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働き方改革が成長機会を奪う? 仕事で成功したい若者はこれからどうすればよいのか

やつづかえりフリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)
(写真:アフロ)

先日、トライバルメディアハウス代表の池田紀行さんのブログ記事に対し、Twitterなどで多くの共感の声が挙がりました。

時短推進の働き方改革の中で、20代の若者はどのように成り上がれば良いのか|池田 紀行

この記事の主張は、池田さんが30代で会社を立ち上げ、10年以上経った今も業界の第一人者であるのは20代の圧倒的な仕事量の賜物だということ。そして、労働時間が規制される今の世の中では、早く大量の経験を積んで自分の可能性を伸ばしたいという若者を、会社として認めてあげられないのが悔しい、ということです。

これに対し、株式会社アクシア代表の米村歩さんが「成長にはハードワークが必要というのは幻想だと思う」という記事を書かれています。

“ハードワークは確かに成長のための手段の一つではありますが、成長するための手段はハードワーク以外にもいくらでもあるはずです。成長の機会=ハードワークではありません。”という米村さんの意見に、私も賛成です。

さらに言えば、「職場でのハードワーク」で得られる成長は、今後は時代遅れになっていくでしょう。まずはその理由を説明し、これからの若者がどうやって求められる人材になるのか、今後の成長のあり方を予測してみます。

■仕事が自動化されていく時代に不可欠な「ソフトスキル」「非認知的能力」

「職場でのハードワーク」で得られる成長が時代遅れになるのは何故か? それは、求められる「成長」の中身が変わっているからです。

現代のビジネス環境は「VUCA」と表現されるほど激しく状況が変化し、過去の成功パターンが通用しません

また、多くの仕事が自動化されつつあり、今後は人間が行うべき仕事が少なくなっていくことが予測されます。

そこで重要になるのは、「ソフトスキル」「非認知的能力」と言われるような力です。これらは、忍耐力、自尊心、楽観性、コミュニケーション力、リーダーシップのような、目的に向かって努力したり他者と協働したりするために必要な汎用的なスキルで、定量的に評価することが難しいものです。

逆に「ハードスキル」「認知的能力」は、知識や技能など、その有無やレベルを客観的に判定しやすい力です。

・かつてはハードスキルの積み上げで「役立つ人材」になれたが……

変化の少ない時代には、仕事に必要なハードスキルがある程度決まっていて、それを積み上げ式に身につけていくことで「役に立つ人材」になれました。それを「成長」と言うなら、早いうちに労働時間を費やすほど「圧倒的な成長」が可能だということになります。

しかし、客観的に判定できるということはルールがあるということで、自動化しやすいわけです。せっかく積み上げたスキルが、急にいらなくなる可能性があります。

また、変化の激しい時代には、会計やプログラミングといった特定分野の専門知識もどんどんアップデートしていきますから、若いときに習得した内容がいつまでも使えるとは限りません。常に新しいことを学び続けていく必要があるのです。

・ハードスキルを学び続けるためにもソフトスキルが必要

変化の少ない時代であれば、会社から与えられる仕事を必死でこなせば必要なハードスキルが身につきましたが、これからは会社任せでなく、必要なことを自分で見極めて学習していく必要があります。

そのためには、キャリアプランを自分で考える自律性、人に言われなくても学ぶ意欲や忍耐力、情報収集したり新しいことに取り組もうとする好奇心といったソフトスキルが必要なのです。

また、ルール化、標準化できることがどんどん自動化された末に人間の仕事として残るのは、相手の感情に配慮が必要なケアやマネジメントの仕事、ロジックや計算だけでは答えが出ないことにクリエイティビティや情熱をもって取り組む仕事などでしょう。「人間ならではの仕事」には、ソフトスキルが要求されるのです。

■成長のチャンスである「修羅場経験」は、労働時間規制でなくなるのか?

「仕事で圧倒的成長を遂げたのはどんなとき?」と聞かれたら、厳しい条件下でなんとか目標を達成したとか、顧客の理不尽な要求に対処したとか、いわゆる「修羅場経験」を挙げる人も多いでしょう。

必要に迫られて急ピッチで専門知識を習得するなど、「修羅場」がハードスキルを伸ばすきっかけになることもあります。しかし、自分やメンバーのモチベーションをどう保つかとか、関係者の利害をどう調整するかといった、ソフトスキルのレベルアップを迫られるケースも多いものです。そういう意味で、会社で難しい仕事を与えられる、責任ある立場を任されるというのは、今後も有効な成長の機会となり得ます。

過去の「修羅場」は大抵は長時間労働とセットだったため、「残業規制されたら修羅場経験ができなくなる」と言う人もいます。たしかに、「睡眠時間を削って体力や精神の限界に挑戦する」ということはできなくなりますが、それは今後必要とされる成長にはあまり関係ないばかりか心身を害するリスクも高く、避けるべきやり方です。時間の制約も「修羅場」を構成する一要素ですから、「いかに残業に頼らずに目的を達成できるか」を追求すれば、大いに成長の機会にできるはずです。

また、こういう経験は仕事でしか得られないと思いがちですが、私達は友人や家族などとの関係やサークルやボランティア活動などで難しい課題に直面することも多々あります。そのひとつひとつに真剣に対峙すれば、ソフトスキルは大いに伸びるでしょう。子育てを経験するとマネジメント力やコミュニケーション力が鍛えられる、というのはその一例で、仕事に意欲的な人ほど社外での様々な経験を仕事にも還元することができるはずです。

■今後の若手社会人の成長の仕方を予測してみる

最後に、これからの社会人(特に若手)は、どうやって成長の機会を得ていくのか、考えられるいくつかのパターンを挙げてみましょう。

(1)個人が会社の中と外で自律的に学び、成長する

理想的なのは、個人が自分でキャリアの道筋を描き、本業、副業、プライベートな活動などを通じて日常的に学びを得て成長していくというパターンでしょう。

現在大学1年生の小谷優空さんは、このような形でキャリアを切り開いていくことを予感させる若者です。

小谷優空さん (筆者撮影)
小谷優空さん (筆者撮影)

小谷さんは、札幌の高校3年生だった2018年10月から、東京のIT企業 Everforthのアルバイトとしてリモートワークをしています。

中学1年生のときにゲーム「Minecraft」で遊ぶためのサーバーを運用する目的でコンピュータに触れ、高校時代にはオンラインで繋がった仲間とプログラミングをしたり政府も後援するセキュリティ技術のハッカソン「SecHack365」に参加するなど、独学でプログラミング技術を磨いてきた小谷さん。自己推薦入試で筑波大学への進学が決まった後、札幌やつくばにいながらできるアルバイト先を探すなかでEverforthに出会いました。

「将来エンジニアになりたいので、東京のIT企業でバイトできれば自分の勉強にもなると思いました。ただ、札幌やつくばから東京に頻繁に通うのは難しいので、リモートでできるところを探しました」(小谷さん)

エンジニアを募集していてかつリモートワークが可能ないくつかの会社にアプローチしたものの、高校生というだけで相手にされないことがほとんど。唯一返事をくれたのがEverforthだったといいます。

オンラインでの面談を経て採用を決めた沖津竜平さん(Everforth CCO)は、「オンラインでのレスポンスがめちゃくちゃ速かった」と最初の印象を語ります。高校生でも、仕事に必要なコミュニケーションがきちんとでき、リモートワークでも十分やっていけるという沖津さんの判断が当たり、採用から半年以上経つ現在もアルバイトエンジニアとして同社に貢献しているそうです。

趣味の活動とは言え、高校生の頃からリーダーとして品質やスケジュールを管理する苦労も味わっていた小谷さん。アルバイトを始めてからは、上司のマネジメントの方法などを見ることが「すごく勉強になる」と語ります。

小谷さんは、会社員として働いた経験はなくても、自身の活動を通してマネジメントの重要性を理解し、意識的に学ぼうとする姿勢を持つようになったのでしょう。これこそが、ソフトスキルが高い人の行動で、今後もどんどん成長していくことが期待できます。

(2)必要に応じて非日常の学習機会を得て成長する

(1)のように自分で方向性を見定めて学びの機会を作っていくには、会社で命じられたことだけをやっていては不十分で、会社の意向よりも自分の意思を通すことが必要になるような場面もあります。よほど自律した人でないと難しいでしょう。

もう少し普通の人が、会社の業務をこなしつつ更に成長を遂げるには、留学する、社会人大学院に通う、学習目的で他社に出向するなど、非日常の学習の機会を作るという方法が考えられます。ソフトスキルがグンと伸びるような「修羅場体験」を意図的に用意するのです。

これは、個人が今後のキャリアを考えて自分で機会を作るパターンもあれば、会社が成長を期待する社員に機会を与えるパターンもあるでしょう。

社員を修行させるため、期間限定で他社やNPOに送り込むような動きも始まっており、今後はそのための仲介サービスなども伸びていくことが予想されます。(参考:「レンタル移籍」「ベンチャー留学」で企業と個人が得られるメリットとは?

(3)あえて「ハードワーク」の会社に入り、とりあえず必要なスキルを短期で得る

「ひとつの職場でハードワーク」がしにくい世の中になると、逆に一部の会社は「ハードワークで成長」を売りにし、それを求める若者も出てくるのではないかと考えます。

法的にグレーなことをしてでも、長時間労働ありきの働き方をする会社は残っていくでしょう。そういう会社が、「ハードワークで圧倒的成長ができる」と喧伝して未経験の若者を集めるのです。

そういう会社でどっぷり長時間労働をすれば、その業務に必要なハードスキルは短期間で身につくでしょう。合宿で運転免許をとったり、短期の語学留学をするのと同じような感覚で、その会社に所属している間は会社の仕事を最優先にして生活するーーそういうことも、若いうちに目的をもってやるなら悪くはないでしょう。

ただし、持続可能な働き方ではないし、そこで得られるスキルは限定的なものです。その後も成長していきたいなら、早いうちにその環境を卒業すべきでしょう。

■労働時間と成長の話をするときは、「成長」の中身を問うてみよう

以上、これからの時代に求められる「成長」の中身と、若者が仕事に関して成長する方法について考察しました。

ここに書いた予測はあくまで筆者個人の予測に過ぎません。しかし、今後は「職場でハードワーク」によって得られる成長だけでは足りない、というのはきっと真実です。「働き方改革が成長の機会を奪う」という意見が出てきたら、そこで語られている「成長」とはいったいどんな成長なのかを問い、もう一段深い議論をしてみていただければと思います。

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フリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)

コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立(屋号:みらいfactory)。2013年より、組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』(http://mydeskteam.com/ )を運営中。女性の働き方提案メディア『くらしと仕事』(http://kurashigoto.me/ )初代編集長(〜2018年3月)。『平成27年版情報通信白書』や各種Webメディアにて「これからの働き方」、組織、経営などをテーマとした記事を執筆中。著書『本気で社員を幸せにする会社 「あたらしい働き方」12のお手本』(日本実業出版社)

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