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日米安保条約は表では「平和」の話だが裏では「カネ」の話だ

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(488)

睦月某日

 日米安保条約改定調印から60年目の1月19日、日本政府は外務省飯倉公館で記念式典を開き、安倍総理が「日米安保は世界の平和と繁栄を保証する不動の柱」と述べ、日米同盟を更に進化させていく考えを示した。

 一方のトランプ大統領もワシントンで声明を発表し、「日米同盟は世界の平和と安全、繁栄に必要不可欠」としたうえで「日本の貢献が一層拡大し、同盟が引き続き前進していくことを確信している」と、日本政府に防衛費の増額や在日米軍経費の負担増を求める姿勢を示した。

 日米安保条約はそもそも敗戦によって武装解除された日本が、軍事的空白状態の中で起きた朝鮮戦争に際し、再軍備せずに安全を確保するために結ばれた。それが1960年に改定される前もその後も、オモテでは「平和を守るために必要な条約」、しかしウラでは「カネを吸い上げるのに必要な条約」として機能してきた。

 第二次大戦で敗戦国となった日本とドイツは連合国によって武装解除された。1949年に米ソ冷戦が始まるとドイツは東西に分断され、翌50年に朝鮮戦争が勃発すると、米国はそれまでの方針を逆転し西ドイツと日本に再軍備を要求してきた。

 米国の要求を西ドイツは受け入れ徴兵制を敷いて民主的な軍隊を作ったが、日本では吉田茂が憲法9条を盾に再軍備を拒み、武器弾薬を米国に提供することで戦争に協力する道を選択した。それが日本を工業国として経済復興させることになる。

 吉田は日本が経済復興するまでは軍事にカネを使わず、占領が終わって独立国となっても米軍の駐留を認める日米安保条約によって日本の安全を確保しようとした。日本の国土のどこにでも米軍基地を作れる約束をしたのは、オモテでは「日本の平和のため」と説明されたが、ウラでは「カネのため」であった。

 そして朝鮮戦争が終わっても冷戦は終わらないので日米安保条約はそのまま継続された。しかし朝鮮戦争は日本経済に「天の助け」とも言うべき恩恵をもたらす。高度経済成長が始まるのである。1955年には自民党と社会党が冷戦構造を利用し、役割分担して米国を騙す仕組みも作られた。

 冷戦があるため社会党政権ができては困る米国の足元を見て、国民の脳裏に「9条神話」を刷り込み、その先頭に社会党を立たせ、憲法改正をさせない護憲運動を広めていく。そして中選挙区制を利用して必ず社会党に3分の1を超す議席を与え、憲法改正の発議をさせないようにするが、社会党は選挙に過半数を超える候補者を擁立しない。

 従って政権交代は絶対に起きない。しかし国民の護憲運動を米国に見せつければ、米国は自民党政権に過度な軍事的要求をしてこない。軍事負担を最小にして経済に最大限の力を注ぐ。それが日本経済を上向かせる。

 しかし日米安保条約によって存続された米軍基地は様々な問題を引き起こす。特に国民の怒りを買ったのは1957年に起きた「ジラード事件」である。米軍の演習地に入って薬莢を拾い換金しようとした主婦に声を掛け、近寄らせて射殺した米兵は殺人罪ではなく傷害致死罪で起訴され、執行猶予付きの軽い刑罰に終わった。

 事件の直後に総理に就任した岸信介は国民の米軍基地に対する反発を見て、安保条約を「従属」から「対等」に変えようとする。そのため安保条約に付随する「地位協定」を変えようとした。ところが米国は頑として応じない。軍隊を持たない日本に米国を守ることは出来ないのに日本を守る米国との「対等」はあり得ないとの理屈である。

 それが岸を憲法改正論者にする。軍隊を持たない限り日本は米国の従属国であり続けると考えたからだ。岸は米国に対し、米軍の日本駐留を認める代わりに日本防衛の義務を負わせた。それが60年前の1月19日に調印された。しかし日米安保条約改定は国民の広汎な反対運動によって岸を退陣に追い込む。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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