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大人の日帰りウォーキング 歩く旅の途中で御朱印を頂こうと、お金を納めたら予想外のお釣りに驚いた話

わか子ライター

お昼ご飯を食べようか。お堂の前にあるベンチに座わった。
時間は13時30分を過ぎていた。途中でおにぎりを1個食べたからか、夏の暑さのためか、そんなにお腹が空いている訳ではないけれど、次の札所まで12kmもある。
少しは食べておいた方が良さそうだ。

リュックの中から凍らして持参したペットボトルと、お弁当を取り出す。ペットボトルのお茶は少しの氷を残してほとんどが溶けており、とても冷たくてごくごくと飲んだ。夏の暑い日に歩いてきたので、冷たいお茶に体が冷されるように感じる。
途中の道の駅で買ったお弁当は、凍らせたペットボトルが保冷材になっているクーラーバックの中に入れていたのでひんやりしている。
買ったのはみそカツ弁当。コロッケや天ぷら等を買ったときに入れる、蓋を折り返して使うような透明のパックに入っており、手のひら程度の大きさでお弁当にしては小さめだけれど、中にはぎっしりとご飯が詰められている。その上には大きめサイズのチキンカツ二枚が入っており、容器からはみ出さないように二枚のカツの半分が重なり合ってご飯の上にのっている。時間が経っているので揚げ物のサクサク感は無いけれど、柔らかいチキンカツと甘めのみそ味はやさしい味がする。そして、チキンカツとご飯の間入っているピンク色の大根の漬物がポリポリして美味しかった。

外で食べるご飯は、何でこんなにも美味しいのだろうか。そして、自然の中で食事をするのは最高の贅沢な時間だと感じ、私って贅沢だなぁと深呼吸をした。

歩く旅を楽しんでいる私は、日本百観音霊場の1つ、埼玉県にある秩父三十四観音霊場巡りをしている。都内から日帰りで歩きつなげてようやく終盤になってきており、今日は30番から歩きはじめて、32番まで行きたいと思っている。
真夏の暑さの中、山から吹いてくる風が心地よくて、景色を観ながらのんびりとしたい気持ちになるけれど、この先もまだまだ距離が長いから出発しないと。そう思いながら、まだ御朱印を頂いていなかった。

観音堂の脇を奥へ進み、弘法大師がまつられている大師堂にお参りをして納経所に向かう。中に入るとご住職だろうか、先代であろうか、男性が1人いたので御朱印をお願いする。
御朱印の300円(※)を取り出そうと小銭入れの中を探すけれど、100円は2個しかない。500円もなく、50円もなく、10円も数個しかない。財布の中に残った全ての小銭を合わせても、とても300円にはならない。途中で買い物をした時にお札で支払えば良かったと後悔しながら、仕方なく千円札を出そうとすると、追い打ちをかけるように五千円札しか入っていないことに気付く。

自然豊かで山の中にあるこの場所は街から遠い。お釣りの両替をするのも大変だろうと思うけれど、仕方がないので五千円札を出す。
「これしかないのですが大丈夫でしょうか?」
すると、男性は
「お釣りは100円硬貨でも良いですか?」と言われた。
「もちろん大丈夫です。」と、答えた。
男性が少し嬉しそうな顔をしたような気がしたけれど、気のせいだよね。そう思いながら今日はもう一か所、札所に行きたいので、そこでも300円必要になる。ここでの700円分のお釣りを100円7枚で頂けると私も助かると、その時には思った。

最近では電車に乗るときはPASMOだし、買い物もWAONやnanacoを持っていれば何とかなるので小銭を使う機会が少なくなった。便利になったのだけれど、現金のみの時に戸惑ってしまう。自分に言い訳をしながら、小銭の準備をしていなかった事を正当化しようとしている事に気付かない愚か者は私である。

目の前には1枚1枚数えながら100円が7枚、積み重ねられた。心の中でスミマセンと思いながら、次は残りの千円札が出てくると思って待っていた。
すると、同じように100円が出てきて、同じように1枚1枚数えながら10枚が積み重ねられた。
え?
そして、さらに100円が出てきて10枚積み重なる。目の前で同じ動作が繰り返されていく様子を、ぽかんとして見つめていた。なるほど、そういう事か。
100円が7枚積み重なったのが1つ、100円が10枚積み重なったのが4つ目が10枚重なろうとしていたその時、1枚1枚数えていた手が止まり、途中まで出ていた100円が引き下がって千円札1枚が出てきた。
「10枚に足りなかったのか~い!」
思わず突っ込みを入れそうになって自分の口に両手を当てた。やばい、やばい。顔が笑っているのに気付き、急いで表情を整えようとするけれどもう遅かったよね。しかし、いろんな意味で期待を裏切ってくれて楽しい。きっと、エンタメの素質あるよね。

300円を五千円で支払ったお釣りは、100円が37枚と千円札1枚になった。
どうせなら、すべてが100円で47枚になった方が話のネタになって良かったのではないか。地味に中途半端な存在になった1枚だけの千円札は居心地が悪そうに見えた。
日常で小銭を使う事が少なくなってからは小さな小銭入れしか持ち歩いていない。その、小さな小銭入れに100円を37枚詰め込むとパンパンになったけれど何とかフタはしまった。重い。
パンパンに膨れ上がった小銭入れはずっしりと重かった。
両替にはもう一つの意味があることを学んだ。おばさんになっても色々勉強になることがあると思いながら、もしかすると、私は良い事をしたのかもしれないと思う事にした。
そして、達筆で、生き生きしながらも落ち着いた筆運びで描いて頂けた御朱印帳と、パンパンの小銭入れをリュックにしまい込んだ。

ここまで来た道を引き返していく。山を下りていくので下り坂なのに助かるけれど20km以上を歩いているので足は疲れてきているし、飲み物も底をついてきた。国道299号に出てしばらく歩けばコンビニがあるのを調べているので、そこに寄ろうか。

さらに国道を歩き進むが、これだけ長く歩いていると足が痛くなってくる。ここで終了して次回に持ち越しても良いけれど。辺りには座って休憩できる場所が見当たらず、歩道橋の階段に座って少し休憩をした。さらに街の外れまで歩くと、コンビニの前にベンチがあり再度休憩をして、そこから次の札所に向かって山の方に進んで行く。

終了するならバス停がある場所に行けば良いけれど、もういいやと、バスの時間を調べるのが面倒という何だか変な理由で歩き続けて山の中の道を進み、峠を越えて降りて行った先に今日の最後の目標にした31番の札所があった。

秩父三十四観音霊場巡り 三十二番 法性寺
秩父三十四観音霊場巡り 三十二番 法性寺

札所で御朱印を頂くには、夏季だと17時までに伺わないといけない。着いた時間は16時30分。間に合った。
お寺の方にお寺の奥から山道を30分程登ると奥の院に行けると伺った。山道を歩くのは好きだけれど、もう今日はこれ以上歩きたくなかった。

観音堂がある岩壁の石仏群
観音堂がある岩壁の石仏群

お寺の奥の岩壁に立派な舞台づくりの観音堂は1707年(宝永4年)の江戸時代中期に建てられている。歩き疲れた足で頑張って岩場にある石の階段を登り、お堂の舞台の片隅に座り、仏像を眺めながら休憩をさせて頂いた。
帰りも特急に乗って帰ろうか。小銭はたっぷり持っているしね。

西武鉄道 特急ラビュー
西武鉄道 特急ラビュー

今回歩いたコース 距離30,2km 8時間18分

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この話はフィクションです。
※令和6年3月1日より納経帳御朱印料500円になります。

ライター

東京都在住のおばさんです。子育てが落ち着いてきた頃より趣味で登山や街道歩き等を始めました。歩く旅は大変だというイメージがありますが、歩く事で解る楽しみもあります。実際に歩く旅をして、歩く旅の楽しさをお伝えしたいと思っています。

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