脅せば国民は言う通りになるとでも思っているのか
フーテン老人世直し録(505)
卯月某日
安倍政権が新型コロナウイルスを巡る方針を二転三転させている。状況変化に合わせて方針を変えるのなら良いが、自分の方針の誤りを糊塗するために二転三転させているのなら問題だ。国民の不安を増すだけで国家は致命的な打撃を受ける。
厚生労働省のクラスター対策班が15日に記者会見し、感染防止策を行わなければ国内でおよそ85万人が重篤な状態となり、半数の42万人が死亡するという推計を発表した。それをメディアはこぞって「衝撃の数字」と大々的に取り上げた。
フーテンは国民を脅して政府の言うままにさせようとする意図を、つまり戦時中に日本のメディアが垂れ流した大本営発表と似たものを感じた。「何もしなければ」という前提があるのだから、85万人が重篤になることも42万人が死ぬことも現実にはあり得ない。それらは空想上の誇大な数字である。
外国のような補償もされずに、日本国民はすでに我慢の自粛生活を送っている。従って数字は間違いなくそれより小さくなる。にもかかわらず政府は意図的に大きな数字を発表した。何のために。7日に安倍総理が発表した「緊急事態宣言」が思い通りになっていないからだ。
そのため安倍政権はもう一度国民を脅し、自粛をより強めさせようとしている。一方のメディアは政府の尻馬に乗るだけだ。戦時中と同じく危機を煽れば煽るほど発行部数や視聴率が上向き、金儲けになるのだからやめられない。
同じ15日には、公明党の山口代表が安倍総理と会談し、国民一人当たり一律10万円の現金給付を行うよう申し入れ、安倍総理は「方向性を持って検討する」と答えた。翌16日、安倍総理は既に決まっていた減収世帯に対する30万円の支給を取りやめ、一人10万円の支給方針に変更するよう指示した。予算案の突然の組み換えは前代未聞である。安倍政権の大失態として責任追及される可能性がある。
そして16日には7都府県にのみ出されていた「緊急事態宣言」を全国に拡大することも突然決まった。なぜ7都府県だけなのかというのもよく分からなかったが、全国に拡大する意味も分からない。ただ分かるのは、誇大な死亡者数の発表から始まる一連の動きはすべて一つのものだということだ。
それはこれまでの安倍政権の新型コロナウイルス対応がうまくいかず、浮足立った政権があっちの藁やこっちの藁に縋り付き、政権の支持率低下を食い止めようとあられもない姿をさらしているようにフーテンには見える。
財務省主導の30万円支給方針が不評で、公明党の強い要求を飲まざるを得なくなり、全国民に支給することになったことから「緊急事態宣言」も全国に拡大した。緻密に組み立てられた対応ではなく、その場しのぎで後から理屈をつけている。もはや末期症状と言える。
この記事は有料です。
「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバーをお申し込みください。
「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバー 2020年4月
税込550円(記事6本)
※すでに購入済みの方はログインしてください。