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新型コロナウイルス後の世界で東京五輪のハンデを負う日本

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(506)

卯月某日

 ニュージーランドのアーダーン首相は20日、3月26日から行ってきた全土封鎖(ロックダウン)を来週から緩和すると発表した。3月26日に283人だった感染者は4月5日に1000人を超えたが、20日現在で前日より9人増の1440人となり、死者は12人にとどまっている。

 感染の伸びが鈍ったことで最高レベルだった警戒態勢を一段低いレベルに下げ、学校、建設業、林業、製造業や飲食店の持ち帰りサービスを28日から再開させる。ただ在宅勤務が可能な人は自宅にいるよう求められ、5月11日にさらに緩和するかを決めるという。

 ニュージーランドの新型コロナウイルス対策は米国を始め海外メディアから高く評価される。その理由は、何よりも政府と国民の信頼関係にある。ニュージーランド在住のジャーナリストによれば、アーダーン首相はウイルスの「根絶」を政府の目標に掲げ、世帯ごとの「隔離」を国民に呼びかけた。

 首相はそれぞれの世帯を「泡」に例え、「泡」の中にいれば他の「泡」にウイルスがいてもうつらない。しかし「泡」は壊れやすいので、壊さないように注意して「泡」の中にいるよう国民に訴えたのだという。

 ロックダウンの対価として、在宅勤務ができない人には週給で約3万8千円、パートタイマーには2万3千円が政府から支払われる。また首相は毎日記者会見を行って最新情報を国民に伝え、さらにSNSを利用して時間さえあればライブで国民の質問に答える。

 その結果、世論調査では政府の方針に賛成する国民が88%に達した。つまりニュージーランドではみんなが「納得」してウイルスの危機を乗り越えようとした。それが来週からの緩和につながったのである。

 一方、ロックダウンせずに通常の生活をしながら危機を乗り越えようとした国もある。北欧のスウェーデンは、ニュージーランドや欧米諸国とは対照的に、国境封鎖も都市封鎖も行わなかった。スウェーデン政府はロックダウンによる経済的打撃を避け、国民が「大人の対応」を取ることを呼びかけたのである。

 その結果、4月19日時点で新型コロナウイルスによる死者数は1540人。この数字はロックダウンを行っている北欧諸国より多いが、スペイン、イタリア、英国と比べれば大幅に少ない。こうした政策によって自動車メーカーのボルボは20日から国内工場を再開させるという。

 周囲の国々にはスウェーデンのやり方を無謀と批判する向きもあるが、しかしロックダウンせずに終息に向かえば、その後の経済にとってスウェーデンが好位置をキープできることは間違いない。そしてこのやり方が可能なのも政府と国民の信頼関係が強いからだと見られている。

 新型コロナウイルスの感染が始まった中国では、4月8日に武漢市のロックダウンを終わらせた。1月23日に人口1100万人の武漢市に通ずる交通を遮断し封鎖するという史上空前の非常手段を採用した中国政府は、経済を度外視して国民に耐乏生活を強いる強硬策を採用した。

 76日間にわたる封鎖で中国経済は惨憺たるものになることが予想された。中国の国家統計局は17日に、2020年1~3月期の経済成長率を発表したが、前年同期比マイナス6.8%で、マイナス成長は1976年以来44年ぶりである。中国は新型コロナウイルスによる経済的影響がいかに深刻であるかを世界に知らしめた。中国と同様にロックダウンを実施した国々はそれと近い経済的ダメージを受ける。

 中国政府の強硬策は共産党一党独裁であるが故にできたことで、政府と国民の間の信頼関係に基づくとは思わないが、しかし中国共産党の独裁が可能なのは経済成長を続けてこられたことに由来する。

 従って新型コロナウイルスが終息した世界での中国の経済的優位が揺らげば、国民の不満が顕在化することは火を見るより明らかだ。また「一帯一路」を唱える習近平政権が米国と対峙していけるのもその経済力に他国が魅力を感じているからだ。

 つまり何よりも経済のV字回復を欲しているのは中国である。それが出来なければすべてが水泡に帰すと言っても過言ではない。おそらく中国はなりふり構わず経済力の回復に力を入れてくるだろう。そう思っていると中国経済は既にV字回復を始めたとする記事を見つけた。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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