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眞栄田郷敦、セリフのない繊細な芝居で見せた名優ぶり 毎話心を揺さぶられる『366日』

武井保之ライター, 編集者
フジテレビ月9ドラマ『366日』公式サイトより

毎週、ラストの心温まるシーンに涙させられるフジテレビ月9ドラマ『366日』。第5話のラストは、事故による高次脳機能障害で記憶を失い、右半身に軽度の麻痺が残る水野遥斗(眞栄田郷敦)が、父・輝彦(北村一輝)からキャッチボールを誘われる。

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日常生活の動作が上手くできない失行症を患う遥斗だが、父が投げたボールをぎこちなくキャッチする。すると、ボールを投げるうちに、幼い頃の父とのキャッチボールを思い出し、家族の記憶がわずかに蘇る。

そのシーンの眞栄田郷敦の芝居に心を掴まれた。

何かに気づいたことを目の動きだけで示し、過去の記憶をさまよう様を表情で伝える。キャッチボールの相手が幼少期の父の姿から現在の父につながると、目が笑う。母・智津子(戸田菜穂)と妹・花音(中田青渚)を見る。

家族を思い出したことが、わずかにうれしそうに頬を緩める表情からじわりと伝わってきた。彼のセリフはない。ないからこそ、遥斗の全身から解き放たれる喜びの感情に心を揺さぶられた。

醸し出すオーラに得体のしれない怖さがある俳優

眞栄田郷敦の名優たる所以を目の当たりにした気分だった。

眞栄田郷敦といえば、内に闇を持つような海千山千の怪しさと、醸し出すオーラに得体のしれない怖さがある、クセのある俳優と感じる。近い俳優としては、柳楽優弥や村上虹郎が挙げられるだろう。

どちらかというと、正統派の好青年よりも、ひとクセある怪しい男や闇を抱える男などが似合う。『エルピス』(2022年)の過去の罪悪感に苦しみながら突き抜けていく若手ディレクター役や、NHK大河ドラマ『どうする家康』の偉大な父へのコンプレックスと苦闘する武田勝頼役では、彼らしい良さが存分に出ていた。

本作の遥斗は、誰からも信頼される物静かな好青年だったが、事故にあい記憶を失ってから変わる。苦しみ、悩み、生きることに苦痛を感じる彼がこれからどうなっていくのか。眞栄田郷敦が演じるから、寄り添って見ていたくなる。

第5話では、本作における最高の芝居を見せた。記憶がないことで本性がわからない不気味さのようなものをにじませながら、わずかな喜びを表情に浮かべ、これから先への希望の光を目に宿した。

難しい役どころだからこそ、彼の俳優としてのポテンシャルの高さを示していく作品になりそうな予感がある。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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