合はコーヒーフィルターなどで漉すと良いでしょう。
3:効率的な水つくりに必要なこと
雪は多くの空気を含んでいるため、コンロの熱を効率的に伝えるための水が必要です。これを私は種水といっています。魔法瓶(テルモス)の余ったお湯を使うことが多いでしょう。
大型コッヘルに水がある状態を維持しながら雪をコッヘルに入れます。水の量が増えシャーベット状になってきたら、コッヘルなどで出来上がった水をボトルに移していきます。必要な水が確保できるまで繰り返していきます。
水つくり用のコッヘルの外側は冷たいシャーベット水との温度差でたくさんの水滴に覆われてきます。外側に付着した水滴を温める必要は全くないので、小まめに水取り雑巾で拭き取ります。この作業は燃料節約のためです。
水取り雑巾とは ⇒ 使い古した高吸水性繊維でできたタオルも活用できます。テント内に入り込んだ雪や水、テント生地内側にできた結露もこれを使って小まめに拭き取ることでテント内は快適になります。
4:健康面から気に留めておくのが望ましいこと
余程恵まれた水源でない限り、生水を飲まない時代になりました。携帯型浄水フィルターを活用するのも良いですが、装備が増える冬には相応しくないかもしれません。
飲み水は魔法瓶(テルモス)に入れた沸騰させたお湯や、湯冷ましの水を飲むようにすると安心です。先に述べた生水は朝食や夕食や温かい飲み物に使うようにします。
5:燃料を節約する
命を繋ぐ水と食事、体温維持に欠かせない燃料は十分持っていきたいものですが、無駄に消費することは避けるようにします。単に暖を取るために火を燃やすことを空焚きといっていますが、低体温症になりかかっている、全身ずぶ濡れなどの緊急性が無い限り行わないようにします。
雪山においては命を繋ぐ水は雪と燃料(コンロとコッヘル)があれば手に入るということを覚えておきましょう。
熱いお湯をポリカーボネート製の広口ボトルに入れて湯たんぽ代りにすることもありますが、変形やパッキン不良などによる漏水には十分注意しましょう。
水を入れたボトル類は就寝時、人と人の間に入れておきます。テント生地に接する所に置いておくと凍ってしまうこともあります。これは解凍の手間が増えるということだけでなく、余計な燃料を消費することになるので避けたいものです。
・テント内を快適にする工夫
6:テント敷地の雪を繰り返し踏み、水平な圧雪面をつくります。
ふかふかの雪も最初にワカンやスーシューで踏みつけ、登山靴で踏むことで雪の結晶はくっ付き強固になっていきます。元々の地面に凸凹があったり、傾斜があったりしても雪を利用することで可能な限り水平な面をつくることができます。
7:テントの倒壊を防ぐ張り綱を固定します。
⇒ 標準装備のアルミペグは使いません。束ねた枯れ木、自分たちで用意した竹ペグ、雪を詰め込んだ10リットル程度のスタッフバックなどを雪の中に埋めてアンカーとします。付近に立ち木があれば利用します。各自のピッケルも活用します。但し、ショベルは除雪等で使うので入り口付近に雪面に刺しこんでおきます。
8:除雪は重要です。
気象条件や行く山岳によって異なりますが、テントに降り積もったり、風に運ばれた雪はテントのすき間を埋めていきます。サラサラと音を立てて降っていた雪が静かになったと感じたら、テントが雪に覆われているからかもしれません。
アウター上下を着て、オーバーグローブ、登山靴(安全な場所であればダウンシューズも可)を身に付けて除雪しなければいけません。
ピッケル、アイゼン、ワカン、ポールはどこに置くのか? ⇒ テント外に置きます。大量降雪時でも探し出せるようにストラップなどは連結しておきます。雪山装備の登山中における紛失は遭難に直結するからです。
なぜ静かになったのか? ⇒ 雪にたくさん含まれている空気がつくる空隙に吸音効果があります。雪が止んだと思って、そのまま除雪メンテナンスせずに寝ていると、雪によってテントが変形、内部空間が押しつぶされることになります。
9:共用マットレス(シート)と個人用マットレスを使う。
大版の銀面加工を施した薄手マットレスをテント底面に敷いた上に各自の個人マットレスを置きます。
就寝時以外は空気を入れるタイプのマットレスは少なめの空気を入れて二つから三つ折りにして座布団のように使います。独立気泡(クローズドセル)タイプも同様におりだタンで使います。
なぜ畳むのか? ⇒ 3人用テントであれば、縦210cm、横150cmほどのスペースです。そこは居間であり食卓でもあるのでメンバーが譲り合って共用スペースをつくる必要があります。
10:テント内でコンロを使う?
販売されている全てのテントには「テント内でのコンロ使用禁止」という注意書きがされています。狭い空間で大量に酸素を消費し、不完全燃焼時には一酸化炭素を発生させるコンロによる事故が繰り返し発生しているからです。
一酸化炭素中毒と酸欠防止 ⇒ 天候が良好であればテント外でコンロを使用することが望ましいですが、風雪や夜間ではテント内でコンロ使用することがあります。そこで注意しなければならないのは一酸化中毒と酸欠です。テント上部についているベンチレーターと出入り口を開けて空気の流れをつくります。定期的に出入り口を開ける習慣をつけましょう。殆どのコンロはガスカートリッジタイプで着火や消化が手軽です。水作りと食事作りが終わったら小まめに消化する習慣をつけましょう。
水作り、飲み物作り、食事作りはメンバーの共同作業でもあり、憩いの時でもあります。コンロに火がついている間はテント空間には暖かい空気に満たされます。
濡れた衣類や手袋靴下が少しづつ乾いていくのは、とてもうれしく感じるひと時です。しかし、疲れと温かさに加えて酸素欠乏による睡魔が襲うので、換気も頻繁に行わなければいけません。
装備を乾かす ⇒ 夕食つくり前の時間には、テント内側に細引きで物干しをつくり、テント上部に熱気を活用して乾燥させます。予備の靴下に履き替え、履いて湿った靴下はお腹周りに差し込んで体温を利用して乾かします。濡れた手袋は手に装着して体温を利用して少しでも乾かします。
11:鍋と個人食器の洗浄と片付け
最近はお湯のみ作ってレトルトを温め、そのお湯でアルファ米を戻し、フリーズドライスープを飲む方も多いかと思います。コロナ感染予防対策にもなっていますが、大なべで食材を煮込む熱々の鍋も捨てがたい魅力があるのも事実です。
鍋や食器の洗浄と収納に関して、粘りがあって濃い食材の残りはシリコンヘラ等で取り除き、少量のお湯ですすぎ、最期にティッシュで拭き取ります。水分を含んだ使用済みティッシュも持ち帰るゴミだということを忘れないようにしましょう。
食事後は火を消した直後の熱くなった五徳が冷えるのを待って、コンロも鍋をテントの四隅を活用して、テント内に入れておきます。
ドームテントの空間有効利用 ⇒ テントの四隅に当面使わない物を置くことで快適空間を広くすることができます。
12:共用の灯りランタンと個人のヘッドランプ
冬期の山岳キャンプでは陽のあるうちに食事作りと食事を済ませ、暗くなる頃には就寝することが多いです。余裕がある時は夕食後、ランタンの元で満ち足りた時間を過ごすのも楽しみです。
折り畳み式太陽電池LEDランタンはとても重宝します。各自をヘッドランプを点灯する場合は、光量を絞り強い光線が眼にはいらない配慮をしましょう。ヘッドランプを床に置いて間接光としたり、テント上部にぶら下げて照らすのも良いでしょう。
13:テント内の整理整頓
登山靴は凍結防止と濡れることを防ぐためにテント内に必ず入れておきます。テント内外周に靴底を向けて寝かしておきます。就寝時には個人用マットレスの足元やメンバーとの間に置いて凍結を防ぎます。雪にまみれたゲイターは雪を落とし、共用マットレスと個人マットレスの間に挟んでしまうこともあります。
様々な個人装備は大型防水バックの活用してひとまとめにしてしまい枕として使うこともあります。シュラフの収納バック、手袋などの小物はシュラフの中に入れておきます。
雪面から冷えを少なくするために中味を出したリュックサックを腰から下へ足元にかけて敷くこともあります。
14:トイレが心配だ!
食前・食事中・食後の水分補給は積極的に行います。寒い時期の行動中における水分補給は少なくなる傾向があります。疲労回復、就寝中の足の痙攣防止のためにも水分摂取は大切です。
コンロを使っている最中にトイレに行くメンバーが出た時は必ずコッヘルを手で押さえ出来れば火を落とします。共用マットレスは人の出入り時にずれることが多く、その時コンロも動いてコッヘルが転倒する事故が起きるからです。
就寝後、夜中にメンバーの一人がトイレに行ったなら、ついでに思い切って済ませてしまうのが良いでしょう。キーンと冷え切った空気のなか、満天の星空を見ることもできるかもしれません。
管理されたキャンプ場における話ではありません。皆様の中には様々なご意見があること承知したうえでの冬山登山でのお話です。
テントを張ったエリアを中心に転落・滑落の無い場所、樹林帯で登山道が無い場所、強風が吹き抜けない場所、水作りようの雪採取場所と離れた場所といったところに設定します。ショベルを使って雪で囲いを構築すれば安心してトイレを済ますことができます。ティッシュの自然分解は難しいので、四季を通じてティッシュだけは密封ビニールに入れて持ち帰るようにしましょう。
標高が高いエリアでは年間を通して気温が低く、微生物も少なく貴重な自然環境が破壊される懸念があるので携帯トイレに用を済ませ持ち帰えればベストです。
15:さぁ出発だ、パッキングとテントの収納
外を見るとまだ雪が降っています。標高が低いのでミゾレ混じりのようです。この様な悪気象条件の中を撤収することもあります。
テント内にある個人装備をリュックサックに詰め、ウェアを着こみ登山靴をテント内で履いてしっかりと靴紐を締めます。朝食の温もったテント内は急激に冷え込んでテントも凍りだしてきました。メンバーが全員外に出たなら、いよいよテントの撤収です。本体、フライシート(外張り)が風に飛ばされたり、ポールが雪に埋没しないように各自が協力し合って担当者のリュックサックに収納します。
テント設営時や撤収時には強風によるテントポール破損や収納袋の紛失が発生し易いものです。収納袋は雪面に放置せずポケットに入れ、作業は二人でします。
テント周辺に忘れ物、落し物が無いかをチェックしてから出発します。
安全の為に守らなければいけないことのまとめ
1:狭い空間での酸欠、コンロ不完全燃焼による一酸化炭素中毒の防止
2:熱い食べ物が入った鍋をひっくり返しによる火傷の防止
3:風にあおられたテント入口の生地やアウタージャケット生地焼損の防止
4:除雪を行い、雪埋没による酸欠とテントポール圧損の防止
5:テント周りのスペース確保とアイゼン爪によるテント生地の穴あけ防止
6:整理整頓による個人装備紛失の防止
7:登山靴の凍結防止
快適な空間つくりの為にしなければならないことのまとめ
1:樹林帯など安全地帯を選んでしっかり踏んで整地
2:各自の整理整頓と共用スペースの確保
3:テント内に入り込んだ雪、雪が融けてできた水、身体から出た水蒸気からできた結露、飲み物や食事から出た水蒸気からできた結露など、小まめな水分除去
4:共用マットレスと個人マットレスの併用
5:出発前の包装材除去によるゴミ減量とテント内でのゴミ管理
日本は標高数百メートルの山であっても雪山となる世界有数の多雪国家です。普段とは別世界の雪山にいつかお出かけされる時、読んでいただければうれしいです。
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