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ホームレスが「過去最少」は虚構? 事実の隠蔽に対抗する社会調査の必要性

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
写真はイメージです(写真:イメージマート)

 4月26日、厚生労働省は今年1月時点の全国のホームレスの人数が2820人だったと発表した。これは前年比8.0%減少で、2003年の調査開始以来、過去最少である。初回の2003年には2万5296人であったことから、10分の1近くにまで「激減」しているのだ。この報道は、一時Yahooニュースのトップにも掲載されていたため、印象に残っている方もいるのではないだろうか。

 しかしながら、私が代表を務めるNPO法人POSSEを含め、生活困窮者支援を行う団体には住居を喪失した方からの相談が引きも切らず、ホームレスが減少したという印象は全くない。国の調査は本当に実態を反映しているのだろうか?

 本記事は、今回の厚労省の発表ではホームレスの本当の実態が反映されていないということを示していく。

ホームレスの定義が狭すぎる

 まず、国の調査の最大の問題点として挙げられるのが、ホームレスの定義が狭すぎるということだ。調査は2002年に制定された「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」(以下、ホームレス自立支援法)に基づいている。そこでのホームレスの定義は、「都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者」と定められている。「ホームレス=路上生活者」として定義していると言っていいだろう。

 しかし、住居を喪失している人たちは路上だけにいるわけではない。24時間営業のネットカフェ、ファストフード店、ビデオルームなどで寝泊まりする「ネットカフェ難民」や、友人宅に居候している人も少なくない。特に、若者や女性ではこの傾向が強く、「住居喪失者」の実態をより見えにくくしている。こうした人たちは国の調査の対象外なのである。

 実際に、2018年に東京都が公表した調査によれば、「ネットカフェ難民」(「インターネットカフェ等をオールナイト利用する住居喪失者」)は1日あたり約4000人いるという。この数字だけで国の統計上のホームレス数を超えている

 都調査によれば、「ネットカフェ難民」の多くは就労しているが、敷金などの初期費用を支払えないために住居を確保できず、ネットカフェや路上を日によって行き来していることがわかる。しかも、そのうち4.5%は正社員なのだ(東京都「住居喪失不安定就労者等の実態に関する調査」)。

 一方で、海外に目を向けてみれば、日本と異なるホームレスの定義を用いている。例えば、イギリスの公的なホームレスの定義は以下の通りである。

  • 占有する権利のある宿泊施設を持たない者
  • 家はあるが、そこに住む者から暴力の恐怖にさらされている者
  • 緊急事態のために施設に住んでいる者
  • いっしょに住むところがないために別々に暮らさざるをえない者

 この定義からすれば、路上生活者のみならず、「ネットカフェ難民」はもちろん、虐待・DVの被害者やシェルターに逃げ込んでいる人なども含まれてくる。

例えばPOSSEの生活相談窓口では、2022年度から2023年度にかけて10代〜30代の若者からの相談が3倍近く増加した。2022年度には267件の相談中78件だったのが、2023年度には519件中207件に増加しているのだ。

 若者からの相談の多くは、親から虐待を受けるなど家族関係が悪いか、病気や障害、労働環境の悪化により就労自立が困難であるため、友人宅への居候やネットカフェでの宿泊により、何とか実家を脱出しているというケースだ。

 こうしたケースは国の調査対象外であるが、住居喪失者であることは明らかである。ホームレス=路上生活者と狭く限定せずに考えれば、日本のホームレス問題は統計に現れない広がりがあるはずなのだ。

施設への収容

 次に、厚労省は自治体の支援事業がホームレスの減少につながったとしているが、それ自体はおそらく間違っていない。重要なのはその内実である。

 まず、前述のホームレス自立支援法に基づく支援事業がある。自立支援センターという施設における緊急一時保護事業と自立支援事業があり、前者は2週間程度食事を提供しながら相談支援を行い、自立支援事業につなげていく。後者はハローワークなどと連携しながら実際に就労し、アパートの初期費用を貯めていくというものだ。

 今年3月の東京都の資料によると、それぞれの利用者は630人、469人となっている。ピーク時の2010年にはそれぞれ3165人、1389人であることから、これだけを見ると国の調査と傾向は変わらないように思われる。

 対照的に入所者数が増加しているのが、主に生活保護受給者が入所する「無料低額宿泊所」だ。厚労省が実施した「無料低額宿泊事業を行う施設の状況に関する調査結果について(令和2年調査)」によると、16397人が入所しており、路上生活者の5倍以上である。

 無料宿泊所への入所は、路上生活をしていた人たちが「雨風をしのげる屋根のある場所」に入ることができ、状況は改善していると思われがちだ。だが、相談じれからは必ずしもそうとはばかりは言えない現実も見えてくる。

 相談者の証言によれば、部屋は個室でなかったり、個室と称していてもワンルームの部屋をベニヤ板で仕切っているだけだったりする(1人あたり2畳程度)。南京虫やダニが湧いた施設もあるという。

無料低額宿泊所の室内(相談者提供)
無料低額宿泊所の室内(相談者提供)

 さらに、食事は古い米が多く、揚げ物ばかりだったり、毎日同じものばかりだったり、と評判がよくない。しかも原価に見合わない高額な食費を徴収されているなど、保護費のほとんどを徴収され、手元に1、2万円程度しか残らないという。また、食事、風呂、清掃などの集団生活が辛いという人もいる。

 全てがこのような環境ではないにせよ、窓口で選択の余地を与えてくれることはほぼない。その時に空いている施設を紹介されるだけだ。見たこともない施設に急に入れられるのだから、不安を感じる人も多い。

 無料低額宿泊所の入所者数の約77%は首都圏の一都三県に集中しており、年齢層は65歳以上が約46%と約半分を占める。入所期間は3年以上が37.4%で最多、1年以上〜3年未満が24.4%と次に多く、1年以上の長期入所が約6割を占めている。就労自立が困難であるために、自立支援センター利用ではなく生活保護受給に至った高齢者層が長期入所しているのではないかと推察される。

ホームレスを可視化する

 以上をまとめると、次のようになるだろう。(1)若者や女性を中心に、路上ではなくネットカフェや友人宅での居候状態が多く、国の調査の対象外である。(2)国が調査対象としている路上生活者の多くは無料低額宿泊所に収容されていると推測される。その環境は劣悪であることが少なくない。

 これでは、ホームレス問題が改善したとは到底言えないのではないだろうか?

 そもそも、貧困をはじめ社会問題は、告発や提起を通じて初めて認識され、社会的対策が講じられるものであった。資本主義社会における貧困は、元来個人の道徳的問題とみなされてきた。そのため、イギリスの救貧法において、働ける貧民はワークハウスに収容されて過酷な労働を強制され、働けない貧民も劣悪な救貧院に収容された。

 それに対し、ブースやラウントリーの「社会調査」により、イギリスに膨大な貧困層が存在し、その背景に不安定就労や低賃金の問題があることが明らかにされた。こうして貧困は社会問題として認識され、イギリス福祉国家の起点となる20世紀初頭の「リベラル・リフォーム」と呼ばれる一連の社会立法(老齢年金や失業保険など)にもつながった。

 上述のホームレス問題は見えやすい路上生活者が減ったことから、問題自体が改善しているように覆い隠されている。それだけでなく貧困もまた、日本で見えなくなっているのではないだろうか。インフレによる生活困窮は拡大していると思われるが、個人の家計のやり繰りの問題としてばかり扱われている。

 日本でも、相談活動やアウトリーチなどによって、私たちPOSSEも含めたさまざまな支援団体が貧困者やホームレス状態の人たちと常日頃接点を持っている。日常的に行われている一人ひとりに対する支援だけではなく、貧困やホームレスを社会に可視化させていくために、研究者と連携した支援団体による本格的な調査活動が求められている。

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*筆者が代表を務めるNPO法人です。社会福祉士資格を持つスタッフを中心に、生活困窮相談に対応しています。各種福祉制度の活用方法などを支援します。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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