「退職代行」でトラブル大発生! より「賢く」退職する方法とは
この春、「退職代行サービス」を利用する若者が増加しているとして、複数のメディアで相次いで報道されている。利用者の中には、今年新卒で入社したばかりの若者も多く含まれているという。
退職の理由としては、「入社前に伝えられた労働条件と実際の労働条件が異なっている」、「希望していた部署に配属されなかった」など様々であるようだ。明らかに労働者を騙していたり、賃金未払いやハラスメントが横行していたり、この会社にいても自分の将来が見えないような会社を辞めたいと思うのは、いまや当然のことだろう。
退職を決意したとき、退職代行サービスは確かに便利かもしれない。しかし、退職先の会社が巧妙な退職妨害をしてきた場合や、有給休暇や未払い賃金、さらには慰謝料などの有利な条件を引き出して退職したい場合、退職代行業者はまったく役に立たなかったという相談事例も少なくない。
どのような場合に退職代行業者がうまく使えない場合があるのか、より「賢く」退職したい場合はどうしたらいいのかを紹介していこう。
退職代行サービスを使ったら「損」をしてしまった事例
筆者が代表を務めるNPO法人POSSE や、連携している労働組合「総合サポートユニオン」には、退職の労働相談や退職代行サービスのトラブルなどの相談が寄せられている。
特に退職代行サービスを利用したにもかかわらず、思ったように辞められなかったというケースはあまり知られていない。例えば、このようなパターンがある。
有給休暇を希望した日までに使わせてもらえない
Aさんは、使える有給休暇の日数が残っていたので、全てを消化できるように逆算して退職日を指定して、退職代行サービスを利用し、退職先に伝えてもらった。ところが退職先の会社が、有給休暇の申請は同社では2週間前までに行うことになっていると主張。退職代行業者はこの主張をそのまま伝えてきた。さらに、退職代行業者は会社に対して妥協するように提案をしてきてため、不本意ながら同意してしまった。
確かに、労働基準法には使用者側に有給休暇の取得日の変更をする「時季変更権」が定められているが、退職時に時季変更権を行使することは基本的に認められない。同様に申請が直前であろうとも、会社は有給休暇の使用を認めなければならない。しかし、このケースでは退職代行業者が、違法な会社の要求に妥協するように積極的に促してきたのだ。
最終月の賃金を「手渡し」にする
Bさんは退職代行サービスを利用して、会社を辞めようとした。すると会社は、いろいろと話したいことがあるので、退職するときは面談をして、最終月の賃金は普段どおりの振り込みではなく、そのときに手渡しで払うことになると伝えてきた。Bさんは二度と会社と直接のやり取りをしたくないから退職代行サービスを利用したはずだったが、退職代行業者は「最終月の賃金をほしいなら、直接賃金を受け取りに行ってほしい、それができないと退職月の賃金は払われないそうです」とBさんを突き放した。
このように、退職月の賃金をいわば「人質」にとって、退職先企業が不利な条件を突きつけてきた際に、退職代行業者が安易に譲歩を促してくるケースは多い。なお、この退職代行業者はホームページで、このサービスを利用すれば、退職先企業とのやり取りは一切不要と宣伝していた。
ほかにも、残業代が正確に払われていなかったり、ハラスメントがあったため、慰謝料を請求できないかと退職代行業者に相談したところ、断られてしまったというケースもある。
退職代行サービスの「限界」とは?
なぜ、このような問題が生じてしまうのだろうか?
そもそも、弁護士以外の者が、報酬を得る目的で労働者本人に代わって法律に関わる問題を「交渉」することは、弁護士法第72条に違反する「非弁行為」にあたる。退職代行は、以前からこの「非弁行為」はないかと指摘されてきた。
そこで従来は、少なくない退職代行業者が、「あくまで労働者の退職の意思を会社に伝えるだけで、交渉はしない」という建前をとってきた。最近ではこの非弁行為の法的リスクを回避するために、退職代行業者のほとんどは「弁護士」や「労働組合」との連携という形式をとる「対策」を行っている。
弁護士との「提携」や「監修」をうたうことで、会社との交渉が必要な場合は弁護士に依頼するという体裁を整えるれが、「非弁行為」ではないと概観をとることができる。また、労働組合は、労働者が組合員になった場合に、労働組合がその組合員の労働問題について団体交渉を行うことができる。このため退職代行業者が、非弁行為という批判を回避するために、名ばかりの「労働組合」を装うケースが増加している。
しかし、実際には交渉には「手間」がかかる。こうした退職代行業者は、1人3〜5万円程度で利益を稼ぐビジネスモデルのため、退職先の企業と粘り強く交渉しているようでは、割に合わなくなってしまう。3~5万円の利用料ででもめごとに巻き込まれれば、弁護士に支払う料金の方が高くなり、「赤字」になってしまうこともあるだろう。このため「交渉」が機能しておらず、ほとんど退職先企業の言うなりになってしまう退職代行業者が後を絶たないのだ。
有利な条件で退職する方法とは?
では、できるだけ有利な条件で退職するにはどうしたらいいのだろうか?
日本労働弁護団のように労働問題を専門とする弁護士による「退職代行」であれば、請求できる金銭を追求してくれるため、有効な選択肢になりうるだろう。
また、「名ばかり」ではなく、しっかりとした労働組合を利用して、会社と交渉をすることができる。会社の中にある社内組合ではなく、どのような会社で働いている労働者でも加入することのできる個人加盟のユニオンがおすすめだ。悪質な退職代行業者が提携するビジネス目的の団体ではなく、労働条件の改善を目的として活動の実績のある労働組合であれば、未払い残業代やハラスメントの慰謝料請求についても交渉し、退職先の会社からできるだけ良い条件の妥協を引き出すように取り組んでくれる。
ぜひ、これらの信頼できる団体を利用してほしい。
なお、総合サポートユニオンでは、次の日程で退職無料相談ホットラインを実施するそうだ。「就職した会社に疑問や不満があるが、辞めるほどのことなのかを知りたい」「会社を退職したいが、契約書や就業規則にいろいろと定めがあり、辞めて大丈夫なのか不安」などの相談も受け付けているようなので、気軽に相談してみてはいかがだろうか。
【日時】2024年5月5日(日・祝)13時〜17時、5月6日(月・祝)13時〜17時、
【電話番号】0120-333-774
※相談無料・秘密厳守
無料労働相談窓口
電話:03-6804-7650(平日17時~21時 日祝13時~17時 水曜・土曜日定休)
メール:info@sougou-u.jp
公式LINE ID: @437ftuvn
*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。
電話:03-6699-9359(平日17時~21時 日祝13時~17時 水曜・土曜日定休)
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公式LINE ID:@613gckxw
*筆者が代表を務めるNPO法人。労働問題を専門とする研究者、弁護士、行政関係者等が運営しています。訓練を受けたスタッフが労働法・労働契約法など各種の法律や、労働組合・行政等の専門機関の「使い方」をサポートします。
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*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。
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*「労働側」の専門的弁護士の団体です。
電話:022-263-3191
*仙台圏で活動する「労働側」の専門的弁護士の団体です。