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TBS「ジョブチューン」でロイヤルホストのパンケーキが酷評されて大炎上! 繰り返される問題の原因は?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

パンケーキは日本で人気

パンケーキは好きですか。

パンケーキは日本でも人気のある食べ物のひとつです。2010年代に、パンケーキで定評のある海外の有名店が続々と日本に上陸し、一大ブームとなったのは記憶に新しいところ。甘いスイーツ系だけではなく、食事になる惣菜系も普及してきたように思います。

そんな日本でも愛されているパンケーキで、最近話題となった出来事がありました。

ロイヤルホスト、パンケーキの改良は「未定」 審査員のシェフ中傷に「当惑しております」/ENCOUNT

Yahoo!ニュースのトピックスにもなった記事で取り上げられた事案です。大きく注目されたので、ご存知の方も多いでしょう。

テレビ番組で酷評

一流料理人がファミリーレストランやコンビニエンスストアのメニューついて合否を判定するTBS「ジョブチューン」でのこと。ロイヤルホストの看板メニュー「パンケーキ」に対して、7人の審査員のうち6人が不合格としました。4人以上が合格とすれば、合格商品となるので、評価はあまり高くなかったといえます。

不合格を判定し、厳しい言葉を発した料理人に対して、SNSなどでは大きな批判があり、中傷にまで発展しました。ある料理人が今回の背景を真摯に説明したところ、事態が急転。現状では、制作側の演出に瑕疵があるのではないかと指摘されています。

以前にも指摘

当記事では、審査員である料理人やパティシエに焦点を当てません。

元日のTBS「ジョブチューン」でコンビニのおにぎりを“食べずに不合格”で大炎上!! 本当の問題は……(東龍)/Yahoo!ニュース

なぜならば、1年ほど前にも述べたように、件のテレビ番組が内包する問題であると感じられるからです。以前にも指摘しましたが、テレビ番組の性質が変わっていないので、改めて見解を述べていきたいと思います。

料理コンクールとの違い

件のテレビ番組における登場人物を整理しておきましょう。

被評価者=商品を提供する企業、評価者=料理人やパティシエ、主催者=制作やテレビ局、部外者=テレビ番組の視聴者や記事の読者、に分類されます。

通常の料理コンクールであれば、審査の様子は、被評価者と評価者と主催者にしか公開されません。PRしたいのであれば、メディアに声を掛けて、審査風景を取材に来てもらうこともあります。

ただ、評価者による評価および講評の詳細が、被評価者に公表されることは少ないです。ましてや、目の前で合否を決めたり、講評したりすることは極めて少ないといえるでしょう。

しかし、件のテレビ番組は料理コンクールと違い、評価者による評価および講評が、被評価者の前で行われます。加えて、主催者の編集を経た上で部外者に伝わるのです。

件のテレビ番組と純粋な料理コンクールは、全く質を異にするといえます。

ミシュランガイドの評価

日本において、食の評価で最もよく知られているものはミシュランガイドです。一つ星、ニつ星、三つ星、価格以上の満足が得られるビブグルマン、サスティナブルな活動を行っているミシュラングリーンスターとして、レストランを掲載します。

今年のミシュランガイドの傾向については、拙記事をご参照ください。

話題の「ミシュランガイド東京2023」を読み解く 発表会に参加したグルメジャーナリストの視点(東龍)/Yahoo!ニュース

ミシュランガイドの評価基準は、「素材の質」「料理技術の高さ」「味付けの完成度」「独創性」「常に安定した料理全体の一貫性」という5点。調査員が調査した後で、数回におよぶ合議制で評価が決定されます。

基本的に皿の上にある料理だけを調査し、立地や内装、サービスやワインは、評価と関係ありません。ただ、酒類が充実しているレストランに対しては「興味深いワイン」「興味深い日本酒」といったピクトグラムが付与されます。

ミシュランガイドの調査については、匿名性が大きな特徴。毎年、星を獲得しているレストランに尋ねても、どのゲストが調査員であったのか、ほとんど特定できないといいます。いつ審査されたのかわからないくらいなので、レストランは当然のことながら、調査員がどのような評価および講評を下したのか、全く知る由がありません。

料理コンクール

私は大使館やホテルグループなどが主催する料理コンクールで、何回も審査員を務めた経験があります。こういった料理コンクールでは、審査項目が設定されており、それぞれに対して点数を付けていました。

たとえば、<味10点/盛り付け10点/ストーリー性10点/商品性10点/合計40点>というように全ての配点が同じであったり、<味覚40点/表現力・アイデア20点/見栄え20点/商品としての価値10点/プレゼンテーション10点/合計100点>というように配点が異なっていたり、という感じです。

何を評価するかは明白であり、被評価者の前で評価および講評することはありません。最後に講評することはありますが、基本的には全体の総評です。個々の被評価者に対してダメ出しすることは、まずありませんでした。

様々なパターンがありますが、基本的な構成としては、<味/見た目や物語性やテーマなどの要素/予算および販売価格>が中心。これらをいかに審査し、どの項目に比重を置いて配点するかが、料理コンクールの妙味となっています。

レギュレーションの重要性

料理コンクールを開催するにおいて、最も重要となるのはレギュレーションです。つまり、料理コンクールにおける定義やルール。これをもとにして、評価者は被評価者の作品やプレゼンテーションを評価します。

もしも、レギュレーションがしっかりと定められていなければ、何をどのようにして評価するべきかという軸がありません。そうなると、評価者の好みがダイレクトに反映されただけの極めて主観的な評価となります。

これは評価者に全てを委ねることを意味するので、主催者や被評価者にとって望まれたものになるのか、疑問が付されるところ。もちろん、評価者が悪いのではありません。評価者はサービス精神も含めて、自身の軸や価値観において、しっかり評価しようとするもの。つまり、厳密にレギュレーションを定めなかった主催者が悪いということになります。

レギュレーションを決めるには

レギュレーションを決めるには、まずテーマやコンセプトがあります。「●●●県の●●●を使った一品」「サスティナブルな料理」「朝食に提供する原価●●●円以内のメニュー」「ディナーにおけるコースのメインディッシュ」というような大枠です。

そこから、味、見た目、独創性、テーマに沿っているかどうかなど、採点に関する項目を決定。どの項目も同じ点数配分ということもあれば、重要項目に配点を多くすることもあります。

実際に販売される商品であれば、原価と販売価格、販売数、販売期間と販売時期における季節性、調理時間や再現性などが採点に加えられることもあるでしょう。

ここで大切なのは、何を目指す商品なのかであり、何のための審査であるかということです。

レギュレーションの曖昧さ

こういったことを鑑みれば、以前にも指摘しましたが、件のテレビ番組は何を目指した審査なのか、今ひとつはっきりしないところがあります。

何かしらのポリシーをもって、商品を評価しようとしているとは、残念ながら感じられません。

件のテレビ番組は、既に販売されている商品を審査しています。ファミリーレストランやコンビニエンスストアは、日本においては非常に大きな企業です。そこで販売される商品は、先の料理コンクールと同じように、テーマやコンセプトに沿った上で、味、見た目、原価と販売価格、販売数、販売期間と販売時期における季節性、調理時間や再現性などの審査を経た上で販売されています。

実際に販売されている商品を、何のためにどういった基準で改めて評価するかは、非常に重要です。こういったことが曖昧になっており、部外者=テレビ番組の視聴者や記事の読者に、ルールが明示されず、理解されていないので、大きな炎上につながったのではないでしょうか。

つくり手に対するリスペクト

最後に指摘しておきたいのが、件のテレビ番組における、つくり手に対するリスペクト。

つくり手とは、被評価者=商品を提供する企業の開発者、および、評価者=料理人やパティシエです。

大手のファミリーレストランやコンビニエンスストアと、個店が多くを占める飲食店や洋菓子店は、同じ飲食業界にありながら、ポリシーや志向、経営方針やターゲット層、売上構成や開発工程が全く異なります。ちなみに、ここで述べた飲食業界とは、日本標準産業分類の「76 飲食店」という意味ではありません。飲食物を開発・提供するという意味における広義の飲食業界です。

もともと料理コンクールにおいても、評価者と被評価者は非常に難しい関係にあります。互いのリスペクトや細やかな配慮がなければ成立しません。したがって、被評価者がいる場で評価や講評を下すのであれば、大きな緊張感をもって運営されなければならないでしょう。ましてや、部外者=テレビ番組の視聴者や記事の読者に公開するとあれば、より慎重にならなければなりません。

炎上の本質的な原因

件のテレビ番組の企画では、あえて価値観が全く異なる二者を、センシティブな場に放り込んだ上に、編集して切り取り、意図的により刺激的なシーンに仕上げています。

つまり、全く性質が異なるつくり手の対立軸をあえて生み出しているように感じられるのです。つくり手である被評価者と評価者のどちらに対しても、配慮が欠ける企画と演出を用いているのではないでしょうか。

そして、この評価者と被評価者という両者のつくり手に対するリスペクトの欠如が、件のテレビ番組における、今回を含めたこれまでの炎上事案の本質的かつ根本的な原因であると考えています。

コロナ禍での飲食業界

政府は感染症法において、新型コロナウイルスを2類型から5類型に変更することを視野に議論しています。

コロナの脅威が収まってきたとはいえ、コロナ禍において最も打撃を受けたのが飲食業界。帝国データバンクによる最新の調査によれば、新型コロナウイルス関連の倒産では、飲食店が業種別で最多となっています。

「新型コロナウイルス関連倒産」動向調査<12月2日(金)16時現在判明分>/帝国データバンク

ただ、光明も差してきました。

外食産業市場動向調査 2022年10月度 結果報告/一般社団法人日本フードサービス協会

一般社団法人日本フードサービス協会による、最新の外食産業の調査では、業態によって差異はあるものの、2022年10月は全体として、2019年対比で105.5%を記録し、初めてコロナ禍前の水準を超えたというのです。

日本の食をリスペクトするコンテンツ

2013年に「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されたり、「ミシュランガイド東京2023」で東京が世界で最多の星を獲得する都市となったり、2022年に発表されたアジアのベストレストラン50で日本料理「傳」が1位になったりと、日本の食は海外で非常に評価されています。

ただ残念ながら、当の日本においては、飲食業界における従業員の給与や地位が低かったり、労働時間や負担が大きかったりして、問題が提起されている状況。加えて、件のテレビ番組のように、日本の食をリスペクトするのではなく、日本の飲食業界の内外で軋轢を生むようなコンテンツが制作されています。

日本の食は日本の未来を支える大きな原動力となるのは間違いありません。今後人口減少が加速し、国力低下が懸念されている日本において、このようなコンテンツが制作されていることは非常に残念です。日本の食をもっとリスペクトし、大切にするコンテンツが制作され、放送されることを切に願います。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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