大人の日帰りウォーキング 旅に出ようとして予定の電車に乗り遅れ、仕方なく乗った特急電車に驚いた話
あれ?
目の前に停まっている電車のドアが閉まる。
乗るはずだった電車だよね。そう思いながら、ホームの案内板の表示を確認する。
やっぱり、あの電車だった。
乗り換えに5分あるから大丈夫だろうと、お手洗いに行った。お手洗いは特に混んでいる事もなかったのに…。そう思いながら、再度ホームの案内板を見ながら時間の確認をする。そういう事だったのか。言葉も出ない。時間を間違えてしまった理由が分かった。
何で、今日に限って腕時計の時間が三分も遅れているのよ。
休日に出かける日は車を使う事が多い。1人で乗っている車内の空間が好きだ。誰にも気を使う必要が無く、疲れている自分の心に素直に不機嫌な顔しても大丈夫。自分が好きな道路を選び、自分が好きな音楽を、自分が心地よい音量で楽しめる。歌は歌い放題、独り言だって言い放題だ。1人のドライブは私にとって身近なプライベート空間であり、1人の時間が持てる空間でもある。
しかし、子どもが大学生になり運転免許を取得すると、私の愛車は何かと忙しい子どもが日常的に使う事になった。それはそれで良いけれど、私が自由に車を使える機会が減ってしまった。
日々、日常生活を送っているといろいろなことがある。人間が生活する日常は平穏ばかりではなく、ストレスを抱えてしまう事も多い。当然、私も例外ではない。ストレスがたまると、ストレスの塊の様になってしまう。そんなときは、日常や人間社会から離れて自然を感じる場所に行きたくなる。
どこに行こうか。
前から行きたいと思っている場所はちょっと遠いし…。高速道路も長く走れば料金も結構かかるし…。美味しい物を食べようかと思っても、外食は量も多いし、値段も安くはない。私が1人で美味しい物を食べても誰に何も言われることはないけれど、何だか自分が悪い事をしているような気分になるので気が引けてしまう。貧乏性か。貧乏なのは事実だけれどね。そんなことを、心の中でぶつぶつと思いながら、自分が楽しむための自分に対する言い訳を頭の中でグルグルと考え込む。あぁ私のこういうところが良くないと思い直す。そして、自分に言い聞かせる。私がやりたいことをすればよい。お金もほどほどに使っても良いじゃないか。
今、私がしたいことは何?私が行きたい場所はどこ?
自分で作った計画なのに、乗ろうとしていた電車に乗り遅れてしまい、仕方なく次の電車に乗っていた。電車は準急であり、もしかして、大丈夫じゃない?この電車でも目的としていた電車に乗れるのかも。
休日の下り電車内は混むことはなく、適当な場所に座りリュックを足元に置いた。地元の中学生らしい集団も乗っている。Moltenと書かれている大きなバックを持っている女の子たち。夏休み最後の週末。練習試合にでも行くのだろうか。楽しそうだなと思いながら、中学生だった頃の自分の思い出が昨日のことのように脳裏に浮かぶ。あの頃の思い出にある生き生きしている笑顔は、おばさんになった今でも色あせていない。あれから何年経ったかは数えないけれどね。
のんびりと、そんなことを思っていたが、電車の時間を確認しなおさなければならない。乗るはずだった電車に乗り遅れたのは事実だ。スマフォを取り出す。
だめじゃないか。
最初の予定で乗るはずだった電車は、途中の駅で急行に乗り換えるようになっていた。その電車に乗り遅れ、今、自分が乗っている電車は準急。追いつく訳がない。自分の頭の中でお花畑が咲き誇った瞬間だった。
現地に到着してからの予定は詰まっている。ひとり旅だから、旅先での予定を変更することも出来るけれど、今日はそれをしたくない。
子育てが卒業した頃より、旅を楽しむようになった。有名な観光地を旅するのも好きだけれど、今、楽しんでいるのは登山や街道歩き等の歩く旅。今日の予定は霊場巡りをする歩く旅である。
日本の各地に霊場があり、一番有名なのは四国八十八か所霊場巡りのお遍路さんかもしれない。いつか四国八十八か所へは行きたいと思っているけれど、関東に住んでいるので四国は遠い。そこで、関東からほど近い場所で江戸時代には多くの参拝客で賑わったという、埼玉県にある「秩父三十四観音霊場巡り」に挑戦している。西国三十三か所、坂東三十三か所と共に、日本百観音霊場のひとつでもある。
札所巡りと言われる観音霊場巡りには大きな決まりはなく、回る順番も、期限もない。交通手段では、各札所に駐車場も完備されており、車やバイクで回る人も多く見かける。
せっかくなら、歩いて回ろうじゃないか。
そう思い立ち、日帰りで歩き繋げてようやく終盤になった。今回は30番、31番、32番の札所を巡礼しようと計画している。
乗っていた準急電車を所沢駅(埼玉県)で降りた。
計画していた電車に乗り遅れてしまった私に残された最後の解決方法は、ただ一つ。
特急に乗る事だった。
次の特急に乗ると、西武秩父駅に8時50分に到着し、当初の予定より5分遅れるが秩父鉄道への乗り換えには間に合う。
所沢駅から西武秩父駅までの特急料金は600円。自分のミスをお金で解決するという、大人げない解決方法ではあるが、背に腹はかえられない。
600円の贅沢は快適すぎる。
所沢駅より西武鉄道の特急ラビューに乗る。ラビューは全席指定の為、指定された番号の席に着く。
体を取り囲むように丸くデザインされた席はパーソナルスペースが明確であり、なんとも居心地が良い空間が作られている。座席の座り心地も良く、足回りも快適。明るい黄色で彩られている車内はテンションがあがり、ウキウキしてくる。その車内の黄色は光の加減では明るい中に落ち着きのある色合いにも感じ、これから出かける旅が楽しい物になると予言するように車内を包み込み、乗客を大切に運んでくれているような気分になる。
Wi-Fiも利用できるし、各シートの足元に電源まである。パソコン持ってくれば良かったと思いながらシートの背もたれを倒して広く作られた車窓からの景色を眺めた。
これで600円か。私にとっては贅沢だと思うけれど、お値段相応の価値はあると思う。もしかしたら、電車に乗り遅れたのは「ケチケチしていないでお金を使いなさい」という、何かの流れだったのかもしれないと勝手な思い込みをしながら、自分に甘いよと、突っ込みを入れた。高いか安いかを考えれば、安くは無いけれど、決して高くはないと思う。快適な乗り心地と、乗り換えなしで移動できるのは素晴らしい。帰りも特急に乗りたくなってしまう
しかし、この先にある飯能駅(埼玉県)で驚いた。車内アナウンスはされていたけれど、飯能駅を境にして列車の先頭入れ替わる。これまで進行方向に向かって座っていたのが、全員、反対方向になる。そう、みんな揃って回れ右!なのである。
飯能駅から目的の西武秩父駅までは静かな山間を抜けていくので景色を楽しめるだろうなと思っていたのに…。だから、特急ラビューは大きな窓が作られたのだと思っていたのに、まさかの進行方向に背を向ける区間になる。グループ等で、座席を4掛けにしている場合では、進行方向が入れ替わる希少な体験はある意味ではフェアであにあり、楽しい旅の思い出になると思う。しかし、おばさんのひとり旅には結構つらい。車内アナウンスでは、他の乗客に迷惑が掛からないように座席の回転も出来ると伝えられるが、私が座っている座席を回転させて、後ろ座席の方に「こんにちは」と挨拶をするのは、どう考えてもあり得ない。
飯能駅の線路の構造上、仕方がないのは理解できる。仕方が無いか。残念過ぎる。
乗車時間の60分はあっという間に過ぎ、西武秩父駅に到着した。終点の駅では乗客全員が降りる。休日で観光やレジャーに来ている人々は改札まで列を作りゆっくりと進んで行く。PASMOをピッとして便利だなぁと思いながら改札を抜け、秩父鉄道のお花畑駅に向かう。今日の出発は秩父鉄道の白久駅だ。
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