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コロナで「お金」に困ったときに使える制度 様々な制度の「使い方」を解説する

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
画像はイメージです。(写真:アフロ)

 新型コロナの影響が社会全体に広がり、経済に深刻な影響が生じているなかで、仕事がなくなったり収入が減ったりして、生活をするための「お金」に困っている方が多いと思われる。

 今月25日には、新型コロナの影響により収入減少があった世帯の資金需要に対応するため、生活福祉資金貸付制度における特例貸付の受付が開始された。一時的な休業や失業等により生活に困っている方たちに対して、当面の生活を維持するための資金を貸し付けてくれる制度である。以下に細かく紹介するように、多くの人が利用できる貸付制度になっている。

 このように、政府や各自治体がコロナ関連で様々な施策を打ち出しているが、一般の方には、自分がどの制度を使えるのかが分かりにくいのではないだろうか。実際、NPO法人POSSEの相談窓口には、このような制度に関する相談も多く寄せられている。

 ここでは、そんな方のために、個人が「お金」に困ったときに使える制度について紹介していきたい。今回新たに設けられた制度だけでなく、既存の制度についても紹介していきたい。

緊急小口資金【主に休業している方が対象】

 まず紹介するのが、生活福祉資金貸付制度における緊急小口資金だ。以前から存在する制度だが、新型コロナの感染拡大を踏まえて特例貸付が開始され、貸付対象が拡大されている。

 以下のとおり、新型コロナの影響で収入が減り、一時的に資金が必要な方に緊急の貸付が実施されている。

貸付上限額  10 万円以内

学校等の休業、個人事業主など、特定の場合は20万円以内

貸付金交付  申請から交付まで1 週間程度(東京都の場合)

  • 据置期間  1年以内
  • 償還期限  2年以内
  • 保証人   不要
  • 利子    無利子

 特例貸付の対象は、「新型コロナウイルス感染症の影響を受け、休業等により収入の減少があり、緊急かつ一時的な生活維持のための貸付を必要とする世帯」とされている。

 通常は10万円が貸付の上限とされるが、特定の場合は20万円となることもある。給付ではなく貸付であるため、毎月一定額を返済する必要があるが、利子は発生しない。

 すぐに返済することが困難な場合は1年以内の据置期間(返済が猶予される期間)が認められる。償還期限(返済開始から返済終了までの期間)は2年以内とされている。

 申込み先は、お住まいの地域の市区町村社会福祉協議会だ。貸付には審査があり、申込みの際には、収入の減少を確認するために給与明細や預金通帳等が必要になる。

 細かい取扱いについては各地域で異なる可能性があるため、まずは各都道府県の社会福祉協議会のホームページをご確認いただき、必要に応じてお住まいの地域の市区町村社会福祉協議会に問い合わせていただきたい。

 なお、一時的な休業を余儀なくされた方で、勤め先から休業期間の賃金が支給されていない場合、状況によっては勤め先に対して賃金や休業手当を請求できることがある。そのような方は以下の記事もご参照いただきたい。

〔参考〕「6割しか請求できない」は嘘? 休業時の生活保障に関するQ&A

総合支援資金(生活支援費)【主に失業された方が対象】

 生活福祉資金貸付制度における総合支援資金(生活支援費)も貸付対象が拡大されている。以下のとおり、新型コロナの影響で失業するなどして生活に困窮している方が生活を立て直すために、安定的な資金を貸し付ける制度となっている。

貸付上限額  

二人以上世帯:月額20万円以内

単身世帯:月額15万円以内

貸付期間   原則3か月以内

  • 貸付金交付 申請から交付まで最短20日(東京都の場合)
  • 据置期間  1年以内
  • 償還期限  10年以内
  • 保証人   不要
  • 利子 無利子

 特例貸付の対象は、「新型コロナウイルス感染症の影響を受け、収入の減少や失業等により生活に困窮し、日常生活の維持が困難になっている世帯」とされている。

 単身世帯では毎月15万円、二人以上世帯では毎月20万円を上限に貸付が行われる。貸付期間は原則として3月以内だ。

 毎月の返済は必要とされるが、利子は発生しない。すぐに返済することが困難な場合は1年以内の据置期間(返済が猶予される期間)が認められ、償還期限(返済開始から返済終了までの期間)は10年以内とされている。

 また、今回の特例措置では償還が免除されることもある。厚生労働省のプレスリリースには、「償還時において、なお所得の減少が続く住民税非課税世帯の償還を免除することができることとし、生活に困窮された方の生活にきめ細かに配慮する。」と記載されている(具体的な要件については未決定)。

 申込み先は、お住まいの地域の市区町村社会福祉協議会だ。貸付には審査があり、申込みの際は、収入の減少を確認するために給与明細や預金通帳等が必要となるほか、東京都の場合、失業・離職等を確認できる書類(離職票、廃業届、源泉徴収票等)などが求められるようだ。

 また、この制度を利用するためには、原則として、自立相談支援機関(自治体等に設けられた、生活にお困りの方を支援する相談窓口)による生活の立て直しに向けた継続的な相談支援を受けなければならない。

 こちらも、細かい取扱いについては各地域で異なる可能性があるため、まずは各都道府県の社会福祉協議会のホームページをご確認いただき、必要に応じてお住まいの地域の市区町村社会福祉協議会に問い合わせていただきたい。

 なお、厚生労働省が各都道府県に示した運用に関する問答集によれば、上記の2つの貸付制度の対象には学生アルバイトや外国籍の方も含まれる。

〔参考〕全国社会福祉協議会の資料

〔参考〕新型コロナウイルス感染症を踏まえた生活福祉資金制度による緊急小口貸付等の特例貸付について(Q&A)(全国社会福祉協議会ホームページより)

〔参考〕「給料大幅減で困窮」外国人労働者対象の電話相談(2020年3月29日 NHK NEWS WEB)

雇用保険制度

 ここからは、既存の制度のうち、今回の事態を受けて生活不安に直面した方が使える可能性がある制度について紹介していく。

 勤めていた会社が経営不振に陥り、仕事を辞めざるを得なくなった方は、一定の要件を満たせば、雇用保険の基本手当(いわゆる失業手当)を受給できる。雇用保険は、労働者が失業したときに、失業中の生活を心配することなく新しい仕事を探すことができるようにするための給付を行う制度である。

 一般の離職者の場合、離職の日以前の2年間に11日以上働いた月が12か月以上あることが受給の要件となっている。ただし、倒産・解雇等によって離職を余儀なくされた場合は、離職の日以前の1年間に11日以上働いた月が6か月以上あれば、受給資格を得ることができる。

 失業手当を受給する上で注意していただきたいのが、離職後に会社から交付される離職票に記載される離職理由だ。離職票の記載内容によって、失業手当の支給開始時期や支給期間が変わってくる。離職理由を「自己都合」とされてしまうと、3ヶ月の給付制限の対象となってしまい、給付を受けられるようになるまで時間がかかってしまう。

 新型コロナの影響が原因で会社が経営不振に陥り、退職勧奨を受け入れて離職した場合、通常は「会社都合」退職になるが、会社が離職票に事実と異なる記載をすることがある。このようなことがないように、退職の合意をする際には、離職理由を「会社都合」とするよう会社に求める必要がある。

〔参考〕離職されたみなさまへ(厚生労働省パンフレット)

住居確保給付金

 

 住居確保給付金は、離職又は自営業の廃業により経済的に困窮し、住居を喪失した方や住居を喪失する恐れのある方に対して、家賃相当分の給付金を支給することにより、住居及び就労機会の確保に向けた支援を行う給付制度である。

 申請日において65歳未満であり離職等の日から2年以内であること、世帯の収入や所有する金融資産が一定額以下であること、ハローワークに求職の申込みをし、誠実かつ熱心に常用就職を目指した求職活動を行うことなどが支給要件となっている。

 支給期間は原則3か月とされ、状況によっては最長9か月まで延長される。その期間の家賃相当額が給付されるが、支給額には上限があり、地域や世帯人数によって異なる。

〔参考〕家賃払えない人など支援「住居確保給付金」活用を呼びかけ(2020年3月29日 NHK NEWS WEB)

 なお、生活困窮者自立支援法に基づく支援にはこの他にも様々な制度がある。次の資料を参考に、自分が利用できる制度を探してみるとよい。

〔参考〕失業・住居喪失等の状況から生活再建をめざす方へ(東京都社会福祉協議会の資料)

 また、今回の事態を受けて、政府の要請に基づき、公共料金、電話料金、税金等の支払いを猶予する動きが広がっている。猶予が認められるためには申請が必要な場合があるため、支払う余裕がない方は電力会社、ガス会社、通信事業者などに問い合わせていただきたい。

〔参考〕<新型コロナ>公共料金支払い猶予要請 政府、困窮者を支援(2020年3月19日 東京新聞 TOKYO WEB)

生活保護制度

 

 様々な事情から上記の制度を利用できない方や、上記の制度を活用しても困窮状態から抜け出せないという方もいるだろう。資産や貯金がなく、家賃も支払えないというような場合には生活保護を申請できる。

 世帯人数、年齢等に基づいて計算された世帯の「最低生活費」と、実際の世帯収入を比較し、後者が前者を下回れば、その差額が生活保護費として支給される。

 自分は生活保護に頼るほどではないと思う方も多いかもしれないが、経済の状況は深刻さを増しており、現在苦しい状況にあるのであれば、これ以上厳しい状況になる前に利用を検討した方がよいこともある。

 役所の窓口で申請を拒否したり、嘘の説明をして追い返したりする「水際作戦」によって申請を諦めてしまう人もいるが、このような不当な対応に遭った場合は支援団体に相談してほしい。「水際作戦」を阻止するために申請への同行を行なっている支援団体もたくさんある。

〔参考〕もはや「身近な制度」 非正規雇用のための生活保護入門

〔参考〕「生活保護制度」に関するQ&A(厚生労働省)

困ったときには早めの相談を

 気をつけていただきたいのは、お金に困ったからといって、簡単に借りられる銀行カードローンなどに安易に手を出さない方がよいということだ。返済能力を超えた過剰融資や高金利によって、気づいた時には返せる限度を超えてしまい、自己破産する人も多い。

 ここで紹介したように、安心して利用できる様々な公的制度があるので、まずは行政機関や支援団体に相談するなどして情報を集めるようにしていただきたい。

 また、深刻な生活困窮に陥らないためには、早期に対処することが重要だ。自分の力でなんとかしようと思っているうちに、家賃を滞納してしまったり、借金が膨らんでしまったり、あるいは無理をして身体を壊してしまったりすると、深刻さが増してしまう。そうならないためにも、生活に困ったら早めに支援団体を頼ってほしい。

生活困窮に関する無料相談窓口

NPO法人POSSE

電話番号:03-6693-6313(月・水・金18〜21時、土日祝13〜17時)

メール相談:soudan@npoposse.jp

*社会福祉士及び研修を受けたボランティアスタッフが、全国からの相談を受け付けています。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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