厚労省が異例の「反論ツイート」を連投! 「補償無き休業ではない」は本当か?

(写真:アフロ)

 4月12日、厚生労働省の公式ツイッターが、次のように情報発信を行なった。

 「ヤフーニュースなど、インターネットニュースサイトで、「補償なき休業要請」との報道があり、外出自粛や出勤者の最低7割減は、休業補償がないと不可能だと報じられていますが、正確ではありません。正しくは以下のとおりです」。

 

 この後、厚労省は連続ツイートで、会社が労働者に休業手当を払った場合に国が会社に支払う雇用調整助成金の特例措置を中心に、企業に対する制度支援を紹介している。

 筆者はここ連日、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、企業による休業手当と雇用調整助成金について解説し、問題点を発信してきた。厚労省が名指した中には、筆者の記事も入っているのかもしれない。

 そうであるとすれば、厚生労働省による「正確ではない」という「反論」は、残念であると言わざるを得ない。筆者は厚生労働省の雇用調整助成金の政策が更新されるたびに、「正しく」伝えてきたつもりである。そのうえで、制度の課題を指摘してきた。

 本記事では厚労省の「反論」も精査したうえで、改めて雇用調整助成金の特例措置と、その課題について、実例を交えながら説明していきたい。そして、「休業補償」のために必要な権利行使の方法と、新しい制度の必要性について、考えてみたい。

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雇用調整助成金の改善点と限界(4/10時点)

 冒頭に紹介した厚労省の連続ツイートでは、「休業補償」の具体的内容については、「政府は、事業者の資金事情を支えるための助成を実施しており、事業者がこれを活用して、従業員に休業補償を十分にできるような雇用調整助成金の特例制度も始まっています。是非ご活用ください」とかかれているのみである。

 では、その「雇用調整助成金」による対策は十分なものなのだろうか?

 雇用調整助成金は、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた経営者に、労働者の休業手当を支払わせ、雇用を維持するために支給される助成金である。新型コロナウイルス感染拡大に伴う特例措置として、その対象の拡大や支給要件の緩和がされてきた。

 まず、この「拡充」の経緯を確認しておこう。

 3月28日に発表された特例措置の主な内容は、企業が労働者に支払った休業手当に相当する額に対する助成金の割合が、通常の2/3(中小企業)・1/2(大企業)から、9/10(中小企業)あるいは3/4(大企業)に拡大した(解雇等をしていない場合/金額の上限は対象労働者1人1日当たり8330円)。また、雇用保険に加入していない週20時間未満勤務のパートやアルバイトなども新たに対象になった。

 4月10日にも特例措置の追加発表があった。職業に関する知識・技能・技術の習得や向上を目的とする教育訓練を実施した場合には、雇用保険被保険者に対して、これまで上乗せで1200円を支給していたところ、2400円(中小企業)・1800円(大企業)が支給されることになっている。自宅でインターネット等を用いた教育訓練も対象になっている。

 同時に、申請書類の簡素化を図ることも発表されている。申請に際しての記載事項が約5割削減され、記載事項の簡略化、添付書類の削減などがなされるという。これらを通じて、申請から支給まで、これまで2ヶ月以上かかっていたところ、1ヶ月を目指す方針を厚労大臣が明らかにしている。 

 このように、申請から支給までの遅さや、手続きの煩雑さについては、一定程度修正されている。実際にこれまでよりスムーズな運用がなされることを期待したい。

労働組合による助成金利用の要求を受けて、中小企業がコロナ「解雇」を撤回

 しかし、それでもなお、課題は残っている。

 まず、労働者に企業が支払った休業手当に対して、企業に全額を助成せず、上限が残ったままだ。不可避的に「持ち出し」が発生するため、休業手当の支払いに難色を示す企業は少なくないのである。

 また、企業が労働者に休業手当を支払ってからでないと申請できないため、実際に企業に資金がなく、休業手当が払われない場合もある。

 さらに、雇用調整助成金の制度枠組みそのものの限界が残されている。それは、あくまで助成金の申請をするのは、会社であるということだ。企業が助成金を申請してくれないという労働相談は非常に多い(末尾に無料コロナ労働相談窓口)。

 確かに、厚労省の言う通り、雇用調整助成金は大幅に緩和されており、ぜひ活用してほしい。だが、厚労省がツイートで否定している「補償なき休業要請」も、企業がなかなか助成金をつかっていない(使わせる強制力がない)という状況では、労働者にとっての「現実」なのである。

政策の「不備」を補う労働組合

 一方で、このような「政策の不備」を補っているのが、労働組合(ユニオン)による、労働組合法に基づく団体交渉だ。

 実際に、雇用調整助成金の特例措置の利用によって、中小企業が休業手当を支払い、当初の解雇予定を撤回したケースもある。一例として、下記の記事でも言及した、製菓会社の解雇事件のその後の経緯を紹介しよう。

 参考:政府の助成金を使って「コロナ解雇」を回避してほしい 声を上げ始めた労働者たち

 4月4日、コロナウイルス感染拡大の影響による生産減少のため、勤めていた会社から解雇通告を受けた40代の男性正社員Aさんが、個人加盟の労働組合・総合サポートユニオンに加入し、雇用調整助成金の利用と解雇撤回を要求して、同社に団体交渉の申し入れを行った。

 同社では、両国国技館(大相撲は春場所が無観客開催、夏場所は開催の可否を検討中)や上野動物園(2月末からゴールデンウィーク明けまで休園中)など、長期的に来客が途絶えることになった都内有数の観光施設に売店を構えて、力士や動物をかたどった草加せんべいを製造・販売し、重要な営業先としていた。

 Aさんは3月中旬に会社から突然退職勧奨を受け、「退職しないなら4月で解雇にする」と迫られていた。

 その後、労働組合の要求から1週間も経っていない4月10日に会社が回答し、雇用調整助成金を利用したうえで、当面のあいだAさんを解雇しないことが認められた。

 具体的には、コロナウィルス感染による雇用調整助成金の特例措置の対象期間である6月までの雇用維持を認めたという。Aさんは「粘り強く交渉して行けば道は開けると実感しました」と話している。

 会社によれば、当初の方針を変更した理由は、労働組合から雇用調整助成金の利用を求められたことで、改めて具体的に助成金の内容を検討し、Aさんを解雇しないことが可能だと判断したからだという。

 このように、雇用調整助成金の特例措置によって、当面の解雇回避を求めることは可能である。しかし、このケースでも重要な点は、労働者が個人的に、助成金の利用した雇用維持を要望していたにもかかわらず、会社が当初聞き入れなかったことである。

 雇調金を申請するよりも、労働者を解雇してしまったほうが、「楽」だと判断してしまう中小企業は少なくない。もちろん、解雇回避の努力を尽くさない整理解雇は無効だし、会社都合の休業には休業手当を払う義務がある。

 とはいえ、休業を実施するのかも、雇用調整助成金を申請するのかも、企業が判断する。つまり、助成金の利用は、結局会社の判断任せになってしまう。ここが、雇用調整助成金制度の構造的な限界である

 労働組合の団体交渉は、企業側に誠実に応諾する義務が課せられている。労働組合の「権利」によって雇調金の利用を要求していくことが、この政策が効果的となるための条件なのだ。

労働者の申請だけでいい「みなし失業制度」の適用を!

 とはいえ、わざわざ労働者が企業に助成金の利用を要求すること自体がまわりくどいのは事実だ。そもそも、コロナウイルスの感染拡大という大規模な経済的危機を前に、なかなか企業が申請をしないために労働者が生活に困窮してしまうような制度は、「休業補償」として構造的な限界があると言わざるを得ない。

 ここで筆者は、国に新たな制度の適用を求めたい。

 それは、労働者個人が直接申請できる「みなし失業」ともいうべき、雇用保険の特例措置である。一時的に休業している労働者に対し、実際に離職をしていなくても失業手当を支給するという特例のことだ。すでに東日本大震災や昨年の台風19号の被害でも同様の措置が取られており、被害を受けた事業所に雇用されていた労働者を救済するための制度だ。

 失業手当を受けるためには、事業主から交付された「休業票」をハローワークに提出する必要があったが、東日本大震災当時の厚労省のQ&Aには「確認書類がない場合でも、御本人のお申し出等で手続を進めていただくことができます」とあり、柔軟な対応が取られていたことがわかる。

 企業からすれば、ハローワークに「休業証明書」を提出し、「休業票」を労働者に交付するだけで良い。また、企業から「休業票」の交付を受けられない労働者についても、東日本大震災の時と同じように柔軟な対応によって救済を図ることにより、「会社が申請しない限り制度を利用できない」という課題を克服することができるのではないだろうか。

 一刻も早い感染対策が求められる中では、少なくとも緊急事態宣言に伴う「休業要請」に応じて休業した事業者が雇用する労働者については、この特例を適用してもよいのではないだろうか?

 いずれにせよ、感染拡大の防止のために知恵を絞らなければならない。私たちもできる協力はおしまない。私たち現場の支援者・研究者の声に厚生労働省にはぜひ耳を傾けていただきたい。

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