『第二の我が家を守りたい』23歳と22歳の女子クライマーが新型コロナ禍で見せた心意気
「大切な場所が苦しんでいるのに、手をこまねいて見てるだけなんて……」
ボルダリングジムやクライミングジムが、苦境に立たされている。新型コロナウイルスの感染拡大にともなう緊急事態宣言と休業要請によって客足は遠のき、宣言解除後も依然として苦しい状況が続いている。
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そうしたクライミングジムを救うべく、各クライミングジムが制作するTシャツ販売や、クラウドファンディングサイトを利用した支援プロジェクトなどに、全国各地から多くのクライマーの支援が寄せられている。
これらのプロジェクトはクライミングジム発信のものがほとんどだが、ジムユーザーが立ち上げた支援プロジェクトがある。それがクラウドファンディングサイト『CAMPFIRE』を利用した『SPORT CLIMBING MIYAGI / 宮城県クライミングジム支援プロジェクト』(期限:6月29日)だ。
発起人は23歳の田端真依さんと、22歳の佐藤涼香さん。会社勤めを終えた後にクライミングを楽しむ社会人クライマーだ。
プロジェクトを立ち上げた経緯を田端さんは次のように明かす。
「新型コロナウイルスの影響でホームジムのお客さんが減って、ジムオーナーがすごく悩んでいたんです。私に何かできることはないかと思ったときに、九州のクライミングジムが行ったクラウドファンディングを見て、『これだ!』と思って、佐藤に声をかけたんです」
九州6県41のジムが協力した『KEEP CLIMBING / 九州クライミングジム存続支援プロジェクト』は、566人の支援者を集めて5月31日に終了したが、このプロジェクトがきっかけとなってクライミング界にはクラウドファンディングを活用した支援の輪が広がった。
田端さんからクラウドファンディングでの支援策の相談を受けた佐藤さんは、「乘った!って感じでした」と振り返る。
「全国のクラウドファンディングの支援プロジェクトや、支援Tシャツをつくる動きは知っていたんですけど、『やりたいな』で終わってしまうくらいの気持ちだったんです。
だから私は、クライミングジムが再開したら自分が登りに行けば、それだけでも支援というか、ジムの助けになるだろうと思っていました。でも、そんなタイミングで真依ちゃんから話がきて、『これは私も何か手伝わないと』って」
そうして支援プロジェクトは動き出したが、いきなり座礁しかけてしまう。企画を持っていったクライミングジムオーナーに「気持ちだけで嬉しいよ」と断られた。だが、田端さんは「逆に火がついた」と言う。
「私はこの4月から大学を出て社会人になったばかりだったので、『会社にも慣れてないんだから、無理しないでね』と言ってくれて。心遣いはありがたかったんですけど、それが悔しくて……。
社会人になったばかりで仕事はわからないことの方が多いし、その上、大事なクライミングジムのためにも役に立てない自分の無力さを思い知らされて。でも、それで落ち込むだけなのがすっごい嫌で。だから、断られたけど、私にできることはやりたくて、諦めずに説得したんです」
ふたりは宮城県内にある商業ジムを説き伏せ、『B’nuts仙台店』『B’nuts大崎古川店』『Zi:BOX』『MOMENT泉店』『MOMENT仙台南店』『Kotih』『BOLZ』の7店舗の協力を取り付けた。宮城県内にクライミング施設はほかにもあるが、彼女たちが県内の商業ジムに絞ったのは、自分たちを育ててくれた恩返しの気持ちもあるという。
「この7つのジムは『宮城県クライミング連絡会』というグループをつくっていて、国体強化選手などを支えてくれているんですね。私と佐藤も国体に出場したりして、高校生の頃からお世話になっているし、スポーツクライミングの選手たちにとっても連絡会のジムは本当に大事な存在なんです」
田端さんの言葉を受け、佐藤さんが続ける。
「私のメインのホームジムはB’nutsで、真依ちゃんはMOMENT泉とB’nuts仙台なんですけど、ほかのジムにも登りに行くことがあるし、どこかひとつだけ支援するとなっても選べない。全部のジムの助けに少しでもなりたいなっていう思いでした」
彼女たちの想いはリターン品にも込められている。10000円の支援に対してはジム利用回数券(7回分/期限1年)が支援者に贈られるが、これは7つのジムで1日利用券を1回ずつ使えるというもの。同じジムで7回使えない狙いを田端さんは、こう語る。
「リターン品が回数券に支援してくれるのは、宮城県内の人が多いと思うんです。県内に住んでいても行ったことのないジムはけっこうあると思うし、7つのジムにはそれぞれの良さがあるので、みんなに1度は足を運んでもらいたいんですよね。そのキッカケになってほしくて、ジムオーナーたちに回数券の協力をお願いしました」
『SPORT CLIMBING MIYAGI / 宮城県クライミングジム支援プロジェクト』の目標金額は100万円。だが、この目標額は社会人経験の浅い彼女たちの不安の表れでもある。CAMPFIREを利用した支援プロジェクトは当事者が立ち上げた場合にはサポートがあるものの、第三者が立ち上げた場合には手数料などが割高になる。そうした金銭面の不安から目標を低く設定したと田端さんは説明する。
「どれくらいの人が支援してくれるかわからなかったので、Tシャツのリターン数200枚を最低限の目標にしました。ただ、これだとTシャツ制作代などの経費を引くと、1軒ずつのジムに渡せる金額は大きくないんですね。
本当は200枚といわず、もっと多くの人たちに私たちがつくったTシャツを着てクライミングをやってほしいんです。期限内の支援なら、目標額を超えてもちゃんとリターン品はあるので、一度、支援プロジェクトがどういうものか見てください!」
「やりたいな」だけで終わらせない
その意気や良しを育んだ土壌
クラウドファンディングでの支援プロジェクトを思いついてからのふたりは、ジムオーナーを説得し、リターン品の交渉や制作の打ち合わせを重ねた。プロジェクトがスタートしてからは、7つのジムをまわりながら、それぞれのジムの雰囲気が伝わるようにとインスタなどでのPR活動も続けている。そうまでして彼女たちを突き動かすものは何か。佐藤さんは次のように語る。
「緊急事態宣言が解除されても、やっぱりジムには人が戻ってこなくて。仕事が終わってから行っても、常連さんはいるけれど、新型コロナ禍以前に比べたらまばらで。やっぱり私たちは活気のあるクライミングジムを取り戻したいんですよね」
田端さんが続ける。
「居場所を守りたいんです。自分の居場所だからというだけではなくて、ジムはみんなの場所で、みんなは身内みたいなもので、私たちにとってジムは第二の我が家だから、そこを守りたいと思うのは自然な気持ちなんですよね。
ジムって課題のおもしろさとか、自分が登れたかどうかとか、そういうのも大事ですけど、人とのつながりがあるから楽しいんだと思うんです。私は佐藤がいたら楽しいけど、もっと多くの人がいたらもっと楽しくなる。楽しければ、また登りに行くのが楽しみになる。
常連さんだけではなく、新たにクライミングを始める人とも、もっともっと出会って、クライミングの楽しさを分かち合いたいんです。自分にとって大切な場所を守るのは当たり前のことだから、考えるよりも先に行動に出られたんだと思います」
取材中に会話が脱線するたびに、ケラケラと笑い声をあげる田端さんと佐藤さん。彼女たちがクライミングジム支援プロジェクトを通して取り戻したいもの。そして、クライミングジムを通じて育まれたものが見えた気がした。
【クラウドファンディングでの支援プロジェクト】
- SAVE ミタカジム / 三鷹ジム支援プロジェクト(期限 : 6月28日/CAMPFIRE)
- 新型コロナウイルス対策支援プロジェクト / APEXクライミングジム(期限 : 6月29日/CAMPFIRE)
- SAVE OSAKA CLIMBING GYMS / 大阪クライミングジム支援プロジェクト(期限:6月29日/CAMPFIRE)
- SPORT CLIMBING MIYAGI / 宮城県クライミングジム支援プロジェクト(期限 : 6月29日/CAMPFIRE)
- PUSH UP HYOGO CLIMBING GYMS / 兵庫県クライミングジム支援プロジェクト(期限 : 7月30日/CAMPFIRE)
【Tシャツなどの物販での支援】
- 株式会社キャラバン/GYM AID Tee 販売
- クライミングバム/支援Tシャツ販売
- good bouldering/みらい優待券(Eギフトカード)販売
- JET SET Climbing Gym/支援Tシャツ販売
- ライノ&バード/再開記念Tシャツ販売
- ライムストーンクライミングクラブ/終息祈願 FUN CLIMBING Tシャツ販売
※ジム支援については日本クライミングジム連盟のFACE BOOKページが随時更新。