『ゴジラ-1.0』をアカデミー賞へ 東宝初の海外自社配給の仕掛け人が語る邦画北米進出
『ゴジラ-1.0』は、邦画実写史上最大規模となる2600館以上で北米公開され、最終興収は5641万ドル(現在の為替レートで約84億円)の大ヒット(2月1日で北米公開終了)。北米興収で歴代邦画実写1位、アジア実写映画1位、外国語実写映画3位となる記録的ヒットは、「第96回アカデミー賞」で邦画として初めての視覚効果賞受賞という歴史的快挙につながった。
その背景にあるのが、東宝が北米配給を自社で手がけたこと。2022年に発表した長期経営計画「TOHO VISION 2032」で、4つの成長戦略キーワードのひとつに「海外市場の開拓」を挙げていたなか、昨年7月に海外ビジネスを担う子会社TOHO Globalを設立。そして2023年12月1日、東宝の北米配給第1弾となった作品が『ゴジラ-1.0』だ。
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新会社を設立し東宝グループの海外事業を移管
記録ずくめとなった北米での展開を指揮したのが、TOHO Global代表取締役社長の植田浩史氏だ。植田氏は、現・東宝社長の松岡宏泰氏が取締役国際担当だった当時、国際部長として2017年に入社した。
それまでは、総合商社でエネルギーや製鉄プラント事業を手がけたあと、証券会社など金融業界でM&Aアドバイザーを務めた。ブラジル、香港、シンガポールなど海外勤務経験が豊富な海外ビジネスのプロフェッショナルとして東宝に迎えられている。
そして、昨年7月のTOHO Globalの設立に際して、それまで東宝の国際部が担っていた東宝グループの映像コンテンツビジネスにおける海外事業展開を移管。別会社として目指すのは、海外での自社配給をひとつの武器として、eコマースやファンコミュニティなども含めてファン層を拡大し、IPの価値を最大化すること。それを企業としてのガバナンスを効かせながら、スピーディかつダイナミックに事業展開していく。
その第1弾として大きな成果を残したのが『ゴジラ-1.0』だ。しかし、これはまだグローバルIP展開の第1歩。
植田氏は「IPの成長には、ローカルからグローバルになり、グローバルになったIPがそれぞれのローカルで作られるグローバルローカルという3段階があります。それが本当の意味でグローバル化です」と先を見据える。
アニメも視野に入れる今後の北米配給戦略
現在は、TOHO Globalの海外拠点は米ロサンゼルスにあるTOHO International, Inc.の1箇所になり、自社配給は北米のみになるが、この先にはアジア、欧米などへの進出を見据える。
今後、まずは東宝およびTOHO animationが海外配給権を持つ実写、アニメの北米配給を手がけていくでしょう。『ゴジラ-1.0』に次ぐ第2弾について植田氏は「狙っている作品はありますが、まだ決定としてお伝えできる段階ではありません」とする。
また、年間の日本映画の北米配給本数も気になるところだが、この先の設定について聞くと「配給事業単体でしっかり成立させることが重要なので、そのための計画を立てている最中です」(植田氏)。
今後の配給作品については、「今回の『ゴジラ-1.0』は、北米におけるゴジラファンの下地ができている状況でした。そこに山崎貴監督のすばらしい作品力の映画を投入することができたのが、成功の大きな要因です。
ファンの要望に応える視点でいうと、アニメもファン層が北米にありますので、そこに作品を届けることでさらに好きになってもらい、eコマースやファンコミュニティなどを含めて経済圏を拡大していくことができます。アニメも十分に配給対象になります」(植田氏)と語る。
将来的には、東宝グループ以外の独立系映画会社などの作品の北米配給もTOHO Globalが手がけていく可能性もあるかもしれない。その際には、当然ビジネス視点での選別があるだろう。その基準を植田氏に聞いた。
「我々がやるのは『届ける』『好きになってもらう』『満足してもらう』の3つをどうやったら北米市場で一番平均値高く求められるかということ。企画やIPごとに求められるものが異なるので、それぞれにとってのベストな売り方があります。
たとえば、原作のないオリジナル作品などは、ファン層の下地から築いていかなくてはならず、また作家性の高い文学的作品などは言語的、文化的通訳の難易度が高い。我々よりも、そういうジャンルに強い現地の配給会社のほうが合っています。
我々にとっては、北米でヒットするかよりも、ファンがどう受け止めるか、という文脈が大切になります」(植田氏)
海外配給ばかりが注目されがちだが、TOHO Globalが目指すのは現地でのIP価値の最大化。IPをどう成長させたかという視点で、これからの動向や成果に注目していきたい。
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