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なぜ「20代女性」の貧困相談が増えているのか? かつてなくコロナ問題が深刻なわけ

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
写真はイメージです。(写真:アフロ)

 私が代表を務めるNPO法人POSSEにはいま、コロナウイルス感染拡大の影響を受けた生活困窮に関する相談が次々と寄せられている。4月15日時点で総数194件にも上る。そのほとんどが4月以降に来たものだ(なお、労働相談件数はこれとは別に、外国人を含む1000件以上が寄せられている)。

 今回は、これらの生活困窮者からの相談をもとに、コロナ問題が生活困窮者に与えている影響を傾向を明らかにしていきたい。そして、これを踏まえ、必要な対策を提言していきたい。

 あらかじめポイントを示しておくと、

 (1)政府の政策が機能しておらず、非正規雇用が生活困窮者へ

 (2)20代の女性からの相談が特に多い

 (3)制度の「はざま」に置かれたケースが多い

 (4)適切に制度が運用されていない

 の四点である。

なお、NPO法人POSSEでは、大学生、大学院生、若手社会人のボランティアが、コロナ関連の外国人・貧困支援や、労働問題の調査・相談事業等を行っています)。

休業補償から排除され、困窮する非正規労働者

 まず、相談者の「仕事」の状況はほとんどが非正規雇用が占めていた。不明の除く108ケースのうち、4分の3が「パート・アルバイト」「派遣」といった非正規雇用である。

相談者の雇用形態

正社員 6

パート・アルバイト 53

派遣 28

フリーランス 16

自営業 5

 加えて、「フリーランス」も16ケース寄せられている。このように、今回のコロナ危機から最も影響を受けているのは、非正規やフリーランスといった不安定な働き方をしている人たちであることがはっきりと表れている。

 次に、年代・性別については、不明を除いた116ケースのうち、28ケースが「20代女性」と最も多かった。20代と30代に関しては女性、40代と50代は男性の方が多くなっている。働くことが難しい高齢者ではなく、「20代〜50代」の稼働年齢層がほとんどだということが大きな特徴になっている(20代女性が多い理由は後述)。

 さらに、世帯構成については、不明を除いた144ケースのうち、6割以上(89ケース)を「単身世帯」が占める。「夫婦と未婚の子」については、高齢の両親と同居する中年層が多い印象だ。「ひとり親と未婚の子」はほぼ全て母子家庭である。

 そして、住居形態については、不明を除いた121ケースのうち、3分の2(80ケース)が「賃貸住宅」となっている。「持ち家」も20ケース見られるが、住宅ローンが残っている場合も少なくない。「会社寮」や「居候」はそれぞれ6ケース、9ケースと数としては多くはないが、非常に不安定な住居形態であり、住居喪失の危険性が高い。

「補償無き自粛」で生活困窮状態へ

 では、肝心の生活困窮に至ってしまった理由はどのようなものだろうか。データは以下のとおりである。

生活困窮の要因

休業・勤務日数減 99

雇止め・解雇 20

仕事が見つからない 41

会社倒産 2

その他 30

 もっとも多いのは、「休業・勤務日数減」で半分以上(99ケース)を占める。次いで、「仕事が見つからない」が41ケースで、多くはコロナ流行前に失業状態であった人たちが求職活動を継続したが、コロナの影響で求人が減っているというものだ。「雇止め・解雇」も20ケースに上っている。

 以上の集計結果と相談対応の実感を踏まえると、今回のコロナの影響を受けて生活困窮に陥っている典型的なケースは、「20〜50代の稼働年齢層」の「非正規」の人たちで、「賃貸住宅」に住んでおり、無貯蓄であるため、「休業・勤務日数減」により一気に生活困窮に陥っている、というものだ。

 彼らはもともとは非正規などで「働いていた」人たちである。したがって、コロナ危機に伴う「休業対策」が適切に実施されていれば、生活困窮状態に陥ることはなかったはずだ。その意味で、政府の「補償無き自粛要請」の犠牲者であるといってもよいだろう。

 特に、休業や解雇に関しては、本来は企業が雇用調整助成金を活用して休業手当を支払うべきだが、この政策が機能していないために、生活困窮状態に陥っていることに注目すべきだ。

 厚生労働省は公式ツイッターアカウントで、雇用調整助成金が存在しているために、「補償無き休業ではない」とわざわざ「反論」を展開しているが、現実にはこの政策はあまり機能していないのである(詳しくは下記の記事を参照)。

 参考:厚労省が異例の「反論ツイート」を連投! 「補償無き休業ではない」は本当か?

 政策が機能しない中で、失職した人たちの状況は深刻だ。家賃を「すでに滞納」しているのが10ケース、「今後滞納しそう」なのが34ケース。光熱費を「すでに滞納」しているのが5ケース、「今後滞納しそう」なのが22ケース。電気や水道が止まり、住居を喪失する可能性のある人たちは、今後もっと増えていくだろうと予想される。

 上記の典型的なケースの人たちは、コロナ危機に対応して制度が拡充された「コロナ特例貸付」(各地の社会福祉協議会が実施)や、生活保護制度の対象になる可能性が高い。これらの制度を活用することが生存を保障する一つの方法だ。

20代の女性の貧困相談が、なぜ多いのか?

 冒頭で述べたように、今回特徴的なのは、「20代女性」が28ケースと最大だったことである。その理由について考えていこう。

 まず、直接の原因としては「休業・勤務日数減」が生活困窮の原因となっているケースが多く、18ケースだった。

 具体的には、「コロナの影響でアルバイト先がGW明けまで休業したため、収入が激減し、家賃が払えない」というものや、「前月からバイトのシフトが削られ、緊急事態宣言で全部カットされた。補償の連絡もない」といったアルバイト先の休業に伴うものが多い。中には大学生からの相談も多数含まれている。

 この「若年女性の貧困化」の背景には、非正規雇用が「女性に多い」という問題と、女性の主な就労先である「サービス業」がもともと非正規雇用が特に多いうえに、今回のコロナ危機が直撃しているという事情がある。

 そもそも、非正規雇用の雇用者に占める非正規雇用の割合は38.3%だが、女性の非正規雇用率は56.0%に上る(「労働力調査」2019年平均。役員を除く)。

 また、今回コロナ危機で大打撃を受けている宿泊業や飲食サービスは、特に非正規雇用の女性が多く働いている産業であり、「宿泊業、飲食サービス業」で働く労働者数は、男性が109万人であるのに対し、女性はほぼ倍の203万人となっている(2017年就業構造基本調査)。

 そして、同産業の非正規雇用の割合は74.4%であり、全産業分類中最多であり、女性に絞ってみると、その割合は85.2%にもなるのである(同)。

 この、「宿泊業、飲食サービス業」の非正規雇用で働く(若年者を中心とした)女性たちが、今回のコロナ危機で一気に「貧困の危機」に陥っているという構図が見て取れる。

 次に、重要なのはこれらのサービス業が、不況期には「雇用の受け皿」となってきたということだ。飲食業を中心としたサービス業は、設備や技能の面で参入障壁が低いために、常に失業者が流入する業界なのである。そのため、社会学ではサービス業の下層は「都市雑業層」とも呼ばれ、その大部分は「貧困層」としてとらえられている。

 実際に、2008年のリーマンショック期には、大量の「派遣切り」が製造業で吹き荒れたが、彼ら/彼女らの元にあっせんされた仕事もまた、飲食サービス業の非正規雇用が非常に多かったのである(ちなみに、政府はAIにより雇用が減少する中で、製造業などから失業者が流入することでかえって飲食などのサービス業は「増える」可能性があると試算している)。

 サービス業は、女性の雇用の大きな受け皿として特に大きな存在感を示しているが、中にはいわゆる「水商売」の仕事もあり、生活に困窮する若い女性の「受け皿」とされてしまっていた。岡村隆史氏の発言のように、不況期に失業者が増えることで、この業界に女性が流入することは事実なのである(ただし、それを喜ばしく、待望するかのような言動は不適切極まりないことはいうまでもない)。

 ところが、今回のコロナ危機は、この「最下層の受け皿」ともいえるサービス業を直撃している。その際にもっとも影響を受けるのが、もともと労働市場で差別され、サービス業の非違正規雇用に集中している(若年層を中心とした)「女性」なのである。

 岡村隆史の発言は、このような「受け皿」(水商売が失業者の「受け皿」となっている構図自体が非常に問題であることは強調してもし足りないが)すら崩壊し、深刻な貧困が蔓延しているという深刻な状況をも、まったく無視しているのだ。

 実際に、労働相談の現場では、「ホステスの仕事をしているが、コロナの影響で出勤を減らされ、日払いのお金も不安定。仕事の掛け持ちも考えているが、雇ってもらえるか不透明。水商売の人は生活保護を受けられないのか」といった相談も多い。

 コロナ危機のこうした「下層を直撃する」という性質を考えると、今回の危機はリーマンショック期よりもさらに深刻な貧困問題を引き起こす可能性がある。「雑業」さえ参入の余地がないとすれば、「働いて何とかする」という道は、ほとんど限られてくるからだ。したがって、今回は生活保護などの社会保障制度が、かつてなく重要な状況になっていくだろう(そもそも日本の社会保障が適切に運用されていれば、岡村氏が「期待」するような「不本意な水商売での就労」が当たり前になることはないのである)。

 参考:コロナで「お金」に困ったときに使える制度 様々な制度の「使い方」を解説する

制度のはざまに置かれたケース

 他方で、この状況に対応するべき福祉制度の不備も、すでに目立ってきている。

 一つは、制度の「はざま」に置かれてしまうことで困窮しているケースが出てきているということである。実は、今コロナで「仕事が見つからない」という人たちは、コロナ流行前に失業しているため、コロナの影響による減収とはみなされず、コロナ特例貸付などの対象にはならないのだ。

 具体的に「はざま」に置かれているのは次のような人たちだ。

大阪府、30歳男性、3人世帯、公営住宅

 調理師として働いていたが、帰る時間が遅く、体調面や子どもと触れ合えないので自分から昨年12月に辞めた。今月末に雇用保険が15万円ほど入る。仕事を探しているが、コロナでハローワークが起動していない。4月の支払いがきつい。

東京都、女性、4人世帯、持ち家

 パソコン仕事で首を痛めて頸椎症になったため、1年前にSEの個人事業主を廃業。その後、日雇いなどで働いていたが、最近はコロナの影響で仕事が見つからない。実家の住宅ローン、本人のカードローン(離婚調停の裁判費用で借りた)、光熱費の支払いが厳しい。携帯代は2ヶ月滞納している。

 一つ目の事例は、前職の長時間労働が原因の退職と、雇用保険の低さから仕事を探さざるを得ない事情がある。二つ目の事例は、フリーランスで労災補償や失業保障がないという問題が指摘できる。「平時」にはこうした問題があっても何とか(飲食店などに)転職を成功させることで「解決」してきたが、すでにみたように、コロナの影響で、それが不可能となってしまったのだ。

 また、コロナ感染拡大を防止する目的で実施された一斉休校によって、子どもがずっと家にいるために、普段は給食によってまかなっている食費などがかさみ、生活苦に陥るケースも寄せられている。

 例えば、高知県の生活保護を受けている母子家庭の女性は、子どもが5人いるが、コロナによる一斉休校で家におり、光熱費や食費が通常より多くかかり、保護費だけでは足りないという。

 こうした情況も、「コロナ対策」の枠からは漏れてしまうため、解決することができない。

福祉制度が適切に運用されていない

 生活に困窮したために、すでに自ら制度を活用しようと動いている方からも相談が寄せられている。まず、多くの方が活用を検討するのは、上述の「コロナ特例貸付」だ。

 コロナ特例貸付では、コロナの影響で減収となった時に2種類の貸付を利用できる。1回20万円以内を貸し付ける「緊急小口資金」と、単身で月15万円以内、2人世帯で月20万円以内を、原則3ヶ月を限度として貸し付ける(つまり、最大45万円または60万円)「総合支援資金」である。ともに無利子で保証人不要だ。

 しかし、現実には、現場の運用によって制度の活用を妨げられているケースが少なくないのが実情なのだ。「緊急時」の生活支援のはずが、受付してもらえるのが1ヶ月後や2ヶ月後と言われてしまう事例が多発している。

 また、申請手続きがとにかく煩雑で、申請書とともに、離職票、公共料金の領収書、住民票、印鑑証明といった書類まで求められている。特に、住民票と印鑑証明は役所で手続きしなければならず、取得に料金がかかる。そのため、同じく手続きが煩雑な生活保護でさえ、提出を求めない書類なのである。

 中には「消費者金融もあるでしょ」と追い返されてしまったケースもあり、「福祉制度」として機能していないケースも多いのが実情なのである。

 参考:"緊急"なのに「6月に来て」 生活保護よりややこしいコロナ特例貸付の問題点

 さらに、最後のセーフティネットである生活保護の現場で、申請者を追い返す「水際作戦」の被害にあったというケースも寄せられた。

 埼玉県の男性はアルバイトで生計を立てていたが、コロナの影響で仕事が激減。消費者金融で200万円の借金、奨学金の支払いもあるが、両親が連帯保証人のため自己破産できない。両親とは仲が悪く勘当されている状態。所持金が1万円程度になってしまったため、生活保護の窓口に行ったが、借金の自己破産をしないと難しいという虚偽の説明を受けて追い返されてしまったという。

 「平時」にも頻繁に餓死を引き起こしている「水際作戦」だが、今回のように「なんでもいいから働く」という道が閉ざされてしまっている中では、さらに深刻な事態を引き起こすことは間違いない。

 参考:コロナでも「親を頼れ」 仕事が見つからず、餓死、病死者が蔓延の恐れも

生きていくためには声を上げていかなければならない

 今回の相談事例の分析を通じて、コロナ危機によって働くことができなくなる人たちは「失業者の受け皿」であるサービス業に集中しており、直ちに貧困状態に陥ってしまう人たちが膨大に存在することが改めて確認された。

 また、こうした「仕事を見つけて何とかする」ことが難しい状況では、生活を保障するため、福祉制度が重要になることも明らかだ。

 しかし、適法に運用されていない制度もあれば、休業手当のように制度が活用されなかったり、制度そのものに限界を抱えるものもある。あるいは、制度のはざまにあり、活用できる制度がないという場合もある。

 国も指導をしたり制度を拡充したりはしているが、上の状況は簡単に解決するものではない。現状を放置していると、感染症による死者だけでなく、ホームレスや餓死者が大量に発生してしまいかねないのである。

 私たちは、コロナ危機で生活を脅かされている人たちの生存権が守られる社会をつくるため、相談支援活動を行っている。生活に困っている方はぜひご相談いただきたい。

「新型コロナで生活に困った方の福祉制度活用ホットライン〜生活保護・社協貸付・住居確保給付金〜」

日時:5月6日(祝)18時〜21時

電話番号:0120-987-215(通話料・相談料無料、秘密厳守)

通常の相談窓口

電話:03-6693-6313

メール:seikatsusoudan@npoposse.jp

受付日時:水曜18時〜21時、土日13時〜17時、メールはいつでも可

*社会福祉士や行政書士の有資格者を中心に、研修を受けたスタッフが福祉制度の利用をサポートします。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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