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安倍総理のイラン訪問は「選挙互助会」の発動だ

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(444)

水無月某日

 安倍総理は12日から日本の総理として41年ぶりにイランを訪問し、米国のトランプ政権との間で軍事的緊張が高まる両国関係の仲介役を果たそうとしている。そしてあわよくばそれを衆参ダブル選挙に打って出る突破口にしたいと考えている。

 何度も書いてきたが、安倍総理は今年1月4日の年頭会見で、「戦後日本外交の総決算」を掲げ衆議院解散に踏み切る覚悟を披露した。すなわち今年が己亥(つちのとい)であることから前回の己亥は祖父の岸信介が日米安保改定交渉を行った年だったことに言及する。

 そして「先人たちは国論が二分する中で逃げることなく、国の行く末を見ながら決然と責任を果たし、改定された安保条約は60年後の今なお我が国の外交・安全保障政策の基軸である」と、祖父岸信介の業績を讃えた。

 そのうえで「平成は冷戦が終結し国際情勢が激変した時代だが、我々も責任から逃げることなく、新たな外交の地平を切り拓いていかなければならない」と語った。「新たな外交の地平」として念頭にあるのは日露平和条約締結だとフーテンは思った。

 従来の日本の方針である「4島返還」を「2島返還プラスアルファ」に変更すれば、間違いなく国論は2分される。そこで国民に信を問おうということになる。6月28日から始まるG20大阪サミットでプーチン大統領と「2島返還で平和条約締結」に合意すれば、ただちに衆議院を解散し衆参ダブル選挙に打って出る覚悟だとフーテンは見た。

 ところが皮肉なことに祖父の岸信介が外交・安全保障政策の基軸に据えた日米安保体制が日露平和条約交渉の障害となる。プーチン大統領は沖縄の米軍基地問題を取り上げ、日米安保体制がある限り北方領土返還は簡単にいかないと言い出すようになった。

 北方領土問題は米国を巻き込む外交努力を行わない限り進展しないことが明らかだ。そもそも第二次世界大戦で日本と中立条約を結んでいたソ連に日本との戦争をけしかけたのは米国のルーズベルト大統領である。そしてルーズベルトはソ連参戦の見返りに日露戦争で日本に奪われた南樺太や北方領土をソ連に提供すると勝手なことを言った。

 世界で最もトランプ大統領と親しいことを「売り」にしている安倍総理が米国に働きかけを行うのかどうかを見ていたが、何も行っている様子はない。そのうち北方領土について言及することも少なくなり、それに代わって拉致問題が浮上し、安倍総理は北朝鮮の金正恩委員長と無条件で会談する考えを表明した。

 かつては米国の強硬姿勢に同調し最も厳しい制裁を課すよう主張していた安倍総理が、トランプ大統領の態度変更を真似して柔軟姿勢に転じたように見えるが、外交巧者の金正恩が安倍総理の思惑通りに動く気配はどこにもない。「安倍一味はずうずうしい」と言われる始末で、「戦後日本外交の総決算」の構図の中に入ってこない。

 思い余ったのか、安倍総理側近らが消費増税を延期して国民に信を問うとか、憲法改正で大連立をするとか、安倍総理の年頭会見にあった「戦後日本外交の総決算」とは異なる意味不明のことを言い出した。

 しかし成算もなく解散風を煽ることほど恐ろしいものはない。政治は一寸先が闇の世界である。選挙は下駄を履くまで分からない。下手をすれば一気に権力を奪われて末代にまで汚名を残す。そう考えたのか最近では側近議員も「解散はない」と言うようになった。

 しかしである。安倍総理は喉から手が出るほど解散をやりたい。この時期を逃せば解散できなくなることが必至だからだ。つまり政権がじり貧になることを安倍総理は感じている。これまで選挙を支えてきたアベノミクスはもう通用しない。森友問題で財務省に借りを作った安倍政権が消費増税をやめることは難しい。だから外交を前面に立てるしかない。

 そこでイラン訪問に政権の命運をかけることになる。新聞にはトランプから「ぜひイランに行ってほしい。シンゾーしかいない」と言われたことになっている。米国とイランの関係を考えれば、米国大統領がそんなことを言うはずはないとフーテンは思うが、もし本当にそう言ったのなら、「選挙互助会」の発動が始まったということだ。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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