トランプ大統領再選戦略としてのイラン司令官暗殺
フーテン老人世直し録(487)
睦月某日
新年早々「戦争が始まるか」と思わせた米国のイラン革命防衛隊司令官暗殺と、それに対するイランの米軍基地ミサイル攻撃だったが、日本時間の9日未明に行われたトランプ大統領の会見を見て、シナリオの骨格が見えてきた。やはり大統領再選を目指すためのシナリオの一つだった。
フーテンは一昨年からの北朝鮮の金正恩委員長とトランプの「ラブゲーム」を見て、トランプは北朝鮮との「非核化交渉」を大統領選の切り札にするとみていた。そのためにはまず米国民に北朝鮮に対する恐怖感を最大限感じさせなければならない。そのうえでそれを救えるのは自分しかいないことをアピールするのである。
実際、北朝鮮のミサイルが米国本土にまで届くと報道され、米国民は冷戦以来久々に核戦争の恐怖にかられた。一方で北朝鮮のミサイルが大気圏再突入の技術を持っているかが疑問視されると、宇宙空間で核を爆発させれば電磁パルスが米国の電力や通信のインフラを破壊し米国経済を麻痺させることが出来ると報道された。
冷戦末期にもソ連が宇宙空間で核を爆発させ米国経済を破壊するという論文が発表され、それを防ぐには通信網を銅線から光ファイバーに変更しなければならないと結論付けられた。それはソ連がそれをやるというより、米国民に光ファイバーへの転換の必要性を訴えるプロパガンダであった。
今回も北朝鮮がそれをやるというより、米国民に恐怖感を与えるのが狙いで、現実に起きると米国政府が考えているわけではない。しかし米国政府にとっては国民に一定の恐怖感を与え続けることが政治を行う上での必須なのである。
そして米国は北朝鮮との間で一触即発の危機を演出する。「全面戦争」になれば韓国の首都ソウルと日本の首都東京は北朝鮮によって壊滅させられるから、それはできない。そこで金正恩委員長を暗殺する「斬首作戦」や「鼻血作戦」という先制攻撃が頻繁に報道された。
まずは米国民を恐怖に陥れた後で、トランプと金正恩が一転して手を結ぶ。トランプは米国民を救う救世主になるのである。フーテンはトランプが金正恩を「恋人」と呼ぶのを見て、金正恩がトランプの大統領再選に協力することを約束したなと思った。大統領再選と金正恩の安全が取り引きされたのである。
ところがトランプには「ロシア疑惑」で訴追される可能性が出てきた。特別検察官の捜査の進展具合と北朝鮮問題解決のタイミングを合わせなければならない。歴史的なシンガポール会談後、ハノイで一転して北朝鮮との関係を悪化させたのは、タイミング修正の必要が出てきたからだとフーテンは思った。
するとまた「ウクライナ疑惑」が出てきてトランプは議会下院から弾劾訴追を受けた。上院で無罪になることは間違いないが大事なのは世論である。共和党は早く決着をつけ大統領選への影響を減らしたいが、民主党のペロシ下院議長は下院で決まった弾劾案を上院に送らない。理由はトランプに解任されたボルトン前大統領補佐官を証人に呼ぶことに共和党が難色を示したからだ。民主党は弾劾裁判を遅らせて選挙と絡ませたい。
そうしたタイミングでイラン革命防衛隊司令官の暗殺は行われた。この暗殺をタカ派のボルトンは絶賛する。イランと北朝鮮を力でねじ伏せろと主張するボルトンは、これまでトランプとことごとく反目した。だから民主党はボルトンを証人に呼びトランプに不利な証言をさせようとした。
しかし暗殺によってボルトンはトランプ支持に回る。共和党指導部にボルトンが証人になることへの懸念は消えた。これでボルトンがトランプに不利な証言をする可能性はなくなり、上院での弾劾裁判は早期に無罪が言い渡され、トランプは無罪となって選挙に臨むことが出来る。
一方でこの暗殺は北朝鮮の金正恩に「斬首作戦」の悪夢を呼び覚ます。米国のドローンは正確にイラン司令官を暗殺した。金正恩は昨年末までに米国から制裁解除に向けた色よい返事をもらおうと考え、年末ぎりぎりまで待ったが返事はない。従って金正恩にすれば再び米国に向けた大陸間弾道ミサイル発射の何らかの行動をとらなければならない。
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